KTC-4-2

二重丸京スパナのすべて

(1950年~1965年)

 

【2023年12月2日 追記】

京都訪問で得られた情報を基にして、商品4種を追加すると共に、品番やカタログの新たな情報も加えました。

全体構成も変更し、ほぼ全面的に書き直しています。

 

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KTC商品群の中から、KTC/京都機械工具(株)が創業した直後の二重丸京を取り上げます。

終戦から間もない15年間(1950年~1965年)、日本を代表するスパナの変遷を解説します。

なお、京都機械/一重丸京とは同一デザインのスパナも存在しており、一重丸京から二重丸京への移行はひとつの商品群の流れと理解しています。

 

二重丸京は 薄緑色 の写真背景にしてあります。(一重丸京は 水色 

 

1.一覧表

 

スタンダードスパナ~⑬のカタログと品番について

1)第1世代/凹帯パネル(品番S1?)

・最初のモデルである凹帯パネル➀、➂~➇はカタログが見つかっておらず、品番は不明です。(カタログ未発行?)

 

2)第2世代/フラットパネル(品番CS

・凹帯パネルの次に登場するスタンダードスパナは、フラットパネル➈。

・1950年代後半に発行されているKTCカタログ(最初の総合カタログと推察)にタペットスパナ⑯と共に掲載されていて、品番は”CS”。

・二重丸京だけのシングルロゴと、楕円KTCも加えたダブルロゴの2種類があります。

 

3)第3世代/凹丸パネル(品番S10

・1960年代後半に発行された英語版カタログに第3世代の凹丸パネル⑫が掲載されていて、品番はS10。(ロングはS15)

・二重丸京と楕円KTCのダブルロゴになっています。

※ロゴが楕円KTCだけになった第4世代としてKTC定番の凹丸パネルが品番変わらずのS10として登場し、二重丸京時代は終わり、楕円KTCの時代に移ります。

 

2.商品解説
1)スタンダードスパナ

  凸パネル トヨタトラック車載(KTC初モデル/1950年) 

・KTCの商品第一号、トヨタトラックBM型の車載スパナです。

・KTC創業翌月の1950年6月から納入が始まっています。

・トヨタトラック車載工具は1946年から京都機械/一重丸京が納入していましたが、KTC創業と同時に生産担当がKTCに切り替わります。

・スパナデザインは、一重丸京の凸帯パネルが継承され、ほぼ同じデザイン。

・そして、このデザインのままKTCモデルとして一般市販されたと理解しています。

・トヨタ向け専用の二重丸京が採用され、上端が閉じた二重円になっています。

・なお、一般販売向けは、上端が開いた二重円。("京"を漢字"工"で囲んだデザイン)

・なお、トヨタ専用ロゴだけでなく、スパナ裏面に丸トヨタが刻印されています。

・この車載スパナ納入をきっかけとしてトヨタから継続的なオーダーを受けることとなり、KTCは安定した経済基盤を作り上げ、日本を代表する工具メーカーとして発展していきます。

・トヨタ向け専用と、一般販売向けの二重丸京ロゴ比較。

・二重円の上端の閉じ開きの差がはっきりと分かります。

 

↑6本組み全サイズのスパナ裏面に丸トヨタの刻印が入っています。  

 

 

・トヨタ向け専用ロゴ入りホルダーと、そのスパナが車載されたと思われるトヨタBM型トラック。

・BM型トラックの途中で車載工具変更が行われ、1947年~1950年5月は一重丸京、1950年6月~1951年6月は二重丸京が車載されたことになります。

 

★一重丸京トヨタ車載モデルとの比較

・上が一重丸京/」京都機械、下がKTC/二重丸京のトヨタトラック車載スパナ。

・ほぼ同一形状で、同じ図面から鍛造型を起こしたのだろうと推察します。

 

  謎のアングルスパナ(初広告に掲載/1953年) 

・1953年(創業3年後)の広告にアングルスパナのイラストが載っています。

・KTCとして最初またはごく初期の広告です。(国会図書館にKTCの資料が約5千件あり、その中では最初に登場する広告ですので、KTCにとっての初広告なのだろうと推察)

・このアングルスパナは、これまで全く見たことの無いモデルであり、実在していたのか、または単なる広告向けの仮想イラストなのか不明で、謎のモデルです。

・また、1963年までは二重丸京と楕円KTCの両方が表示されていたと理解していたのですが、この広告に二重丸京は無く、楕円KTCだけが左上に載っています。

・KTCにもこのモデルの記録は残っていないとのことで、永遠に謎のモデルのままになるのだろうと思います。

・なお、凹丸パネル内に何と表示されているのか興味のあるところですが、同じ広告内のモンキーレンチを含めて文字が残念ながら読み取れません。

・ちなみに、この翌年の1954年広告に二重丸京シングルロゴのスパナが登場しています。(広告内のロゴは二重丸京と楕円KTCの両方)

↑1953年4月号『自動車整備』内の広告

↓1954年『全国工場通覧』内の広告(スパナは二重丸京のシングルロゴ)

 

 ➂ 凸パネル 少し細文字 サイズ表示スパナ部 

・一般市販品の量販モデルとして、➀の二重丸京ロゴがトヨタ向け専用の上閉じから一般市販向けの上開きに変更になっています。

・上のモデル➂は文字が少し細文字になっています。

・下の太文字版➃の方がポピュラーで、かつ太文字版にはJISマーク付きもあることから、まず細文字版が出てから太文字版に移行したものと思います。

・同じスタンダード凸の中でこのモデルだけスパナ部のザグリが深くなっています。

・写真では分かりませんが、うっすらとトヨタマークが裏面スパナ部に入っていますので、車載またはディーラーの整備工場向けにも使われたのかと思います。

 

 ➃ 凸パネル 太文字 サイズ表示スパナ部 

・文字表示が大きくなっています。

・前のモデル⑮と同様にうっすらとトヨタマークが入っています。

 

 ➄ 凸パネル 太文字 サイズ表示胴長部 

・サイズ表示が胴長部に移動します。

・裏面のスパナ部にトヨタ刻印がはっきりと入っています。

・トヨタに車載用または整備用の工具として納入されたものと思います。

・トヨタまたはTOYOTAの刻印が入ったモデルのほぼ100%をKTCが生産していますが、KTCとトヨタマークの両方が表示されているのは実はこのモデル群(①、➂~➄)だけです。

 

・このモデルではトヨタ刻印付きの方がポピュラーです。

・私は21-23mmを5本持っていますが、上の写真の通り全てトヨタ刻印入りです。(右2本のトヨタマークはうっすらと確認出来ます)

 

★トヨタとの関係

・京都機械(一重丸京)を退職した3名によりKTCが創業されますが、それまで京都機械に工具を発注していたトヨタ自動車は、KTC創業と同時に発注先をKTCに変更します。

・これが創業時のKTCを経済的に支え、現在のKTCに発展する礎になったと理解しています。

・KTC"ものづくり技術館"にあるOEM展示コーナーに『創業以来KTCを支えてくれるトヨタ自動車の車載工具』(赤枠内)と説明されていて、これがKTCの正直な気持ちだと思います。

 

 ➅ 凸パネル 太文字 サイズ表示胴長部 JISマーク/トヨタマーク無し 

・KTCは1952年11月に他の5社と同時に日本で最初のスパナのJIS認証を取得しています。

・この凸モデルは、後述する1950年後半のカタログには掲載されていませんので、凸モデルは1960年頃には生産販売を終了していると推測しています。

・インチサイズであり、米国車両向けと思いますので、トヨタマークは入っていません。

・なお、この凸帯パネルの二重丸京は市場で活用されていたのか、使用痕の多い物がほとんどで、綺麗な商品はあまり見かけません。

 

★二重丸京ロゴ左右の"ー"刻印について

・二重丸京の両サイドにある横棒"ー"に注目して下さい。

1本目: ー ◎ ー (ドットマーク"・"が無い)

2本目: ・ー◎ ー

3本目: ー・◎ ー

4本目: ー ◎・ー

5本目: ー ◎ ー・ 

・横棒"ー"の横に1個だけ打たれているドットマーク"・"が何を意味しているのか不明です。

・無いのが普通だと思うのですが、10本保有している凸モデル10本の内の6本に"・"が打たれています。

・打てる場所は4カ所(横棒左右の前と後)ですが、4パターン共に存在し、打たれている場合は必ず1個だけです。

・明確な意思で打たれているとしか思えませんが、その意味は不明です。

 

 ➆ KTC 50周年記念 (2000年) 

・創業50周年を記念してKTCが2000年に作成した復刻モデルで、裏面に"SINCE 1950"と浮き出し刻印されています。

・表面の刻印は、 通常モデルと同様に"KYOTO -  - K.T.C"。("C"後の"."刻印が忘れられています)

・最新のネプロススパナと、綺麗にクロームメッキされた二重丸京スパナのセットをアクリルボードで挟んであります。

・二重丸京モデルは鍛造型も残っておらず、また図面も残っていなかったため、現物から図面を興して鍛造型を新たに作成したとのことです。

・KTC関係者と社員のみに配布するために1,500本が製作され、ネプロスの裏面に配布者/団体の名称が記されています。

・この50周年記念スパナセットと同時に『工具とともに半世紀、KTC50年のあゆみ』という本が編纂発行されていて、二重丸京時代(1950年~1960年)の部分をこのページの最後に掲載します。

 

 ➇ 凸帯パネル/トヨタ向けOEM 

・トヨタ向けOEMで、トヨタロゴだけが刻印されています。

・丸トヨタでは無く、菱形◇トヨタになっています。

・菱形◇トヨタのロゴは、この商品以外では見かけません。

・KTCの凸帯パネル➀、➂~➄は凸の帯が左右で幅が異なりますが、この商品は左右の幅が共通になっています。

・また、裏面の”DROP FORGED”という表示はKTCでは見かけません。

・したがい、このモデルはKTC製では無いかもしれません。

・トヨタは1950年代後半からアメリカ向けにランクルを輸出開始していますので、このスパナも純正部品として同時に海を渡ったものと思います。

・そのランクルFJ40をレストアしていると言うアメリカ人から『こんなのを持っている』と送られてきた写真です。(アメリカのコレクターもあなどれません)

 

・アメリカ向けのFJ25カタログ(1960年4月発行)も送って貰いましたが、BX 91410という6本組みのスパナセットが◇トヨタのスパナだろうと思います。

 

 ➈ フラットパネル/シングルロゴ 

・スタンダードモデルが第2世代のフラットパネルに切り替わります。

・カタログに登場するのはこのフラットパネルが初めてになります。(1950年代後半版)

・JISマーク付きで、1954年から規格化されたJIS-S/スパナやり型。

・二重丸京だけのシングルロゴですが、実物が見つかっていません。

・実物が見つかっているのは次の➉二重丸京と楕円KTCのダブルロゴになります。

・品番は”CS”。

 

 ➉ フラットパネル/ダブルロゴ 

・上の➈に対し楕円KTCロゴが追加され、二重丸京とのダブルロゴになります。

・➈と同じくJIS-S/やり型です。

・なお、KTCのスタンダードモデル基本4モデル(凹帯、フラット、凸帯、凹丸)で、全てにJISマーク付きがあるのは、二重丸京時代だけです。

・品番”CS”は変わらず。

 

 ⑪ フラットパネル・ロング 

・フラットパネルのロングもあります。(JIS無し)

・スパナ形状は➈、➉のやり型では無く、丸型になっています。

・品番は、CSのロングなので、”CSL”。

・12x14で➈はL=140mm、ロングの➉はL=160mm。

 

 ⑫ 凹丸パネル 

・第3世代として凹丸パネルがダブルロゴ(楕円KTCと二重丸京)で登場します。

・1966年またはその数年以内に発行されたと思われる英語版カタログに掲載されていますので、1965年には販売されていたと推察しています。

・この後に登場するKTCスパナの定番とも言える楕円KTCの凹丸パネルは、品番(S10)と形状(凹丸パネル)共に、このダブルロゴから始まっています。

・フラットパネル➈、➉と同様にやり型ヘッドになっています。

・JIS認証を受けています。(JIS-S/やり型)

・インチサイズが多く流通しているようですが、ミリサイズもあります。

 

 ⑬ 凹丸パネル・ロング 

・ダブルロゴ凹丸パネルにもロングがあります。

・品番は、”S15”。

 

 ⑭ 凹帯パネル・ロング 

・一重丸京/京都機械の代名詞とも言える凹帯パネルと同一デザインのモデルが二重丸京にもあります。

・丸京マークは二重の線がつぶれているために一重に見えますが、ニ重丸京です。

・会社名がK.T.D.にも見えますが、K.T.C.です。

・JISマーク付きで、1955年に規定されたJIS-SやJIS-Hでは無く、JISマークだけの表ですので、1952年~1955年の商品と分かります。

・つまり、KTCも京都機械と同じデザインの凹帯パネルを同時期に生産販売していたことになります。

・KTC/二重丸京には凸帯パネルという標準モデルが既にあるにも関わらず、ユーザーが誤解するような一重丸京と同じモデルを何故KTCが作ったのか釈然としません。

・但し、一重丸京はスタンダード長さ(12x14でL=140mm)、二重丸京はロングタイプ(同じく12x14でL=182mm)であり、長さが異なる棲み分けにはなっています。

 

ロングでのJIS認取得について

・スパナJISは1957年に改訂され、全長が長くなって12x14でL=140mm、長さの誤差は±6%と規定されています。

・したがい、12x14ではL=148.4mm(140x1.06)まで許容されますが、凹帯パネルは長さがL=182mmながら、JIS認証を受けています。

・恐らく、JIS認証官の裁量で規格外ながら認めたのだろうと推察しますが、JISも初期は認証判断が緩かったのだろうと思います。

・ちなみに、世代が新しいロングのフラットパネル⑪や凹丸パネル⑬では、12x14でL=160mmと165mmであり、L=182mmよりかなり短くいなっていますが、JIS認証は受けていません。

 

凹帯パネル比較(二重丸京と一重丸京)

KTCには凹帯パネルのタペットスパナ⑮も設定されています。

凹帯パネル同士で二重丸京の2本と一重丸京を比較します。

↑上の2本は二重丸京、3本目は一重丸京

・写真は長さを実物に合わせてあります。(L=210mm、182mm、140mm)

・エキストラロングにロング、スタンダードといった感じです。

・デザインが似ていますので、同一ブランドと勘違いしてしまいます。

 

2)タペットスパナ

 ⑮ タペットスパナ 厚口 ボディー幅:太/品番 T4 

・凹帯パネルのタペットスパナ。

・タペットスパナは、普通は薄口ですが、このモデルは通常スパナ並みのt=5.4(14mm部)になっています。

・この厚みでタペットのダブルナット締め付けに使えるのかちょっと疑問ですが、昔の車のタペットナットは厚みがあったのか、または特別な使い道があったのかもしれません。

・縦卵形のヘッドが特徴です。

・片側のスパナはオフセットが無く、ストレートになっています。

・モデル⑧と同様に材質がNickel Chrome Vanadiumでは無く、Special Alloy Steelとの刻印表示になっています。(恐らく炭素鋼SC材)

・片側ストレートスパナとセット6種類のサイズは、現行モデルまで継続されています。

(10-12、12-10、12-14、14-12、17-19、19-17)

 

↓金属ケース

・ケースより品番がT4と分かります。

 

 ⑯ タペットスパナ 薄口 ボディー幅:中/品番 CT 

・薄口のタペットスパナも登場。

・t=4.5と少し薄口になりました。

・スパナヘッドが縦卵型から特徴的な横卵形に変わっています。

 

 ⑰-1 タペットスパナ 薄口 ボディー幅:細/品番 S20 

・さらに薄く軽くなった3代目のタペットスパナ。(KTCとのダブルロゴになって登場)

・ヘッドは真ん丸に。

・上の2代目⑭に較べると、スパナ部でt=4.5⇒4.2、胴長部でt=3.7⇒2.7、同じく横幅で12.5⇒11.0とかなり細身になっています。

・細くしすぎたのか、KTC版4代目では2代目と同様の厚みと横幅に戻っています。

 

2種比較(上が、下が

・全長は⑯の方が数mm長くなっているのは⑯のスパナが横長なため。

 

 

 -2 タペットスパナS20 陸上自衛隊向け 

・タペットスパナ/品番CTの陸上自衛隊向けです。

・自衛隊スパナは航空自衛隊向けがほとんどですが、陸上自衛隊向けを初めて見ました。

・単体の桜マークが陸上自衛隊向けの印で、中の"W"は武器/Weaponを示しています。

・インチ仕様ですので、アメリカ製の何らかの武器整備用と思います。

・複数の工具メーカーが自衛隊に納入していて、KTCも多くの工具を自衛隊に納めていたとのことでしたが、これまで見たことが無く、KTCの自衛隊向けを今回初めて確認できました。

・4本セットとして保管されていて、正規納入する前のサンプルと思います。

 

3)その他

 ⑱ 大型スパナ/丸棒タイプ 

・大型スパナの二重丸京版です。

・大型スパナは、京都機械/一重丸京から始まっているモデルで、二重丸京⇒楕円KTCと3世代に渡って生産販売されています。

・スパナ部根元に二重丸京刻印が無いのが残念です。(一重丸京版とKTC版には刻印あり)

・二重丸京版には適用メーカーの刻印が入っているモデルもあります。

↑トヨタとイスズの2

4社(民生は、日産ディーゼル/UDトラックの前身で、民生ディーゼル)

 

 

★一重丸京⇒二重丸京⇒楕円KTC

・同一デザインで一重丸京から楕円スパナまで3世代に跨がった唯一のモデルです。

 

★インチサイズ

・上部カタログの一番下に載っているニッサン向けインチサイズです。

・スパナ部に"1+1/16"、"15/16"、丸棒中央に二重丸京が(うっすらと)刻印されているのが分かります。

・"ニッサン"(日産自動車)のインチサイズはオースチン系の乗用車だけだと思っていましたが、頭部が27mmもの大きなボルトを使用しているインチサイズの日産自動車は何でしょうか??

 

 ⑲ 超ロング-1 

・とても謎な二重丸京を見つけました。

・謎な点は3つ。

(1) 他メーカーも含めて類の無い超ロング(14x17mmでL=280)

(2) 刻印は、サイズ表示を除くと小さな二重丸京ロゴのみ

(3) ロゴは、二重丸京シリーズの鍛造スパナで唯一の打刻刻印

 (丸棒スパナ⑱も打刻刻印ですが、引き抜き鋼管なので、打刻以外に方法がありません)

 

↑同じ二重丸京のタペットスパナとの比較

・14x17mmの設定が無いので、17x19mmと比較してみましたが、今回の超ロングスパナの長さが際立っているのが分かります。

 

↑KTCコンビレンチ(14mm)との比較

・スタンダードM41に対しロングのM45があり、またトヨタ専用にさらに長いコンビレンチが設定されています。

・トヨタ専用は、エンジン前面の補機類整備に使用するためのものです。(現在でもトヨタディーラーで入手可能)

・KTCのロングに対しさらに長いトヨタ専用がL=220であり、超ロングスパナL=280の長さがここでも際立ちます。

 

★納入先を推察

・カタログモデルでは無く、形状もロゴ表示も特殊であることから、特定ユーザー向けなのだろうと思いますが、なにせ二重丸京ロゴが刻印されているだけなので、どこ向けなのか不明です。

・可能性として以下の4つが考えられます。

1) 官公庁向け(自衛隊以外)…小さな製造会社表示があれば良い。

2) 自衛隊向け…桜マークが無いので、対象外。

3) トヨタ自動車の組立ライン…豊田市の中古工具屋さんで見つかっていることから、可能性あり。

4) トヨタディーラー向け…エンジン前面補機類用に専用の14mmロングコンビレンチ(前述)のOEM納入実績あり。

・KTCにも確認しましたが、『生産した記録は残っておらず、この製品を知っている人もいない』とのことでした。

・さらに、『二重丸京ロゴが手打ちで、かつ中央から少し外れたところに刻印されているので、特定ユーザー向けの少量生産品であろう』とのこと。

・二重丸京ですので、1950年~1965年の間で、KTCが創業して15年以内の製品になります。

・特定ユーザーで超ログスパナが必要になり、KTCに製作依頼したのだろうと思います。


 ⑳ 超ロング-2 

・KTCが保管している初期工具の中にも、超ロングで、打刻された二重丸京のスパナがありました。

・とても長く、かつ左右のサイズが大きく異なる9x21の異形スパナです。

・表に二重丸京だけが小さく刻印されています。

・特定ユーザー向けと思います。

・KTCにも記録が無く、どこ向けか不明とのこと。

 

3.ホルダー・コレクション

・トヨタ車載工具専用のホルダー。

・トヨタ納入モデル①の専用ロゴが刻印されています。(二重円の上端がつながっています)

 

・上と同じくトヨタ納入モデル向け専用ロゴが付いたホルダーの赤バージョン。

・裏面に京都機械工具の英語名が入っているのですが、現在使われているKYOTO TOOL CO.,LTD.では無く、京都機械工具を直訳して"KYOTO MACHIN TOOL"になっています。

・初期のカタログ(1960年前後)も会社名が"KYOTO MACHINE TOOL"になっています。

・KTC初期(二重丸京当時)に英語社名として使われていました。

・ホルダーの刻印は本来のスペル"MACHINE"から"E"が抜けているのはご愛嬌です。

 

 

4.一重丸京と二重丸京の競合と共通性について

(1)KTC創立直後

・京都機械/一重丸京とKTC/二重丸京の競合関係は、KTCが独立した直後から発生しています。

『KTC50年のあゆみ』に詳しく説明されていますが、トヨタに車載工具を納入していた京都機械/一重丸京とトヨタの価格交渉が暗礁に乗り上げ、結果として1950年5月に創業したばかりのKTC/二重丸京が創業翌月1950年6月からトヨタ納入に成功しています。

(2)その後

1952年にスパナのJIS規格が制定され、一重丸京と二重丸京はJIS認証を取得したスパナを共に販売していましたので、競合が発生していたと思います。

ただし、同じ工具販売店で両ブランドが共に売られていたなどの具体的な競合状況の情報は入手出来ていません。

1950年代後半の工具販売店状況を良くご存知の方によると、『一重丸京が二重丸京と共に店頭に並んでいるのを見たことは無い』とのこと。

一方で、京都機械は1954年に創設された航空自衛隊に複数種類のスパナを納入していたことが分かっていますので、自衛隊など公的機関への納入に力を入れていたのだろうと推測しています。(京都機械は1970年に工具事業から完全撤退)

 

★同じ雑誌に自動車整備工具として両社掲載(競合を示す実例)

 

↑1953年4月『自動車整備』の広告

↓1963年『日本の自動車工業』の見開きページでの会社紹介

 

5.KTC Brand Story

KTCは、英語版HPの中で、1939年(または1940年)に製造を開始した一重丸京/京都機械の零戦スパナを『KTC工具の中にある情熱の源』と位置付けています。

※英語版にだけ限定して、2009年2月から2015年10月まで掲載。

以下、主要部の和訳。(オリジナル英文も添付)

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=KTC Brand Story= (和訳) 

『ゼロ戦用の工具製作に情熱を注いだ男たちから受け継がれる高品質追求の遺産』
KTC工具の中にある情熱の源をたどるには、KTC が設立される前の 1939 年に遡る必要があります。
当時、KTCの前身(forerunner)ともいえる繊維機械メーカー"京都機械"は、世界基準をクリアした零戦の整備に欠かせない高性能かつ高品質の工具製作にいち早く取り組みました。
そして、その想いは、戦後すぐの物資が希少な時代においても高品質な鋼材のみを使用するという頑固なこだわりに引き継がれました。

 

6.二重丸京カタログ(全ページ版)

11950年後半(恐らくKTCカタログ第1号)

⇒ 詳細は当ブログ内のこちら

 

21966年頃の英語版カタログ

⇒ 同じくこちら

 

7.『KTC50年の歩み』より

社史『KTC50年の歩み』より、京都機械/一重丸京の戦後復興から、KTCの創立10周年(1950年~1960年)までの二重丸京時代を抜粋して掲載します。

↑KTC創業前(京都機械/一重丸京時代)

↓KTC創業

 

※2020年2月1日に初稿、2023年12月1日に完全書き直し。
 

この回、終わり

KTCスパナ全5編それぞれのページには、こちらから

全5編:一重丸京、二重丸京、S10(本稿)、S100、S10系以外