自動車用スパナ 2/6
【トヨタ編】
その1【日産編】に引き続き、【トヨタ編】としてトヨタを取り上げます。
その1と同様に、車載または整備工場向けスパナとコンビレンチを、自動車メーカー毎に分類し、製造者記号等から判明したOEM製造元を明らかにしていきます。
1.一覧表
本編では、表内の青で塗りつぶしたトヨタについて解説します。
*『製造者記号』は、会社名ならびに会社ロゴと共に製造者を示す3番目の名前です。(例えば、大阪鍛工なら )
2.商品解説
トヨタ-1 (一重丸京)
・トヨタ工業に車載工具として終戦翌年の1946年頃から1950年まで納入されたOEM品です。
(トヨタトラックの生産再開時期より1946年から納入と推定)
・裏面左側に一重丸京の刻印が入っていることから、京都機械の生産と確認出来ます。
・写真は、KTC『ものづくり技術館』の展示品。
・一重丸京6本組みスパナが車載されたと思われるKC型トラック。
・戦時中の1943年11月から、戦後にトヨタの生産再開1号車として1947年3月まで生産
トヨタ-2 (二重丸京)
・KTCの商品第一号であり、トヨタトラックBM型の車載スパナです。
・KTC創業翌月の1950年6月から納入が始まっています。
・トヨタ向け車載工具が1950年6月に京都機械/一重丸京からKTCに切り替わった時にデザイン(または鍛造型そのもの)が継承され、さらに同じデザインのままKTCモデルとして一般市販されたと理解しています。
・トヨタ向けに専用の二重丸京が採用され、上端が閉じた二重円のロゴになっています。
・一般販売向けは、上端が開いた二重円になっていて、正式にはこの一般販売向けの方を二重丸京と呼ぶようです。("京"を漢字"工"で囲んだデザイン)
・トヨタ車載工具の印としてスパナ裏面に丸トヨタマークが刻印されています。
・この車載スパナ納入をきっかけとしてトヨタから継続的なオーダーを受けることとなり、KTCは安定した経済基盤を作り上げることができ、日本を代表する工具メーカーとして発展していきます。
・トヨタ向け専用と、一般販売向けの二重丸京ロゴ比較。
・二重円の上端の閉じ開きの差がはっきりと分かります。
・二重丸京スパナが車載されたと思われるBM型トラック。
・トヨタ挙母工場で1947年3月から1951年6月まで生産された戦後開発第一号のトヨタ車。
・BM型トラックの途中で車載工具変更が行われ、1947年~1950年5月は一重丸京、1950年6月&1951年は二重丸京が車載されたのだと思います。
トヨタ-3 (KTCスパナ)
by KTC (形状同一性より)
・商品にKTC表示はありませんが、KTC社史等でトヨタへの車載ならびに整備工場向け工具の納入を公にしています。
・パネル形状で4種類、トヨタ会社名表示で3種類、スパナ形状で2種類が設定されています。
・さらに、クロームメッキと亜鉛メッキ、裏面の材質表示の有無があり、種類は多岐に渡ります。(詳細は下表にて)
・カタカナ『トヨタ』ロゴ付きで、材質としてNi.Cr.V.を使用した整備工場向け仕様の1例。
☆パネル形状4種類
(1) フラット
(2) 凸長方形
(3) 凸平行四辺形
(4) 凹丸
※会社名表示はTOYOTA MOTOR、スパナ形状はやり型で統一
☆会社名表示3種類
[1] TOYOTA
[2] TOYOTA MOTOR
※パネル形状はフラットで統一、スパナ形状は1番上が丸型、下2つはやり型
☆裏面表示4種
・材質が明記されているのは1番上だけで、KTCが創業時から使い続けているNr.Cr.V.。
・2番目はSpecial Alloyと言うことで、材質は何だか分からず、普通の炭素鋼と思います。
・3番目と4番目は、材質に触れておらず、これも一般炭素鋼(S45C or S55C)なのでしょう。
☆トヨタ-3の種類一覧
上表から分かること
・亜鉛メッキ は車載用だと思いますので、フラットパネルと凸長方形パネルは車載に使用。
・レクサス車載より、凸平行四辺形/クロームメッキ も車載に使用。
・丸型スパナの設定が無いことから、凹丸は設定時期が比較的新しそう。
・材質がNi.Cr.V.の3種は、整備工場向け。(フラットと凹丸2種のクロームメッキ版)
・カタカナ『トヨタ』ロゴ版は、Ni.Cr.V./整備工場向けのみで設定。
・整備工場向け工具は、KTCが製造を担当し、KTC商社の京華産業を経由してトヨタ部品共販(現トヨタモビリティーパーツ)が各ディーラー向けに販売していたと理解しています。
・各ディーラーにバンサービスで販売して回っていたと聞いています。
・一番上は、アメリカ向けレクサスの車載工具。(アメリカebayで入手)
・2番目は、セルシオ/日本向けレクサスの車載工具。(表、裏共に何の刻印も無い無印)
・3番目は、通常のTOYOTAモデル。(車載 or 整備工場向け?)
・4番目は、KTCのJIS-S付き。
・4本共に同一形状であることが分かります。(スパナ形状は丸型)
・そして、4本共に非常に丁寧で綺麗な作りになっています。
・1番上と3番目、4番目は、裏にJAPAN刻印があり、日本製(KTC京都または北陸工場)と思います。
・2番目は、何の刻印も無いことから、KTC中国(上海工場)製なのでは無いかと推定しています。(KTC中国:2004年~2008年)
トヨタ-4
・トヨタ向けOEMで、トヨタロゴだけが刻印されています。
・一般的な丸トヨタでは無く、菱形◇トヨタになっています。(菱形◇トヨタは初めて見ました)
・トヨタは1950年代後半からアメリカ向けにランクルを輸出開始していますので、このスパナも純正部品として同時に海を渡ったものと思います。
・そのランクルFJ40をレストアしていると言うアメリカ人から『こんなのを持っている』と送られてきた写真です。(アメリカのコレクターもあなどれません)
・悩ましいのはKTC製かどうかです。
・トヨタと言えばKTCですし、KTC二重丸京のスパナに似た形状をしています。
・但し、疑問符が2点。
(1) KTCの凸パネルは、KTCは胴長の左右に幅差があり、この幅差に合わせて凸ラインも段々広くなっていますが、この製品は凸が平行な一直線になっています。(トヨタ-2と比較願います)
(2) 裏面にDROP FIRGED(落とし鍛造)と刻印されていますが、KTCは材質に関する表示はするものの、鍛造方法に関して表示しているのを見たことがありません。
・と言うよりは、スパナを作るには手打ち鍛造を除けばDROP FORGED/落とし鍛造しかありませんので、わざわざ表示させることに意味がありません。(他社でDROP FORGEDの刻印を見かけますが、何か英語で刻印させたかっただけの話だと理解しています)
・以上より、KTC製では無く、初期の輸出用に限って他の工具メーカーに依頼したのでは無いかと推測しています。(当ブログの過去ページで『KTC製』として取り扱っていますが、本編を書きながら疑問が沸いてきたものです)
・同時にアメリカ向けのFJ25カタログ(1960年4月発行)も送って貰いましたが、BX 91410という6本組みのスパナセットが該当スパナのようです。
トヨタ-5 (コンビレンチ・スタンダード)
↑by KTC(KTC/M41と同一形状より)
・整備工場向けコンビレンチ。
・KTCモデルは、1965年~2001年の生産販売。
トヨタ-6 (コンビレンチ エキストラロング・フラット)
by KTC(M41/M45シリーズと同一形状より)
・とても実験的な商品で、とても長く、かつメガネ部が完全なフラットになっています。
・KTCには4種類のコンビレンチがあります。
・写真の上から
①M41スタンダード
②M45ロング
③MF45ロング・フラット
④番号設定無し/エキストラロング・フラット
・ロング版のM45②とMF45③の2種がトヨタ向けでは見つかっていません。
・実験的な④でもトヨタ向けを作っていたのですから、②と③もトヨタ向けがあったと思います。
トヨタ-7(異形コンビレンチ)
by KTC/トヨタ専用モデル(KTC『もの作り技術館』に展示されていることより)
・ディーゼルエンジンのグロープラグ脱着専用のコンビレンチです。
・これも特異な形状で、立ち上がり角度の大きなメガネとスパナを合体させたものです。
・この合体は、世界最初のコンビレンチであるPLOMB/1933年と同じ発想です。
・完全なトヨタディーラー整備工場向け専用であり、KTCの一般市販版もありません。
・本数が出るモデルとは思いませんが、3種類のバリエーションがあります。
・TOYOTA MOTORのカタカナ『トヨタ』ロゴの有り無し、さらに品番(09150-00020)が表に刻印された珍しいタイプ。
・品番表示タイプは、裏面にTOYOTA MOTORと共にJAPANと刻印され、アメリカ輸出用に作られたようです。(手前の2本にはJAPAN表示が無く、日本国内専用品)
・アメリカのランクルユーザーの方からディーゼルのグロープラグ用と教えて貰いました。
・KTC『ものづくり技術館』の2Fに展示されているOEM品。
・赤枠内の右上…トヨタ-1/一重丸京の車載スパナ
(自社の二重丸京版では無いのが興味深く、KTCモデルの原点であることが分かります)
・左下…トヨタ-7/異形コンビレンチ
・説明カード内には『創業以来KTCを支えてくれるトヨタ自動車の車載工具』と書かれていて、KTCのトヨタに対する感謝の気持ちが表れています。
トヨタ-8(小さな丸棒スパナ)トヨタ品番:09646-12011
大型トラック用の丸棒スパナが一重丸京、二重丸京、KTCと3世代揃っていますが、それとは別にトヨタ専用の小さな丸棒スパナが設定されています。
車検等でテスター上でトーイン調整をする時に、奥にあるタイロッドの緩め締め付けがしやすいように、長いスパナになっています。
1960年代から1970年代にかけての工具で、パブリカや初代カローラ等を対象にしていたようです。
大型トラック用の半分の長さですが、それでも12~19mmサイズで350mmもあります。
ちなみに、近年はバーの長いアジャスタブルレンチ等の使用が多いようです。
12x14mmと17x19mmが何故か同じ品番になっています。
2本でワンセットなのかと思います。
ちなみに、2つの丸棒部分は太さも長さも同一で、嵌め込んであるスパナ部だけ変えてあります。
"TOYOTA"の表示はありませんが、10桁の品番"09646-12011"がトヨタ純正工具(09xxx-xxxxx)であることを示しています。
KTC製の表示もありませんが、トヨタのハンドツールは全てKTC製であること、また大型トラック用との形状類似性からKTC製と特定出来ます。
↓左右と中央を拡大
12x14mmが、もうひとつあります、
スパナ部の幅が狭く、首下も細くなっていますが、丸棒部分は太さ長さ共に同一です。
品番が異なります。(09646-12010A)
使い分けや何故2種あるのかは不明ですが、新旧なのかと思います。
大型トラック用との比較です。
大型トラック用の600mmに対し小型乗用車用は350mm。
スパナサイズに比例して短くなってはいますが、それでも充分に長いスパナです。
大型トラック用は比較的良く見かけますが、今回の小さな丸棒スパナは初めてその存在を知りました。
超貴重品だと思っています。
⇒ 大型トラック用の詳細は、こちら
パブリカ(1961年~1988年)とトヨタS800(1965年~1969年)
トヨタ-9(S100派生アングルスパナ)トヨタ品番:09032-1C190
エンジン補機類(オルタネーターやVベルトテンショナー等)周りは作業スペースが狭くなっていて、かつ14mmボルトが多く使用されています。
そのため、14mmにアングルを付けたスパナがトヨタ専用で設定されています。
オリジナルのスパナはKTCのS100で、裏面の"S24"浮き出し刻印からS100であることが分かります。
トヨタ向けにS100の14mm側を曲げ加工したものです。
凸パネルとスパナ部の間にはスペースが余り無く、凸パネルに影響を与えずに良く曲げたと思います。
KTCの製造年月記号"E2"より2002年12月の生産と分かります。
KTCの一般市販品は、次世代S20に2003年に切り替わっていますので、S100としての最終生産品を使用したのが分かります。
2022年度版『トヨタ純正サービスツールカタログ』に掲載されていて、今でもトヨタディーラーで入手できます。(速攻でディーラーにて購入)
上の丸棒スパナ①をインターネットで調べていて、10桁番号から現行のトヨタカタログに辿り着きました。
丸棒スパナも今回初めてその存在を知りましたが、このアングルスパナも今まで見たことがありませんでした。
国産の現行品で、知らないスパナがまだあるんだと我ながら感心した次第です。
KTC Profitも片側を曲げたアングルスパナになっています。
但し、曲げてある方のスパナはオフセットがゼロになっていて、かつ両サイドが同じサイズですので、トヨタ版とはコンセプトが異なります。
ちなみに、トヨタ版は30度、Profitは25度の曲げになっています。
↓通常形状のS100トヨタ版との比較です。
アングルスパナは12x14mmだけですが、通常のトヨタ版S100スパナは11サイズが設定されていて、これも入手可能です。
↑"TOYOTA"刻印の通常S100スパナ、5サイズ。
この回、終わり
自動車用スパナ 全6編それぞれのページには、こちらから