「みんなが行く分野は、必然的に賃金が下がる

それは、経済学の基本的なルールです」

野口悠紀雄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)という考えがある。

 

 

「政府が国債発行によって財源を調達しても、

自国通貨建てであればインフレにならない限り、問題ではない」という主張

ステファニー・ケルトン教授 ニューヨーク州立大学

 

 

国債の市中消化を続ければ、

国債発行額が増加するにつれ金利が上昇

 

 

これを避けるためには、中央銀行が国債を買い上げる必要があり

貨幣供給量が増加し、物価が上昇して、ついにはインフレになる。

 

 

MMTの理論は、「いくら国債を発行してもインフレにならない」のではなく

「インフレにならない限りいくら国債を発行してもよい」

 

 

最も重要な問題をはぐらかしている

いまのアメリカの状況を見ていると、

 

 

多くの人がMMTに対して抱いていた危惧が

そのとおりの形で現実に生じてしまった

 

 

新型コロナウイルスに対応するため

アメリカでも大規模な財政支出拡大策が取られた。

 

 

大量の国債発行を容易にするために、金融緩和に踏み切った

つまり、財政拡大と金融緩和を同時に、しかも大規模に行い

 

 

MMTが推奨する政策が実現した。

コロナからの回復が見通せる段階になって経済活動が復活すると、賃金が上昇し、

 

 

それが引き金となってインフレを引き起こしてしまった

現在のインフレは、これだけが原因ではなく

 

 

2022年の2月以降、ロシアのウクライナ侵攻によって

資源や農産物が値上がりしたことも、大きな原因

 

 

これによって、昨年の秋以降進行していた物価上昇が加速

日本では2022年までは、ホームメイド・インフレは起きなかった。

 

 

日本でもこの数年間で財政支出が拡大、金融緩和政策も継続

それにもかかわらずインフレが起きなかったのはなぜか?

 

 

いま日本では物価が上がっている。

2022年までについては、国内の要因によって起きたものではない。

 

 

第1には、アメリカのインフレのため

第2には、ウクライナ戦争で資源価格が高騰したため

 

 

その結果、輸入物価が上がったから

輸入されたインフレで、直接の原因は、海外

 

 

日本で大量の国債発行がインフレにつながらなかった理由は2つ

第1は、財政支出が需要を増大させなかったこと

 

 

コロナ対策の定額給付金は、消費支出を増やさず、

貯金を増やすだけの結果に終わった。

 

 

第2に、日本企業の生産性が向上しない状況が継続し

拡大策を行っても賃金が上昇せず、需要が拡大しなかった

 

 

日本でホームメイド・インフレが起きなかったから

MMTをやってはいけない理由

 

 

大量の国債発行を可能にするため、長期国債を大量に購入だけでなく

長期金利を人為的に抑えている。

 

 

その結果、アメリカの金利引き上げによって、日米の金利差が著しく拡大

このため、アメリカのインフレが日本に輸入された。

 

 

この意味において、国債の大量発行がインフレの原因になっている

長期金利は、経済の最も重要な価格の一つ

 

 

金利が経済の実態を表さなくなり、

資源配分が著しく歪められている。

 

 

財政規律がなくなってしまったのが、最大の問題

その結果、効果の疑わしい人気取り補助策が、次々と行われている。

 

 

国債発行を増やすという悪循環が生じ

経済全体の資源配分が歪められている。

 

 

これは日本経済の長期的なパフォーマンスを

劣化させることになるだろう。

 

 

 

 

コメ

 

 

①「インフレにならない限りいくら国債を

発行してもよいというのがMMTの理論」

 

 

②「しかし、アメリカでは賃金が上昇し、

それが引き金となってインフレをという弊害が起きた」 

 

 

③「しかし、日本では賃金が上昇せず、

大量の国債発行によるインフレの弊害は起きなかった」 

 

 

つまり、野口先生は日本では大規模金融緩和の弊害であるインフレは起きず、

その点においては問題は少なかったことを認めているのであるが、

 

 

ここまでは正しい分析だと思う。問題は後段である。 

 

 

④「日本でホームメイド・インフレが起きなかったからといって、

MMTをやっていいということにはならない」 と言い、その理由として 

 

 

⑤「資源配分が著しく歪められている」 ことを挙げているわけだが、

③までの内容と④以降の内容は論理的につながらず、

 

 

⑤についての説明がほとんどなく実例の提示もないため、

全体として説得力に欠ける内容となっているように思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

ランダル・レイ

The Causes of Pandemic Inflation

 

https://www.levyinstitute.org/pubs/op_70.pdf

 

 

「議会が増税なしで、総額5兆ドルにのぼる2つの歳出パッケージで対応、

その多くは 全世帯に小切手を郵送するという形をとった。

 

 

 MMT派はこのような政策に反対する~ ~

 

 

重要な点は、救済措置は、供給側の不足に直面して需要を回復させることよりも、

むしろ経済の供給側を回復・改善させることに重点を置くべきだ」

 
 

 

 

MMTを批判する以前に、MMT派の主張を野口は理解していない

もしくは理解しようともしていない、と言った方が正確だろう。

 

 

MMTがどうのと言うより前に

彼の米国経済の分析が、曖昧模糊としていて、分析になっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

前年比の PCE インフレ率に対する供給主導型および需要主導型の寄与

 

 

 

ディマンド・プル・インフレ、つまり需要牽引要素は三分の一で

コスト・プッシュ・インフレ、供給要因が約半分

 

 

その他は、曖昧となっている。

 

 

 

主要なPCE インフレ率に対する供給および需要主導の要因の寄与

 

 

 

A. 供給主導の貢献

 

 

 

B. 需要主導の貢献

 

 

 

年換算した月次インフレ率の寄与

 

 

年換算した月次インフレ率への寄与

 

 

 

 

コロナ発生時のインフレ率の低下は、需要要因の減少だったが、

2021年3月のインフレ率の急上昇は、需要要因の増加によるものだった。

 

 

この期間中、公衆衛生策から始まり、

21年3月米国救済計画でさらに加速

新型の増加で減速、沈静化した秋に需要再開

 

 

供給要因は、2021年4月から出始め、

経済再開の反応が出遅れている。

 

 

供給主導のインフレはそれ以降高止まり、加速

この加速は、ウクライナ侵攻に関連するものを含む

食料とエネルギー供給の混乱に起因している。

 

 

結論

 

供給要因がPCEインフレ率の上昇分の

半分以上の原因であることを示す。

 

 

部分的に、継続的な労働力不足による供給の制約と

コロナとウクライナ戦争に関連する世界的な供給の混乱を反映

 

 

需要要因は約3分の1しか説明できておらず、

需要・供給どちらにも分類できない要因も重要な役割を果たしている。

 

 

これらの結果は、需要以外の要因が約3分の2を占めていることを示し、

経済に対するいくつかの危険性を浮き彫りにしている。

 

 

供給ショックは価格を上昇させ、経済活動を抑制するため、

供給関連の要因が蔓延すると、

低成長と高インフレの時期に入る危険性が高まる。

 

 

 

この危険性は、労働力不足と世界的な供給の混乱が

どれぐらい続くかに大きく依存し、非常に不確実である。

 

 

 

アダム・ヘイロ・シャピーロ サンフランシスコ連邦準備銀行

 

 

 

 

こういうものが、ちゃんとした分析であり

野口の批判は、まず分析がちゃんとなされてからされるべきもの

 

 

分析もできていなければ

批判する糸口すら見つからないではないか。

 

 

こんなことは初歩の初歩であって

子どもの読書感想文じゃあるまいし

 

 

そんなこといっては、子どもに失礼か

子どもだって、もっとまともな感想文を書く。

 

 

 

 

 

参考文献

中野剛志さん「世界インフレと戦争」P88

 

 

世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道(幻冬舎新書)