知財高判平成19年9月12日・平成19年(行ケ)第10007号審決取消請求事件
                        (燃料電池用シール材の形成方法)

 

1 「燃料電池用シール材の形成方法」事件の内容
  (1) 本事件の概要
      本事件における発明は、発明の名称を「燃料電池用シール材の形成方法」とする特許第3456935号(平成12年1月12日出願、平成15年8月1日設定登録。以下「本件特許」という。)に係る特許発明である。
     本事件は、本事件の被告が当該発明の進歩性の理由として本件特許につき無効審判を請求したところ(平成18年4月25日)、当該特許発明は特開平11-129396号(刊行物1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものあるとして、特許庁が本件特許を無効とするとの審決をなしたので(平成18年12月5日)、本件特許の特許権者である原告が当該審決の取消を求めた事件である。
  (2) 本件発明の内容
     本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、下記のとおりである(以下、本件特許の請求項1に記載されている発明を「本件訂正発明1」という。)。
         「高分子電解質膜、カソード電極およびアノード電極からなる燃料電池本体とセパレータとの間に介在させるシール材の形成方法であって、セパレータの所定位置表面にゴム溶液を塗布して未架橋のゴム薄膜を形成する工程、未架橋のゴム薄膜を架橋することによりセパレータに成形一体化させる工程、架橋ゴム薄膜が成形一体化されたセパレータをカソード電極およびアノード電極に当接し単セルを組立てることにより、高分子電解質膜の周縁部をシールする工程、を備えており、前記セパレータとしてカーボングラファイトで形成されたセパレータを用い、前記ゴム薄膜形成工程において、前記セパレータの周縁部表面にスクリーン印刷によりゴム溶液を塗布して未架橋のゴム薄膜を形成することを特徴とする燃料電池用シール材の形成方法」、
     なお、上記のとおりの本件訂正発明1は、平成18年7月21日付訂正請求書による訂正後のものである。
  (3) 引用発明の内容
     審決が認定した引用発明は、下記のとおりである。なお、原告と被告とは、引用発明が審決が認定した下記のとおりのものであることを争っていない。
         「高分子電解質膜、カソード電極およびアノード電極からなる燃料電池本体とセパレータとの間に介在させるシール材の形成方法であって、金属セパレータの所定位置表面に液状シリコーン樹脂を射出圧300kgf/cm2、金型温度160℃の条件で射出成形してシリコーン樹脂層(硬度60)をセパレータの周縁部表面に成形一体化させる工程、前記シリコーン樹脂層(硬度60)が成形一体化されたセパレータをカソード電極およびアノード電極に当接して単電池ユニットを組み立てることにより、高分子電解質膜の周縁部をシールする工程を備える燃料電池用シール材の形成方法」
  (4) 本件訂正発明1と引用発明との一致点と相違点
      審決が認定した本件訂正発明1と引用発明との一致点と相違点とは、下記のとおりである。なお、原告と被告とは、本件訂正発明1と引用発明との一致点と相違点とが審決が認定した下記のとおりのものであることについても争っていない。
    ア 本件訂正発明1と引用発明との一致点
       「高分子電解質膜、カソード電極およびアノード電極からなる燃料電池本体とセパレータとの間に介在させるシール材の形成方法であって、セパレータの所定位置表面にゴム溶液を存在させて未架橋のゴム薄膜を形成する工程、未架橋のゴム薄膜を架橋することによりセパレータに成形一体化させる工程、架橋ゴム薄膜が成形一体化されたセパレータをカソード電極およびアノード電極に当接し単セルを組立てることにより、高分子電解質膜の周縁部をシールする工程を備えている燃料電池用シール材の形成方法」である点。
    イ 本件訂正発明1と引用発明との相違点
      (a) 相違点1
         セパレータの材質が、
         本件訂正発明1では「カーボングラファイト」であるのに対し、
         引用発明では「金属」である点
      (b) 相違点2
         セパレータの周縁部表面に架橋ゴム薄膜を成形一体化する工程が、
         本件訂正発明で1はゴム溶液を「スクリーン印刷」で塗布して未架橋のゴム薄膜を形成する工程及び未架橋のゴム薄膜を架橋する工程であるのに対し、
         引用発明ではゴム溶液を「射出圧300kgf/cm2、金型温度160℃の条件で射出成形」する工程である点