バリトン・サックスのレコードが大好きになったのには理由がある。 | 続・公爵備忘録

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ジャズ・オリジナル盤の音質追及とエリントンの研究。

バリトン・サックス奏者がリーダーになったレコードは、アルトやテナーと較べると極端に少ない。バリトンは基本的に脇役だから、少ないのは当然ではあるけれど、すごく魅力的なレコードがある。

今日はその魅力について語ってみたいと思います。



Serge Chaloff


Serge Chaloffは全部集めた。その中でも一番のお気に入りがこのレコード。

本盤はChaloffの傑作と評価されていて、『唯一のワンホーン作品だから』とか、『ピアノがSonny Clarkだから』とか、評論家みたいな解説はあるけれど、最大の魅力はジャケットの素晴らしさだと思っている。

秀逸なデザイン、Sergeを引っかけたタイトル、ジャケットの質感、すべてが素晴しい。

 

 

このレコードを初めて見たのは1980年代の終わり頃、新宿ジャズ館だった。カベの一番良い所に飾られたジャケットがあまりにキレイで美しく、しばらく見入ってしまった。お値段は58,000円。当時は1枚のレコードに出せる上限は1万円まで、と固く決めていたので、入手できるレコードではなかった。

しかしその時の強烈なインパクトが忘れられず、復刻版を2枚、その後オリジナルを3枚入手。今は一番盤質が良かった写真の盤を1枚だけ残しているけど、今でも廃盤店のカベに飾ってあると見入ってしまう。

正直に告白すると、写真の盤は渋谷JAROで『無傷のキレイな盤が欲しい』とダダをこねて、半年くらい探してもらった。お値段は約6万円。当時の相場は3万円くらいで、相場の約2倍だったけど、超お気に入りのレコードが最高の盤質で買えるのだから全く不満はなかった。

Serge Chaloffについては、以前に記事を書いたことがあるので、ご興味があれば参考になさってください。

 

 



Harry Carney


大好きなエリントン楽団の、主要メンバーだったHarry Carney。彼はエリントン楽団のレコードのほぼすべてに参加しているので、演奏が聴けるレコードは厖大にあるけれど、リーダー盤は少ない。再発を除けばLPは2枚だけ。

Harry Carneyは17才でエリントン楽団に入り、常にエリントンと行動を共にした。演奏旅行の時はエリントンの専属運転手として。エリントンの自伝によると『Harryはいつも静かで、作曲している時や考え事をしている時に邪魔しない』というのが、エリントンがHarry Carneyと一緒に行動した理由らしい。

エリントン楽団に入ったことはクラリネットとアルトサックスの担当だったけど、楽団のバリトン奏者がヘタだったという理由で、バリトンを買い求めて、あっという間にマスターしたという。

以降エリントン楽団のバリトンはHarry Carneyだけが担当するようになり、時にはクラリネット、バスクラ、アルトサックスを吹いた。テナーサックスも吹いたという話もあるけど、演奏は聴いたことがなくてわからない。

要するに、楽器演奏の才能に溢れていて、色んな楽器が演奏できたということ。

 

 

本盤はヒモ付きでメローな演奏。ジャズっぽさは少ないけど、Harry Carneyの魅力を十分に伝えていると思う。YouTubeの画像は、再発のVerve盤ジャケット。

彼のバリトンの特徴は低音域の強さ。分厚いリードを使って、強く吹き込むことで強い低音を出していると思われる。その低音が唯一無二の魅力になっていると思う。



もう一枚のリーダー盤はStanley Danceが企画した、エリントニアンをリーダーにしたシリーズ作品のひとつ。他にはPaul GonzalvesとHarold Ashbyがある。



Stanley Danceは最もエリントンと親しかった評論家で、エリントンと楽団メンバーたちを深く理解していたから、魅力を伝えるためのツボを押さえていて、彼が企画したエリントニアンのリーダー盤にはハズレがない。

 

 

本盤はその典型的なレコードで、Harry Carneyのリーダー盤ながらソロは少なく、他のエリントニアンたちのソロをふんだんに入れている。“御大抜きのエリントニアンのレコード”といった方が相応しいけど、所々でバンドを引き締めるHarry Carneyの役割が、いかにもStanley Dance監修という印象。



これはデンマークMetronomeが発売した、上掲と同内容のレコード。厳密には再発という位置づけで、音質的にオリジナルの英Columbia盤よりちょっと落ちる。でもジャケットが好きで、ぜったい手放さない。



さて、バリトン・サックスというとGerry Mulliganを外すわけにはいかない。

たくさんあるMulliganのリーダー盤の中で、一番のお気に入りはCalifornia Concerts。


このライブ盤は、導入部分のアナウンスに続いて始まるBlues Going Upで、最初のベースの音が魅力的。ズンズンズンという音が耳に残る。さあ聴くぞ、という気分にさせてくれる。あまりに好き過ぎて、CDも買ってクルマに入れていた時期もあった。

特にYardbird Suiteの演奏が大好きで、クルマではこの曲ばっかり聴いていたことを思い出す。
本盤は1954年のライブ録音ということを考えると、極めて高音質でオーディオ的な満足感も十分。

 

 

何年か前のこと、Jon Eardleyのインタビュー記事を見つけて読んでみたら、この録音に参加した経緯が書いてあった。Gerry Mulliganのバンドに参加することが決まって、オリエンテーションを受けに行ったら、マリガンからチェットの譜面を渡されて『覚えておいてね』という。たったそれだけだったとのこと。

その程度でもJon Eardleyの演奏はバッチリ決まっている。Jon Eardley、ハンパなくすごい。

良く売れたレコードなので、オリジナル盤は中古市場にたくさんあり、決して高価ではない。しかもオリジナルは高音質。ただ、愛聴されたゆえ傷んだ盤も多く、盤質をよく見極めて是非ともオリジナル盤を入手されたし。



Mulliganをもう1枚。


Pacific Jazz10インチ盤の最初のレコード。

最初からMulliganのピアノレス・カルテットは完成されていたことが分かる。たった1年しか続かなかったけど、非常に完成度が高いバンドで、MulliganとChet Bakerの名声は、この1枚で確立したと言っても過言でない。

全曲素晴しい出来で、本盤を入手した時はフレーズを諳んじるくらい繰り返し聴いた。

 


制作されたのが1952年ということを考えると、極めて高音質なレコード。本盤も非常によく売れたので、オリジナルは中古市場にゴロゴロある。探せば雑音のない盤もあるので、よく吟味して購入されることをオススメします。

オリジナルはジャケットの会社住所がSanta Monica、センターラベルは黒のツヤあり。ただ個人的にはセカンドのMelrose盤に興味があって、機会があれば(安くて盤質が良ければ)入手したいと思っている。

というのも、Pacific Jazz10吋盤はSanta MonicaとMelroseでは、マスタリングをやり直して音が大きく違っているレコードがあるから。本盤でも現物を聴き較べて確認してみたい。



Bob Gordonという夭折した天才。


彼の魅力を最も伝えているのがPacific Jazz10吋盤だと思う。

 


Gerry Mulliganのようにメロディアスなフレージング、Harry Carneyのような力強い音色、比類なく正確なフィンガリングとタンギング。

 

バリトンにおいて圧倒的な演奏技術を堪能する。それが本盤最大の魅力だと思っている。


オマケで欧州盤を2枚。



Transatlantic Wail


特定のリーダー・セッションではないけど、ジャケットが示す通りCecil Payneのリーダー盤だと思っている。トランペットのRolf Ericsonを知ったレコードでもある。購入価格は6,000円だった。20年以上前のことだけど。

オリジナルはたぶんスェーデンMetronomeのEPだと思います。筆者は3枚中1枚だけ入手して、このLPと聴き較べてみたところ、LPの方が音質的に良かったので、こっちを残しました。

内容はフツーのハードバップだけど、欧州ジャズを集めだしたキッカケになったレコードで、個人的な思い入れが強い。



Ronnie Ross


英国のバリトンというと、Ronnie Ross。

本盤は欧州ジャズらしい切れ味の良い演奏で、現代的なハードバップの演奏が楽しめます。

購入当時は欧州盤ブームで、3万円位だったですけど、今ならそんなに高くないと思います。