南域結界☆ ジェルソミーナ -232ページ目

1章 : みおちゃんレンタルされるよー  2


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 高校進学の話を聞いた時の、澪の豹変ぶりは見事なものだった。
 上座の総主がおもわず座布団から身を引きそうになったほど、澪は紺色の大きな瞳をきらきらさせて、もしも尻尾があったなら、ちぎれんばかりに尻尾を振って、身を乗り出してきた。
「はいっはいっ、行きますっ! 私ぜったい行きたいです! 私に行かせてくださいっ!」
「あのね、澪……」
 さっき手厳しく叱った時は、叱ったこちらが後悔するぐらい、しゅんと落ち込んで小さくなっていたのに、
(この変わりようは、なんなんだろうね……)
 日野寺神社の総司祭長はあきれたが、いいやダメだ、ここで手ぬるいことを言ってしまうと、後々この子のためにならん。
 扇を置き、そうきっぱり、心の奥底で思い直して、
「どうしてこういう手段を取るはめになったのか、分かってるよね? 君が、あんまり無茶な術を使うからだよ?」
 澄んだ声を冷ややかに、わざと怒っているかのように繰り返した。
「以前に約束したよね。万策尽きてどうしようもない時以外は、あんな大型の術は使ってはならないって。そりゃ……緊急事態ではあっただろうさ。被害が地上に及ばないように、君は君なりに配慮したのも上層部は評価してくれている。地上に及んでしまった衝撃は、尾備山断層のよくある小さな地震だ、ってことで処理されたみたいだよ。でもね、澪……」
 どうしてこの子は反省すると、こんなにずぶ濡れの、しゅんとした弱々しい子犬のようになってしまうのだろう?
 深くかぶった頭巾の下から畳の間に視線を移すと、そこでは細身のかわいらしい少女が、どんどん小さくなっていくのが見えた。このぐらいのことでは、芯の強いこの子のことだ、きっと泣いたりはしないだろうが――。
(それにしても弱々しい……)
 叱っていると、こちらが咎人のような気がしてしまう。
 これは何かの罰ゲームなのか?
 あと一押しされたら、何かのはずみで、自分の方が涙を浮かべてしまうかもしれない。
(どうしてこんなこと言わなきゃならないのかなあ……)
 澪は最善を尽くした。よく頑張った。誰よりも強く、誰よりも勇気を持って、里やこの山々を守った。
 そのことは誰より、総主自身が分かっていることなのに。
 叱りつけるよりももっと、かけてあげたい言葉があるのに。
 総主は気付かれないようまぶたを深く閉じると、そっと、顔を覆う包帯の下で吐息をついた。
「僕は……そんなことで怒っているわけじゃない。……意味、分かるよね?」
 澪は顔を伏せ、じっと赤い袴の襞を見つめている。
「……澪はよくやってくれているよ」
 雨風にあおられる竹林のざわめきが、障子の向こうから聞こえてくる。
 総主の呟きは、もしかしたら、澪には届かなかったかもしれない。
「みんな助かっているんだ。本当によく、この神社に尽くしてくれた……だから。上から、この話をもらってきたんだ。これなら謹慎処分なんかより、ずっといい」
「総主」
 高い声が、広間に響いた。
 うつむかせていた顔を、澪がおずおずと上げる。




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1章 : みおちゃんレンタルされるよー  1


 上空の、吹きつける雨は冷たかった。
 11月の雨だ。
 はるか足下、見渡す限りの山々はすっかり紅葉しているが、この寒さと雨のせいだろう。白い靄に押し潰され、相当に気が滅入ってしまっている。
 澪(みお)は分厚いゴーグルの下から、一瞬それらを見やったが、しかし刹那に身を翻し、頭上と背後から襲いかかろうとしていた、おぞましい濃緑色の泡を、一閃、雷光のような鋭さで切り払った。
『澪、見つけたぞ! 差配が言ってた霊劣化弾だ!』
 突然、耳につけた無線機から、ガーガー雑音だらけの声が飛び出してきた。
 別働隊は手はずどおり、抜け道を使って潜入、目的の場所へ到達することができたらしい。
 聞き取りづらい無線は、時折声をひそめながら、不安と緊張と興奮を抑えきれない調子で、彼らの状況をとつとつと説明する。
『だが……どうやら、敵に気付かれてしまったようだ。澪、今すぐこっちへ向かってくれるか……!?』
 澪のつま先を受け止めた光虫魚の群れが、友人の意志を感じ取ったかのように、震えるような声で小さく啼いた。数百のよどんだ悪意ある気泡は、すでに大空へ上昇、集結し、暗い雨を蒸気に変えながら、まがまがしい実体を見せ始めている。
 別働隊や上層部は、気付かなかったのだ。
 問題なのは、敵が禁忌の霊劣化弾を持ち去り、完成させることではない。
 ましてや<先触れ>である気泡が集結することでも、実体を持つことでもなかっただろう。
 澪たち、守備者ですら視覚で認識できない「何か」が、あの大空の彼方からこちらへ目がけ、津波のように押し寄せてきているのだ。
 雨に霞む、水墨画のような、にじんだ空。
 連なる山々の遙か彼方、大地から湧きあがり、膨れ上がる、薄緑色の雲。
 正体の分からない、ざわりとした、悪寒。
 いてもたってもいられない、根拠のない恐怖。
 ――怨嗟(えんさ)――
 勘の良い者なら、そう呼んだかもしれない。
 密かに滲み広がるそれは、実体など持つはずもない、しかし確かに存在する<邪な闇>。
 そして太古よりこの地上で、守備者たちが戦ってきた闇の一側面だ。
 澪の黒い髪が舞い、稲紋の羽織の下から、太くなわれた純白の荒縄が幾本も飛び出した。おぞましい瘴気を噴きかけようとする泡の動きを見透かしたかのように、縄は的確な動きで、連なる気泡の防御壁を突破、山々の向こうまで、高速で広がっていく。
『……澪。おいどうした……大丈夫なのか、澪!?』
 連鎖的に破裂していく泡の蒸気の中、こちらの異常にようやく気付いたらしい、のんきな別働隊隊長の声が響く。
 だが、澪はそれにも応えない。
 舞うような軽やかさと、感情のない殺戮人形のような正確さ、無慈悲なまでに容赦ない力強さで闘剣は乱舞し、一口で飲み込もうとしていた気泡の本体をも、瓦解させる。
 細い体がふわりと深く沈み、剣の柄から一時たりとも離れなかった左手が、わずかに宙へと離れた。
 大気が震え、光虫魚が慌てて澪の足元へ集まる。
 何かに怯えたかのように、感情などないはずの気泡が一瞬静止し――そして、気を取り直したかのように、したたり落ちる粘液から、新たな気泡を生み落とし始めた。
 それは、ゆっくりゆっくりと不快に蠢(うごめ)く、油の浮いたような気泡だ。
 ぬらぬらとした毛細血管のような筋に包まれ、時折、苦悶するかのように奇妙に痙攣する。
『……みお……?』
 通信機はビリビリと、微細な音を立て続けている。
 もしかすると、隊長は思い出したのかもしれない。
 わずかな、ほんのわずかな気配が、大気の底から高まりつつある。
 不安な――実に不安な、あやうい気配。
 人類が本能的に忌避する気配。
『まさかと思うが……』
 澪は答えない。
『よせ……』
 澪はぶ厚いゴーグルに顔を隠し、意識をずっと遠くへ――はるか遠く――ここではない、はるか遠くの別の場所へと向けている。
 そして風に舞う蝶のように両腕を差し出し、荒々しい縄をやわらかく、自分の肩に絡ませた。
『……聞こえてないのか!? ……なことしたら……!』
 必死に止めようとする無線機の声は、すでに雑音でほとんど聞こえない。
 しかし、鼓膜が裂けそうなほどの鋭い騒音にも、澪は眉一つ、動かそうとはしなかった。
『……が……壊れ……! み……!』
 雨が、澪の白い頬を伝い、剣の柄からしたたり落ちていく。
 重い雨を受けながら、差し出された両腕が、少しずつ胸の正面に近付いていく。
 唐突、澪の頭上で旋回し続けていた気泡の集団が、獲物を襲う猛禽のように、澪めがけて加速した。
『……!』


 ――天空は、完璧な白光に包まれた。
 通信機が吹き飛ぶ瞬間、悪夢のような叫び声だけが、世界に響いたような気がした。




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あらすじ(4) 今書いてる辺りの^^(だいたい日曜 更新)

が、
自動障壁がティーナを守り、

ティーナは、傷ひとつ負わずに済む!


しかし、祭壇に辿り着いた澪は、

そこに横たわるのが、

憧れの 「青年」ではなく、

「2つの首をもったライオン」だと知る。


……ということは、王さまは、ライオン!?

それとも、なにかとんでもない……

勘違いを!??


鍾乳洞が、突然、崩落!


澪たちは、

『邪な闇』の人質になった、クロを見る!


クロはすっかり、生きる希望を無くして……。


ゼロチームたちが、『闇』を追い払うため、

高度な「ことほぎ」の術を使い始めるが、


しかし、この術には、

いろいろと、難点があるようで……!?



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・【あらすじ(2) 6章24~6章ラスト……は →こちら
・【あらすじ(3) 7章~8章3……は →こちら
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