日本経済の『かくも長き異様』 | 東京リーシングと土地活用戦記

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 2007年3月期の上場企業の決算に伴う株主総会は、買収防衛策をめぐる攻防や各種の企業不祥事など話題性には欠かないが、収益状況は4期連続で過去最高を更新しているから、大波乱もなく終わりそうだ。そこで、日本経済は新年度(07年度)がいよいよ本格的に始動する。日本経済は実質国内総生産(GDP)伸び率(年率)が07年1-3月に3.3%と順調な成長軌道にあり、「いざなぎ越え」の息長い景気上昇過程をたどり、表面的には順風満帆だ。しかし、株価(日経平均)は年初来の最高値を更新はするものの、天井は相変わらず重い。景気も依然として「勢い」がいまひとつだ。一体、日本経済はどうなっているのか。

まずは3つの「異様」を直視せよ

 政府自身もダブルスタンダードの景気判断を平然と続けている。「デフレ脱却宣言」を拒否する一方で、景気はいざなぎ越えの戦後最長を更新しつつあると公言もしている。確かに、消費者物価指数(生鮮食品を除く)の対前年同月比はここ2、3、4月、▲0.1%、▲0.3%、▲0.1%と水面下にあるから、デフレ圧力というか下方圧力が日本経済になお居座っている。一方、実質GDP成長率(年度)は03、04、05、06年度と4年連続で2%台にある。では、日本経済はGOODなのかBADなのか、一体どっちなのか。

 日本経済をめぐるこうした二様の判断が不確実性を広げ、株価の逡巡(しゅんじゅん)や利上げ観測の交錯など、市場全体を不透明な霧に包み込む。市場関係者は目まぐるしい日々の金融変数(金利、株価、為替など)の変化に一喜一憂し、その都度過敏に反応する性向があるから、日本経済や景気の方向性にますます不透明感が増す。だが、一歩下がって市場の底流を探れば、日本経済の「異例さ」というか「特異さ」について改めて考えさせられる。日本経済に的確な見通しを持ち、適切な処方せんを施すには、正しい経済診断書や景気カルテを書かかねばならない。それにはまずもって、日本経済の「かくも長い異様」の実体を再確認しておく必要がある。

 この「異様」とは大略、次の3つだ。第1は異常に長いゼロ%台の超低金利水準、第2は1985年秋以来、20数年ぶりの円安水準、そして第3は「勢い」に欠く長い景気上昇過程だ。

第1. ゼロ%台の「超低金利」常態化という異様

 最初はゼロ金利水準だが、日銀が前代未聞の量的緩和策に踏み切り、政策金利を完全なゼロ水準に張り付けたのは、2001年3月だ。日銀はやっと06年3月に量的緩和策を解除、次いで同年7月にゼロ金利を解除し政策金利を年0.25%に引き上げた。そして、政府・自民党のあからさまのけん制のなかで、07年2月に政策金利をやっと0.5%まで引き上げた。

 一方、米国の政策金利は5.25%、欧州連合(EU)の政策金利は4.0%だ。欧米との4.75%~3.5%の金利格差もさることながら、日本の金利水準はいまなお0.5%と、ゼロ%台の異常状態にあり、3回目の0.25%の利上げ如何(いかん)に市場関係者が神経を集中、市場は超過敏になっている。この8月に利上げがあったところで、0.75%の異常な超低利水準であることに変わりはない。4~5%水準での金利変動を論議する欧米に比し、いまなお0~1%以下での水準でしか論議できない日本の有り様は、「金利差」問題を超えて、日本の金融市場の「異様」を際立たせる。

 長い金融史をみれば、政策金利や基準金利はおおむね3%以上が一般的であり、3%以下は「非常時」のごくまれな事例にとどまる。それが日本では長きにわたって1%以下で逡巡(しゅんじゅん)しているわけだから、日本の金融市場は特異状態にあると認識してしかるべきだ。

 日銀が基準金利(公定歩合)ならびに政策金利(無担保コール翌日物金利)を1%以下にしたのは、1995年9月からだ。問題は06年3月に量的緩和策解除で「非常時脱却宣言」をしたものの、依然としてゼロ%台から脱却できないままでいることだ(現在は公定歩合が0.75%、政策金利が0.5%)。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)など新興経済群の資源・資材需要の増大や世界成長の持続などもあって欧米でのインフレ懸念が高まり、6月中旬に米国の長期金利は5.29%と高水準をマークした。このため、日本の長期金利も2%の大台に迫るなど、金利局面に反転の兆しがうかがえるものの、日本の金利水準は年内はゼロ%台(政策金利で0.75%~1%)にとどまる公算が大きい。長い目でみれば、日本の金利がゼロ%台脱却過程にあることは確かだが、その速度は異常なほど緩慢なのだ。この超低金利状態の「異様」をわれわれはまず、自覚しておかねばならない。


危機感なき「超円安」依存の異様

 第2の「異様」は、為替相場が1985年秋のプラザ合意以来、21年ぶりの円安水準にあることだ。これは15通貨の加重平均の実質実効為替レートでみたものだ。個別通貨でみると、対ドルは1ドル=123~124円と125円台は近いし、対ユーロに至っては1ユーロ=166円前後と170円が射程に入ってきた。「円安=輸出増=景気拡大」という単純な方程式で株式市場は円安を歓迎なり好感するが、これはあまりに短絡的発想ではないか。

 こうした円安で企業の輸入物価指数は21年ぶりの高水準にあり、販売価格に転嫁できないところは収益減に見舞われ始めている。また、円安で外貨建て資産を組み込む投信はブームと化しつつあるが、これは2点で注意が必要だ。1つは慣れない個人投資家が円安持続のもとで為替リスクを忘却してしまうこと、2つは円安の長期化は円から外貨への逃避行動を促進させ、結果として「円からのエクソダス(大脱走)」という中南米型キャピタルフライト(資本逃避)をもたらさないか。

 円安依存とは結局、日本の産業構造の転換を遅らせ、オールドインダストリーである重厚長大型産業の温存につながる。この結果、日本は21世紀の世界経済のもとで、競争優位を構築する機会を失っていく。

 問題は、現下の異常な円安水準について、政策当局も経営者も市場もほとんど「危機感」を持っていないことだ。まさに、前回指摘したように、円安は「媚薬」で日本経済や産業の基盤を徐々に、しかも確実にむしばむものなのだ。この「異常さ」というか「異様」にわれわれはそろそろ覚醒(かくせい)する必要がある。

そして戦略不在の「パワーレス・エコノミー」の帰結は?

 第3の「異様」は、戦後最長の今回の「いざなぎ越え景気(新いざなぎ景気)」の「勢いのなさ」、すなわちパワー不足だ。

 政府の正式見解では2002年2月から今次の景気上昇局面は始まっている。確かに、03、04、05、06年度の4年度連続で実質GDP成長率は2%台に乗る。だから、胸を張って「デフレ脱却宣言」を発してしかるべきだが、政府はこれをちゅうちょしたまま。日銀もゼロ%台から金利を解き放てず、決断できない状態を託(かこ)ったままだ。デフレ後の日本経済を新成長軌道に乗せるとの大義について、政府や経済界さらに言論界も重々承知、納得しているが、戦略的政策が不在のままである。

 だから、イノベーションとか生産性上昇とか産業再生とか地域活性化などのキーワードは言葉として大々的に踊るが、それらは結局「念仏」や「スローガン」の域を出ず、頼みの綱はゼロ%台の超低金利政策維持ならびに円安依存そして民間活力となる。むろん、今回の「新いざなぎ景気」の主軸は「民間活力」の復元にあり、今後もこれに最大の期待が託せる。

 ただし、「民間活力」を今後全開させていくには、戦略的政策や施策さらにビジョンが不可欠だ。だが、現状をみれば、存在するのは「ビジョン」ではなく、「空念仏」であり、「戦略的政策」でなく「円安依存」と「ゼロ%台の超低金利策」だけである。これが「GOODでも、さりとてBADでもない」との「新いざなぎ景気」の奇妙な正体なのである。

 ゼロ%台金利、20数年ぶりの円安水準、そしてパワーレス・エコノミーといった日本経済の「かくも長き異様」にまず、われわれは覚醒し、自覚しておかねばならない。
超低金利策や円安依存に頼る限り、この「異様な経済」が今後も持続し、その果てには「マネー・エクソダス(資金の大脱走)」および「競争力の枯渇」が待ち受けているのではないか。


■関連用語: 買収防衛策/実質GDP/デフレ/いざなぎ景気/消費者物価指数/ゼロ金利政策/量的金融緩和/金融政策/EU(欧州連合)/公定歩合/コール/BRICs/長期金利/プラザ合意/ユーロ/投資信託(投信)



千葉商大大学院 教授

斎藤 精一郎氏
(さいとう・せいいちろう)

略歴

 '63年東京大学経済学部卒業後、日本銀行勤務を経て、'72年立教大学社会学部助教授、'75年4月~'05年3月まで立教大学社会学部教授、 '05年4月から千葉商科大大学院教授(金融論・コーポレートファイナンス)。'91年よりNTTデータ経営研究所所長を兼任、現在に至る。

 専門の社会経済学・経済政策・金融論を中心にエコノミスト・社会経済学者として幅広い評論活動を展開している。

 主な著作

* [新「成長経済」の構想](日本経済新聞社)
* [ゼミナール現代金融入門](日本経済新聞社)
* [10年デフレ](日本経済新聞社)
* [マネー・ウオーズ](PHP研究所)  

(2007.6.27 日経ビズプラス)

 景気が良くなってきたと、政府、マスコミ報道などで、感じる昨今ですが、どうでしょうか???