【昨日のビール】

ロング缶 : 2本

芋焼酎ロック : 4杯


昨日は平凡な酒量だったろうか。
一般的には平凡ではなさそうだが、そんな事は気にしない。

昨夜、私がランニングに出ている間に息子は図書館へ勉強に行くと言って出かけていた。
珍しい。

しかるに晩酌は妻と娘との3人で慎ましやかに執り行われる運びとなった。


娘の定番きゅうり串。

娘は本当は好きではないが、出されるので食べていると生意気なことをぬかしていた。

きゅうり丸ごと食べた後に残った味噌を皿までペロペロしたいくせに。


こちら、娘リクエストの肉だんごカレー風味。

許可をとって私も2個いただいた。

子供も大好き大人も美味しいカレー味。

イケる!


茶豆。


私は塩ジャケ。


晩酌メンバー全員揃ったね。


よしっ!それではお待ちかねのビール!ビール!

グラスを交わして乾杯なのだ。


グビッ、グビッ、グビッとプハーッ!

あぁ、今日も最高なのである。



昨夜もいつもより少し遅い時間だったがランニングに出た。

走り始めて約2年くらい続いているだろうか。


途中で何ヵ月も休んだり、ウォーキング中心に変更したりと紆余曲折はあったが今のところ無事に継続できているようだ。



ランニングに出る前は必ず水分を取るようにしている。

グラスで水を2〜3杯ゴクゴクと飲み干してから家を出る。

本当はランニングを始めるすこし前の時間に水分を取るのが良いのだが、そこは何となくで脱水予防の足しになるかと思っている。


その行動がポイントとなってくるのだが、これからの季節は注意しなくてはいけない、非常に危険な現象がある。


夏の暑い時期はほぼ気にならないことなのだが、寒くなると急激に確率の上がる危険現象である。


暑い時期はランニング前に取った水分は、ほとんどが汗となって放出されるのだろう気にならない。


しかし涼しくなり、そして寒くなってくると汗を掻く量も自然と少なくなる。


その水分はどうなるかというとダイレクトに下腹部にある部分、つまり膀胱に蓄積されてゆくようである。


危険現象とは、そう!オシッコなのである!


ウォーキングをしていた頃はその症状が顕著に出てきていた。


当たり前だがウォーキングは歩いているので進むスピードがランニングより遅い。


遅いという事は目的地に辿り着くまでに時間がかかる。


時間がかかるという事は、膀胱に蓄積された水分を早く放出したいという、ブラジルはリオのカーニバルで有名ですね、サンバのリズムで踊り出したくなるような「我慢」という耐え難い衝動に駆られる時間が長期化する。


長期化するという事はアブラ汗をかきながら頭の中にある膀胱ハザードマップで近隣にあるトイレまでの距離を正確かつスピーディーに検索しなくてはならなくなる。


検索している途中からおおよその検討をつけたポイント方向に向けて、自然とウォーキングからランニングに切り替わる。


はたから見ていると、明らかに弱った顔をしながら突如力強く走りだす不審者オジサンだ。


困った。


しかしこのような時にこそ、子供たちが小さかった頃にほぼ制覇したと言って良い、我が街にある公園で遊びまくった経験が役立つ。


ムムッ、あそこの公園はトイレ無し!


オー!あそこの公園は大きい公園でここから近く綺麗なトイレだ!

公園の名前はインプットした!


「案内を開始します」


CORNナビゲーションシステムが動き出す。

案内など聞く暇はない。

急げ!

あの公園へ全速力だ!


刻一刻と迫る貯水タンク破裂の瞬間。


走っていると勢いで割れてしまうのではないかという不安と緊張の中、しかし走るしか道は残されていない怪しいオジサン。


せっせと破裂という重大事故を避けるために丁寧なランニングフォームを保ちながら猛スピードで目的地へと近づく。

よし、順調だ。


公園はもうすぐ。

しかし油断は禁物だ。


敵は目的地が見えてくるとなぜか急激に暴れ出す特徴を持っている。

ご経験おありだろう。


あたりが薄暗くなっている中、やっと公園の入り口が見えてきた。

下腹部には波が押し寄せているが、ここは焦らずゆこう。


着々と目的地は近づく。

公園に入ると目指すトイレが見えてきた。

あと少しだ。


長く感じるトイレへと続く道のりの片隅にベンチがあり、そこで若い男女がなにやら怪しげにコソコソ話している。


私に気づいて目で追うように付きまとっているのが暗がりの中でも分かった。

見るな、バカヤロウ!


私は心の中で叫んだあと、何事もないように軽い足取りで市民ランナーゴール直前のラストスパートの体制に入った。


ゴールは目と鼻の先。

勝ったも同然。


いや、待てよ。

何か様子がおかしい。

いや、待てない。


もう私の下半身はすでにサンバのリズムを軽快に刻み初めている。


トイレが暗すぎる。

電気がついていないのだ。


「改修中、北側のトイレをご利用下さい」

入り口にこう書かれていた。

何をこんな時に!


私のサンバのリズムはカーニバル会場の本部前、メインスタンドで歓声を上げる観客にアピールしまくるような、絶好調で誰にも止められない状況になっていた。


が、ガマンできない。

ここでやろう。


私は覚悟を決めてトイレ脇にある木陰に思いの丈をぶち撒ける決断を下した。



いや、待てよ。

くるりと振り返る。


ベンチに座る、あのバカップルがこっちをジロジロ見ている。

殺す。


万事休す。

北側トイレまでは400メートル程あるだろうか。


恥を忍んで2度と会わないであろうそこのバカップルの前で全てを曝け出すか、はたまた残り2、3分の間延長して陽気にサンバを踊り続けるか。


悩んでいる暇はない。

答えは一つ。


私は両手を強く握りしめ、1人うつむいて薄ら笑いを浮かべるしかなかった。



ピーッ!!


ホイッスルがなった。

続いてバスドラムがリズムを刻む。

カウベルとタンブリンが私の闘争本能を捲し立てる。


ダン!ドン!ダン!ドン!


いくぜ!セニョリータ!

私はまだまだ続く長いメインスタンドの前を、今までに見せたことのない猛スピードの見事な鋭いサンバを披露しながら北側トイレへと続く道に消えてゆくのだった。


すぐそこだ。


明かりのついた綺麗なトイレが見える。

自然と笑みが溢れる。

マラカスを両手に軽快なリズムで私はひたすらその明かりを目指す。


涙でゴールがふやけて見えるじゃないか。

なんだよ、困らせやがってコノヤロウ。


やった。

やったぞブラジル!


最後は破裂寸前のダイナマイトを大切に抱え込むように、つま先立ちでリズムを刻みながらスピードアップした新種のサンバを踊っている自分に気づいた。


さすがだな。

俺。


もちろん最後まで我慢できた。

大人だから。



何事も早めのリスクヘッジが必要なのである。

特にこれからの季節は早め早めの放流を心がける事が大事。


油断と我慢は禁物であり、サンバのリズムは自分で刻むものではなく、できれば見る側にわまりたいのである。


本日もこれからしっかり水分をとってランニングに出かけよう。


寒くなるこの季節は一定の間隔でトイレが存在する、丘の上コースが心休まるホームグラウンドとなりそうだ。


帰る家があるというのは素晴らしいことである。


ホームグラウンドからマイホームでの乾杯を目指して、今夜もビールというゴールが待ち遠しいのである。

ムフフフ。