No.097 2022.8.9(火)

牟田口廉也とインパール作戦 日本陸軍「無責任の総和」を問う/関口高史/光文社新書/2022.7.30 第1刷 1080+10%

 防衛大学校教官で准教授、現在予備役の1等陸佐である軍司研究家。経歴だけを見るとバリバリの軍歴なので分析力に優れた軍略家なのだろう。

 

 インパール作戦。実に雨季のビルマ戦線で日本の敗北を決定付けた『無謀極まりない死の行軍』、『三万人の犠牲者を出した計画なき行軍』等と言われて来たことは朧気ながら記憶にある。

 無能の司令官としての牟田口廉也の名前は、知らなくても。

 兵站に支障のある軍隊は滅びる。これはもう大原則。軍隊は1つの生き物なのだ。全てを自己完結すべき生き物で、衣食住まるごと「自前で持ち運び」出来なければ常に補給を受け続けなければ、行動結果はでない。

 

 本書で「行った先の食い物を分捕る」のはちょっと作戦とは言えないのではないか。武器でさえも、相手からぶんどる事が大前提では、戦う前に既に負けている。

 

 と言うような事をずっと思いつつ読む。

 

 丹念に指揮官・牟田口の行動や生い立ちから軍歴を追いかけ、何故、牟田口はあのような作戦に拘り推進し破れたのかを立証する。

 そこから浮かび上がってきたのは、日本軍の「性格」だった。『無責任の総和』としての結果が先の戦争での敗戦原因となったと言う。

 緻密に調べ上げた証拠を元に、一人の軍人が謝った独断を行わなければならない『日本軍の姿』を明らかにしていく。

 

—内容紹介を引く……

 約3万人の死者を出した、悪名高い「インパール作戦」。この負け戦を指揮した陸軍中将・牟田口廉也はそれまで、日本陸軍を代表する「常勝将軍」と呼ばれていた……。作戦はどのような経緯を経て実行され、なぜ失敗に至ったのか? 数々の思惑がぶつかり合ったインパール作戦は、「牟田口=悪」という単純な図式には回収できない。牟田口の生涯を追い彼の思想や立場を明らかにしつつ、作戦が大本営に認可されるまでの様々な人物・組織による意思決定の過程を分析する。こうした緻密な作業から見えてきたものは、牟田口という人間、そしてインパール作戦の持つ複雑性だった。……

 

—目次より

序章 陸軍のメカニズム(「任務重視型軍隊」と「環境重視型軍隊」/巨大な組織の宿痾 ほか)/第1章 牟田口廉也の実人物像(生い立ち/陸軍でのキャリア)/第2章 インパール作戦認可までの経緯(情勢の変化に翻弄された作戦/阻害要因の克服 ほか)/第3章 再評価(インパール作戦/牟田口廉也)

 

著者の関口高史(セキグチタカシ)氏は、1965年東京都生まれ。軍事研究家。元防衛大学校戦略教官・准教授。防衛大学校人文社会学部国際関係学科、同総合安全保障研究科国際安全保障コース卒業。安全保障学修士。陸上自衛隊入隊後、第1空挺団、陸上幕僚監部調査部(情報運用)、研究本部総合研究部(特命研究・陸上防衛戦略)、防衛大学校防衛学教育学群戦略教育室での勤務を経て現職。予備1等陸佐。とある。軍事分析の専門家としての抜群の力量の持ち主でこれからの活躍が楽しみだろう。

 

 それにしても、膨大な資料を読み解きここまでの論文にする力量はただ者ではない。

 素晴らしい成果ではないだろうか。

 ★★★★★