今日は久しぶりにピアノ曲。シューベルトのピアノ・ソナタ
ト長調 D.894(作品78)「幻想」を聴いた。
恐らく雑誌のレコード評か何かを見て買ったものだろうが、
その時に一度は聴いたかどうか、それすら覚えていない。
録音データを見ると1970年とあり、新譜を早々に買った
でないにしても、35年くらいも棚に眠ったままのレコード。
シューベルトのリートを聴く度に、私はピアノ伴奏が非常に
優れていると思っているくせに、ピアノ・ソナタには全く無縁
であったのは自分でも不思議なくらい。
今回このソナタを聴く気になったのは、先日も書いたが
ブログのためと言っていいだろう。
もの静かに始まる。あまり旋律的でなくて、つぶやくように。
それは暗くて重く、憂鬱な感じである。
長い主題提示は反復される。
すると突如、強奏に転じる。冒頭のつぶやくようなリズムで
展開部の開始だと分かる。
強奏なので、これまでの気分に悲劇性が感じられる。
展開部の後半は静かになって、そのまま再現部である。
全体として、精神的に深い悩みを表したような音楽である。
第2楽章も静かに始まるが、幾分苦悩は和らいだような
安らぎを感じる。旋律らしくもあって、第1楽章が幻想的
なのに対して、この楽章はより歌謡的である。
しかし、荒々しい強奏部分が現れて苦悩の波が押し寄せる。
この2つの部分が反復され、最後は冒頭の旋律に戻って
終わる。
第3楽章はメヌエットだが、前述の強奏部分の旋律から派生
したように聞こえて激情的である。
中間部は対照的に静か。この「トリオの部分が光っている」
と解説にあるが、一回聴いただけではそうとは分からずに、
あっさり済んでしまった。
第4楽章 「シューベルトの最も苦手な部分」とあるように、
全体から見ると、軽い音楽。 即興的な楽想に聞こえるが、
精神的内容に乏しい。単純な反復の旋律が多い中で、短い
ながら中間部の趣きを面白く聞くことができた。
全体を通して、レコードの一面全部を使った第一楽章に最も
深い印象を、そしてそれに次ぐ第2楽章と共に、この2つの
楽章の叙情性が印象に残るソナタであった。
演奏:ウラディーミル・アシュケナージ(LP盤)