アプリケーション① | コルシカで朝食(または昼食)を

コルシカで朝食(または昼食)を

高松市のコーヒー屋、コルシカ珈琲のマスターが思いついたことを書き留めていくために作られたブログ。

 スマートフォンというのは便利なものである。最初はほとんど空っぽの状態で電話なのかパソコンなのかわか


らないものを渡され、自分が必要な機能を、インターネットや携帯電話会社が運営するマーケットからアプリケー


ションをダウンロードすると、自分好みの便利ツールに変身する。


 千紗も、今日スマートフォンを買ってきたばかりだ。


 まわりの友人のなかで、いまだにスマートフォンを持っていないのは千紗だけだったので、前の携帯電話の二


年契約が完了すると、すぐさま買い換えた。これで、みんなと同じだ。


 とはいえ、買ってきたばかりのスマートフォンはただの電話の昨日ぐらいしか使えない。自分流にカスタムしな


ければならないのだ。千紗はまず、音楽プレイヤーのアプリケーションをダウンロードした。それからソーシャル


ネットワークのアプリに、ゲーム、着うたなど、思いつくものは片っ端からダウンロードし、他の友達が持っている


アプリケーションはほとんど揃った。


「これでこそスマートフォンだわ」千紗は満足げだ。


 さあ、あとは自分の好みのアプリケーションでも探してみようかな、と千紗はまたマーケットを覗いた。これでス


マートフォンをいじりだして六時間ほど経過した。


 いくつかのくだらないアプリケーションをダウンロードし、今日はこれぐらいにしておこうかな、というところで、千


紗は気になるアプリケーションを見つけた。


『未来予報アプリ』と書いてある。製作者は「GOD」と書いてある。


 説明を見るとどうやら占いのようなもので、その日、自分に起こることを天気予報のような形でお知らせしてくれ


るらしい。プレビューのところには「今日、あなたが好みの異性に出会う確率60%」などと書いてある。


「面白そうじゃん。でもGODなんて罰当たりな」


 千紗は未来予報アプリをダウンロードして、その日はスマートフォンをいじるのをやめた。


 翌朝、千紗は目を覚ますと、すぐにスマートフォンを手に取った。念願かなった自分だけの愛機だ。愛おしくて


たまらない。

 

 愛機はメールを二件受信していた。


 一件は友達の菜月からで、「スマートフォンの調子はどう?」といった内容のメールだった。


 そしてもう一件。未来予報アプリからだった。


『今日のあなたの一日。晴れ晴れのちくもりくもり何らかのトラブルに巻き込まれる確率、70%。出血する確率、  


30%』


「何よこれ。何らかのトラブルって。縁起でもない。しかも出血まで……」


 千紗が予報してほしいのはこんな不吉なものなどではなかった。もっと「彼氏ができる確率」とか、せめて「友


達とけんかする確率」ぐらいにしてほしいものだ。


 千紗は不安に駆られながらも支度をして家を出て大学に向かった。


 未来予報アプリは見事に的中した。


 通学にしようする電車が途中で事故を起こし、ダイヤは大きく狂って、駅は通勤通学できない乗客たちでごった


返した。


「もう最悪」と言って千紗がふてくされていると、ぽんと肩を叩かれた。


「よう。千紗もここで待ちぼうけか」


 高志だった。彼は千紗と同じ研究室の仲間で、千紗がひそかに思いを寄せている相手だ。


 高志は千紗の座っているベンチの横に腰かけ、千紗は「ラッキー」と心の中でつぶやいて彼との時間を過ごし


た。そしてスマートフォンに買い換えたことを彼に告げると、彼が「じゃあ友達リクエストしておくよ」と言って、ソー


シャルネットワークでのつながりを持つことができた。

 

 その夜。千紗はうきうきしながら料理を作っていた。


「今日の料理の写真をアップしてかわいい女をアピールしよう」などと考えながらにやついていると、包丁で人差


し指を軽く切ってしまった。指先から真っ赤な血が流れる。


「出血する確率30%」と千紗はつぶやいて、ぶるっと身震いした。「何なのこれ。当たりすぎじゃない?」


 千紗は気味が悪くなって、未来予報アプリをスマートフォンから削除しようとした。


 すると「エラー。インターネット起動中はアプリケーションを削除できません」と表示され、削除できない。何度も


いろんな方法を試してみたが、どうしても削除することができなかった。


「何よこれ。まあまだスマホにして二日しか経ってないし、使いこなせるようになったらすぐに削除しよ」


 千紗はとりあえず未来予報アプリのことは忘れて、高志とソーシャルネットワーク上でチャットで盛り上がり、夜


を更かした。


 翌朝、眠い目をこすりながら千紗はスマートフォンに手をのばす。メール受信が1件。


『今日のあなたの一日。雨雨ところにより、大雨が降り、洪水になる恐れがあるでしょう。嫌な人に嫌なことを言


われる確率100%。大けがをする確率80%」



つづく。