Tempoレーベルが、英国のブルーノートと例えられるのはナゼか。 | 続・公爵備忘録

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ジャズ・オリジナル盤の音質追及とエリントンの研究。

英国を代表するジャズ・レーベル、Tempo。

“英国のブルーノート”と呼ばれるくらい、最高級の評価を受けている。今日はその理由についてのお話。


英Tempoは米ブルーノートに似ているか?という問いがあったとすると、筆者の意見ではあまり似ていないと思う。

ブルーノートは数百枚のLPを発売したけど、Tempoの大半はSPとEPで、LPはわずかに43枚。11枚の10inch盤と、32枚の12inch盤だけ。しかもTempoはトラッド・ジャズが多くて、モダンジャズのレコードは10吋5枚と12吋21枚。たった26枚しかない。

ではブルーノート並みに音質が良いのか、というと、実はあまり良くない。音質でブルーノートと比肩するようなジャズレーベルなんて何処にもないから、比較するなんて無謀な話ではあるけど、DeccaとかNixaとか、英の他レーベルと比較しても音は良いとは言えない。


それなのにどうして“英のブルーノート”なのか?

結論を先に書くと、ジャズの熱気が溢れているから。Tempoのモダンジャズは、どのレコードもジャズの熱量が感じられる。

たとえばこのレコード。


(センターラベル上部は紫ですが、カメラのホワイト・バランスの問題で赤に寄っています)


Tubby Hayesの傑作にして、Tempoレーベルを代表するレコードのひとつ。

 

Tubby Hayesのフィンガリングとタンギングは正確無比。メチャ上手い。それはどのレコードを聴いても分かるけど、Tempo盤は熱量が伝わる録音・マスタリングになっていて、それがTempoならではの魅力になっていると思う。

ただ、残念なのはVibraphoneの演奏がつまらないこと。テナーで熱く盛り上がってきたところに、冷水を浴びせかけられるような感じ。

それでもテナーの魅力はそれを帳消しにするくらい素晴らしく、魅力あふれるレコードと言えるでしょう。

 

 

熱気が伝わるテナーの吹奏は素晴らしいの一言。百聞は一見(一聴)にしかず。聴いていただければ分かります。

 

音質的には並で、オリジナルと澤野盤で大差ありませんが、Tempoのレコードは熱い。そこが魅力だと思います。
 

コレクター的な話をすると、Tempoのオリジナル盤はバッキンガムコード(BUCKINGHAM)に則ってプレスされているので、初回プレスが分かります。マザー番号が1,スタンパーがBなら初回プレスです。

所有盤の場合、マザー番号は両面1ですけど、A面スタンパーがU(2番目のスタンパー)、B面がC(3番目のスタンパー)となっていますので、初回プレスではありません。

マイルスみたいな人気者なら、初回プレスのスタンパーも複数あって当たり前ですが、並のミュージシャンの場合そんなに売れないから、最初のスタンパーで充分な枚数がプレスできます。

 

2番目とか3番目のスタンパーが使われたのは、初回プレスの評判が良くて再プレスされた場合でしょう。所有盤は初回プレスから数か月後でしょうか。

 

筆者は盤質と音質を優先していて、初版にさほどコダワリがありませんが、初版重視のコレクターさんは注意してくださいね。

 

何回も書いていることで恐縮ながら、スタンバーの番号はほとんど無視できるくらい、音質には無関係です。スタンパー番号に気を配っている方はこちらを参照してください。

 

 

 

 

話を本線に戻して、Tubby Hayesです。
 

 

TAP15も人気があるレコード。Tubby's Grooveと同レベルの相場で取引されますけど、内容的にはやや落ちると思います。

というのも、Vibraphoneの出番が多くて、熱量が下がっている。その分名盤度も若干下がるかな。テナーの曲は良いですけど。

ちなみに所有盤のマザーとスタンパーは1/Bと1/Uで、初回プレスに近いと思います。

 

 

テナーは相変わらず素晴らしいのに、バイブの演奏がちょっと興ざめ。Ronnie Scottとテナー・バトルを追及して欲しかった。

 

 

次はVictor Feldman。

 

 

Victor Feldmanはモダンよりスイングに近く、モダンジャズのファンにとって内容の魅力度は薄いです。彼のバイブはミルト・ジャクソンとかレム・ウィンチェスターみたいなグルーブ感はなく、ラリー・バンカーみたいなスピード感があるわけでもない。

でもB面最後の曲ではVictor Feldmanはピアノで、トランペットのDizzy Reeceが参加して、モダンジャズらしい演奏。

 

 

ただ、このレコードはライブ録音なので、ナチュラル・リバーブが掛かって、演奏の熱気が伝わるのが良いところでしょう。ちょっとだけブルーノートに近づいた感じ?筆者はこの曲だけ聴きます。

刻印は1/B、1/B。初回プレス盤です。初回プレスしかないのかも知れませんが。

 


次はEddie Thompsonです。

 

 

本盤のジャケットにはAn Ember Records(International)Recordingと記載されていて、オリジナルはEmberのようです。でも廃盤相場はTempoの方がずっと高い。オリジナルより再発の方が人気が高いという不思議なレコード。

筆者もTempo盤を入手して、Ember盤を処分してしまいました。音質的にはTempo盤の方が若干太い音がするという印象です。ずいぶん昔のことで、あいまいな記憶ですけど。


刻印は1/U、3/C。

 

 

Eddie Thompsonはアクの強いピアニストなので、好き嫌いがあるでしょうけど、この頃はまだフツーです。筆者はそのアクが大好きで、一部の私家盤を除いて彼のLP・EPは全部集めました。

 

 

Blue Bogey。Tempoがブルーノートに例えられる、最大の理由はこのレコードの存在だと思います。



このレコードが持っている熱量は飛びぬけている。何と言ってもWilton Gaynairの吹奏が凄いのに加えて、リバーブを掛けた音質がそれを際立たせている。

テナーをこういう音質で鳴らすには、相当強く吹き込んでいたはず。人並み以上に肺活量がデカかったに違いない。ナマ演奏はどんな音だっただろう?当時の英国にスリップして生音を聴いてみたくなる。

 

 

力強く吹かれたテナーの音圧が、強めのリバーブ(エコー)でさらに強調され、本盤を大迫力のレコードに仕上げている。


レア度(つまりお値段)はTAP6とか27の方がずっと高くて、コレクター的な入手満足度はそっちの方が大きいだろうけど、リスナーとしての満足度はコレが一番だと思っている。


個人的な意見としては、このレコードがあるから、Tempoレーベルは英国のブルーノートと呼ばれるようになった、と言っても過言でない。

所有盤の刻印は1/C、1/C。




最後に、Tempoのトラッド。興味を持っている人はほとんどいないと思うので、ちょっとだけ。筆者は無類のトラッド好きだから、Tempoのトラッドは10吋・12吋とも全部持ってます。

Tempo12インチの最初、TAP-1


本盤はニューオーリンズ・スタイル。英国のトラッドは生真面目。本場の寛いだ演奏とは違って、一所懸命な感じで演奏しているのが英国らしい。


TAP-2

本盤はちょっと洗練された感じで、ニューオーリンズというよりディキシーっぽい。


TAP-3

 

小編成のスイングジャズ。英国ではモダンジャズと同時に、ニューオーリンズ、ディキシー、スイングが混在して隆盛していた。
 

Tempoのトラッドジャズは5千円~1万円で、モダンジャズと比べるとずいぶん安いですが、トラッドでは異常に高く、他レーベルの盤なら5百円~千円程度。人気盤でも3千円以下。

 

Tempoレーベルのブランド価値はずば抜けて高いということなのでしょう。