1956年後半から57年の初頭にかけて、すべての録音が傑作という絶頂を極めたペッパーは、58年以降ほぼ一直線に下降していく。冴えに冴えたアドリブの切れ味がなくなっていく。
頭に浮かんだアイデアと指が連動していないような感じ。思い通りにならないのがもどかしいのか、以前よりも強く吹き込むようになる。ペッパー特有の軽やかさが重さになっていく。
録音時期が下るに伴って、麻薬禍でだんだん腐っていくペッパーを味わう。それがContemporaryのペッパーの楽しみ方。
Contemporaryのペッパーはバンドのサポートを得て、もがくようにスイングする。だからドラムス、ベース、ピアノを同時に聴いて、メンバーの心情を思いやりながら聴かなけれなならない。
そのうえContemporaryのRoy DuNannはステレオ録音の名人。モノラルよりステレオが音質的に優れていることが多い。だからステレオがオススメ。
Art Pepper Plus Eleven, 1959年録音。
ウエストコーストの有力どころを集めて、Marty Paichのアレンジで合奏する。“踊り子”や“お風呂”の延長上の作品。ペッパーの出番は少ないけど、まだ輝きが残っている。
もちろん録音はロイ・デュナン。彼のステレオは試験導入的な1956年録音の一部を除いて、最初からステレオ盤が優れている。60年前後のレコードでは、ほぼすべてモノラルよりステレオが良い。
Gettin' Together, 1960年2月録音
マイルスのバックバンド+Conte Candoliというクインテットで、Meets The Rhythm Sectionに続いて2匹目のドジョウを狙った作品。
ただ、これをMeets The Rhythm Sectionと比較してはいけないと思う。全盛期のジャイアント馬場と、60代になって筋肉の落ちたジャイアント馬場を比較するようなものだ。
前作と違うのは、ペッパーがリズム陣と対峙するような構成になっていないこと。ペッパーの切れ味は落ちていて、もう対決は出来なかったのだろう。
聴きどころはPaul Chambersの4ビート。やっぱりこの人のウォーキングはスイング感がスゴい。ギコギコのアルコ弾きはちょっとだけだから許せてしまう。
Smack Up, 1960年10月録音
前作からさらに重たくなったペッパー。切れ味が落ちたペッパーをサポートしようと、ピアノ、ベース、ドラムスが一体となってサポートする。
バンドの一体感があって、作品としては悪くない。
この曲は5/4拍子でダルな感じがいい。
本盤はAnalogue Productionsが出した金蒸着CDを持っていて、聴き比べてみるとLPの方がややしっとりした感じではあるけど、音質的には同程度のクオリティだと感じる。金蒸着の効果はともかく、CDの音はかなり良いと言える。
Analogue Proは優秀な音源だけを厳選して再マスタリングする会社(少なくとも当時は)なので、それだけ元の録音が優秀だということ。
Intensity, 1960年11月録音
アルトにエコーが掛けられて、前作より艶やかになった感じ。イコライジングでアラを隠したのかもしれないが、全体的に切れ味良くて心地よいアルバム。
スタンダード曲ばかり選んだプロデューサー、アルトの音色を工夫したエンジニア、力強いサポートで支えたバンドメンバー。みんなでペッパーを盛り立てて良いレコードを作った。
最後にMeets The Rhythm Section
これは今日アップしたContemporary盤と比べるのではなく、Intro盤, Tampa盤, Jazzwest盤と比較対象になるべきレコード。