
WBCのチケット抽選が外れたぁ!それはそれとして、最近ブログも書けないでいた。
11月末まで肥後細川庭園のライトアップイベントひごあかりのスタッフバイトをしていて本を読む気にならなかったからという言い訳から入る。



肥後細川庭園というのは熊本藩細川家の下屋敷の庭で、椿山荘の隣、永青文庫と同じ敷地内にある。ここが東京で一番美しい庭園と思うのだが、池を中心に山を背にした高低差があり園内を山の上から小川が流れているという庭は(たぶん)都内ではここしかないからだ。小川は池を通って横を流れる神田川に流れ込む。


ひごあかりは熊本のプロデュース集団『ちかけん』が制作した竹あかりを使い、池周辺の紅葉を照らすライトアップにより所謂逆さ紅葉が楽しめる。
週末イベントとして山鹿灯籠踊りがあったりくまモンが来たり、賑わいがあって楽しいものでした。私は入口でのチケット確認などしていたのですが、立っている作業は寒いですね。
そんな仕事も終わり、手に取ったのはラウール・ホイットフィールド「グリーン・アイス」。
ホイットフィールドといえばダシール・ハメットと同時代にホレス・マッコイらと共にブラックマスク誌で活躍したハードボイルドのレジェンドである。私がホイットフィールドに感銘を受けたのは昔EQというミステリ雑誌に掲載されていた「ミストラル」という短編である。この話に痺れまくったのだ。地中海沿岸のホテルで調査員と組織に追われる男のやりとりで話は進む。神経に障る季節風ミストラルが吹き始めると…。余計なもののない引き締まった文体とスピード感。見事なラスト。創元推理文庫の「短編ミステリの二百年 2」に収録されているので気になる方はそちらでご確認を。
さて本題の「グリーン・アイス」。
恋人の代わりに事件の罪を被って刑務所に入ったアーニーは2年ぶりに出所した。しかし彼を迎えに来た恋人が射殺され、彼が頼りにしていた男も殺される。次に彼が訪ねた男も殺され、アーニーは自分がハメられたことに気付く。真相をつかむべくアーニーはギャングたちの中に自ら飛び込んでいく。
「マルタの鷹」の翌年、1930年に書かれた長編だ。チャンドラーより早い。ハードボイルド文体の極みハメットよりはチャンドラーに近い文体だ。ただ正直、長編では読みづらいところがある。感情描写がほとんどない文体でギャングがやたらと出てきて、またアーニーも警察もギャングも同じようなハードボイルドな、そして時に汚い言葉を使うから誰が誰だかわからなくなってくる。本丸は誰なのか。誰が敵なのか味方なのか。
「きみはこういう稼業がやめられないと思うよ。腐った稼業だが、それでもきみの稼業なんだ」殺す殺されるの中、アーニーは女と恋に堕ちる。「女に惚れるのはたいがいこんなときさ。まずいときに限って、惚れるんだよ」
こんな状況下でも恋をするのかとも思うが、これが日常のワルならばそうなるのだろう。そして洒落たラストに突き進む。
グリーンアイスとは宝石のエメラルドのこと。盗まれたエメラルドの取合いが争いの原因なのだ。
古臭さは否めない。ハードボイルドの傑作とまでは言わないが、読んでおきたい味のある小説である。