前回は、
Growth of Allied Strength
という見出しを以下に訳すかという設問を発し、訳として
以下の二つを挙げておいた:
(1)充実する連合軍の戦力
(2)連合軍の戦力回復
ここで明かすと、(1)が小生の訳、(2)が監訳者の修正訳である。
いずれが適訳かを判定する際の文脈として提示しておいたのが、以下の抜粋部分である:
This expansion of the German submarine service during 1942 was countered on the Allied side, although the number of British escorts in the North Atlantic actually declined in the second half of 1942 because of the needs of the Torch landings in North Africa in November. But this decline, from 384 operational units in a total of 465 on 1 January to 332 operational ships in a total of 425 on 31 December, was only temporary, though it largely accounts for the submarines’ richest monthly harvest of the war, some 729,160 tons of shipping in November 1942. More significant was the fact that overall British numbers were rising throughout 1942 and that a new type of escort with a corvette’s handling capabilities and endurance and the speed to match a surfaced submarine had gone to sea in the spring, though it was to be a full year before it appeared in any numbers in the North Atlantic. Moreover, by 1942 escorts were becoming efficient in the use of radar and radio direction-finding equipment that had entered service in 1941 while in the course of 1942 their effectiveness was enhanced by the introduction of fast-sinking, more powerful depth charges.(ドイツが一九四二年を通じてUボート戦隊を拡充したのに対抗する形で連合軍側も戦力を充実させていったが、十一月に行われたトーチ作戦での北アフリカ上陸に呼応する必要があったために、一九四二年下半期に北大西洋に活動していた英国の護衛艦艇の隻数は実際には減少していた。一月一日の時点での総数四百六十五隻中、作戦行動に従事していたのが三百八十四隻であったのが、年末には各々四百二十五隻と三百三十二隻に減っていたというのが実数で、この減少傾向は一時的なものであったにせよ、同年十一月に七十二万九千百六十トンという戦争中最大の船腹損失量を記録することになったのは、概ねこれに起因するものであった。だが、これよりももっと重要な事実として指摘すべきは、英海軍全体で見れば保有する護衛艦艇の数は一九四二年を通じて増え続けていたこと、そして、春には、コルベット艦の戦闘能力と耐久性を具有すると同時に浮上時のUボートに匹敵する速度を誇る護衛艦が戦場に投入されていったことである。この新型の護衛艦が北大西洋に十分な隻数で以て登場するには、それから更に一年ぐらいを要したが、既に一九四二年までに護衛艦艇は前年に導入されたレーダーや無線誘導装置を効果的に使用できるようになっており、同時に、沈降速度が速く爆発力を増した爆雷も導入されて、その戦闘能力は益々向上していったのである。)
小生の結論を言う。
監訳者の訳には二重の意味での誤訳が見られると考える。
①まず、growthには「成長」「発育」「進展」といった意味合いがあり、「回復」ならばrecoveryの筈である。語義上の誤りである。
②そして、内容はと言えば、ドイツのUボートと相対するイギリスの護衛艦隊の活動についてで、その隻数の増加もさることながら、使用する兵器が充実していったことに多くが費やされていること。内容面での誤りである。
恐らく監訳者は、下線を付したdeclinedの部分だけは読んだのであろう。その上で見出しのgrowthを、一度低調となった後の「回復」だと判断して、この訳を付したと思われる。
だが、仔細に読んでみれば、この「低調」傾向は大西洋方面での一時的なものに過ぎず、その後に「英海軍全体で見れば保有する護衛艦艇の数は一九四二年を通じて増え続けていた」と明確に書かれているのである。見出しのgrowthがこのことを指しているのは明白であり、小生の訳の方が適訳と判断した次第である。
見出しを付してから内容を書く場合もあるだろうが、訳する場合には、内容を読んでから見出しを訳した方が無難である。