ミルトン・エリクソンの生涯をみると、本当に催眠トランスに入る達人なのがわかります。
他者に催眠をかけるってどういうことでしょうか?それは催眠をかける方の人が先に自分で自己催眠にかかることなのです。
実は大抵の人は(というかあらゆる人は)催眠にかかった経験があるのです。
たとえばすごく喜んでいる人と一緒にいると嬉しくなったり、反対にすごく悲しんでいる人と一緒にいるともらい泣きするという経験は誰でもあると思います。
人間は基本的に他者の感情に同調するようにプログラムされているのです。ですから本気で何かの感情に浸っている人といると、自然に同調します。
それは催眠にかかることときわめて似ている(というか現象としては同じ)ことなのです。
たとえばカルト宗教の教祖というのは、心の底から自分が救世主だったり、イエス・キリストや仏陀の生まれ変わりだと信じています(信じていなければ単なる詐欺師ということになります)。
深く信じ込んでいる人って、強烈な感染力がありますから、側にいる人たちを容易に巻き込んで同じことを信じるようにさせます。それは催眠とまったく同じことです。
もっとも優れたセールスマンは、自分の売る製品が最高だと信じ込んでいる人です。ですから例えば、自分の信頼している友人が本気で薦める商品は買う可能性がぐっと高くなるのです。
その昔、SF商法というのが世間をにぎわしたことがありました。これは地域の人たちをどこかの場所に集めて布団やら発明品を売るのですが、誰かが買い始めるとそれに連鎖して熱に浮かされたようにみんな買い始めるのです。
後で冷静になると、なんであの時こんなつまらないものを買ってしまったんだろうと後悔することになるのですが、催眠トランスの力はそれほどすごいのです。
以上の例からわかるように、他者に催眠をかけることの上手な人は、まず自分から催眠状態に入るのです。そしてその感染力を使って、他者に影響を与えていきます。
その意味で、ミルトン・エリクソンは究極の自己催眠の達人でした。でもそうなったのにはそれなりの理由がありました。
彼は前に書きましたように、17歳でポリオに罹りましたが、その後遺障害によって生涯身体的に苦しみました。
自分の身体的リハビリテーションと苦痛を軽減するため、エリクソンは自己催眠を使いました。身体の障害と苦痛は激烈で過酷なものであったため、その自己催眠は本当に効果のあるものである必要がありました。
そこまで追い詰められた状況であったからこそ、彼はあれほどの催眠の技術を身につけられたのだと言えると思います。
もっとも同様の状況にあるほとんどの人は催眠の達人にはなりませんから、エリクソンにもともと傑出した天分があったことは間違いないことです。
しかし、彼が催眠の技術を磨く上で彼の逆境が決定的に大きな役割を果たしたこともまた事実だと思うのです。
エリクソンがあのような人生を送ったことには、天からの配剤があったように私は考えています。
医学とか臨床心理学という分野に納まらずに、彼が発見し開発していった技術は、これからの人類の意識進化にとって決定的に重要な役割を果たすでしょう。