KTC訪問記

1. ものづくり技術館

2. KTC保有の珍しいスパナ

3. 初期カタログ

 

1.ものづくり技術館

5年前に引き続き、2度目の訪問です。

『ものづくり技術館』には約3千点のKTC現行品が大きな壁一面にディスプレーされていて、圧巻です。

この現行品展示は多くの方が紹介していますので、当ブログでは2階にある初期KTCの展示を中心に取り上げたいと思います。

実は前回訪問の5年前には私がまだ本格的なコレクションを始めておらず、2階にも展示があることに気が付かずにいたので、再訪を楽しみにしていました。

なお、KTCから特別の許可を貰い、個別に商品写真を撮らせて貰っています。

※『ものづくり技術館』の全体を紹介しているWebは、こちら

 

1) 1階入口展示

★九九艦爆『機体整備要具筐』

・創業者3人の内の一人、宇城氏が戦時中に使用していた工具箱と工具。

・宇城家の倉庫に眠っていたのを『ものづくり技術館』に持ってきたとのこと。

・工具ケースに『九九式艦上爆撃機用』と表示されていますが、中身はやすりなどの加工工具に入れ替えられていて、一重丸京/京都機械の工具は入っていません。

・但し、京都機械の社史『35年史』によると、戦時中の京都機械工場内に木工工場があり、工具箱を作っていたとのことですので、工具箱は京都機械製なのかもしれません。(どこにも製造者の表示はありませんが)

 

 

・九九艦爆の工具箱の中にスパナが一本だけ入っています。

・薄くて平たいスパナなので、打ち抜きだろうと思います。

・桜マークが刻印されていますので、海軍向けと分かります。

・一重丸京ロゴはありませんので、京都機械製ではないようです。

・桜マークとは別にさらに3つのマークが刻印されています。

・一つは、○に漢字の"工"またはカタカナの"エ"、もしくはアルファベットの"H"。

・このマークは他の戦時中工具で良く見かけますが、意味は不明です。

・さらに、○に"AC"と、○にカタカナの"マ"、これも意味は不明です。

【2024年3月16日追記】

九九艦爆は愛知航空機製であることから、"AC"の"A"は愛知航空機を示している可能性あり。

 

2) 航空写真(1階入口の床)

・一階入口の床に京都盆地全体の航空写真が埋め込まれています。(上方に京都御所)

・赤い点が、KTC本社/久御山工場と『ものづくり技術館』の場所。

・実は戦時中に京都に飛行場があり、KTC久御山工場はその一角に位置しています。(飛行場を示す赤枠は私が写真に追加)

・海軍予科練の陸軍版とも言える陸軍飛行学校・京都教育隊があり、練習機専用の飛行場でした。(日本に13あった陸軍飛行場のひとつ)

・京都飛行場から琵琶湖(写真右上の水色)までが主な練習コースだったとのこと。

・京都飛行場の陸軍練習機…キ55 九九式高等練習機、キ9 九五式一型練習機、キ86 四式基本練習機

・この写真は恐らく西側から東の宇治方向を撮っているのだと思いますが、ちょうど写真の中央辺りがKTC久御山工場の場所になるのだろうと思います。

 

★京都飛行場の紹介Web

京都飛行場跡

巨椋池(おぐらいけ)…昭和の初めまで日本で一番大きな池だった!

 

3) 2階展示

2階の吹き抜け部廊下にある11面一列のガラスケースに一重丸京/京都機械と初期のKTCが展示されています。

※単品写真には従来通りの背景色を使っています。

一重丸京…薄青、二重丸京…薄緑、KTC…青、OEM…緑

 

 1面目 

↑一重丸京/京都機械の展示

・海軍パイロット用『携帯要具』カバン。

・右側に置いてあるカタログ2冊はKTCです。(フルページの一重丸京カタログを是非とも見たいところです)

 

★海軍パイロット用『携帯要具』カバン

 

・京都機械製の『搭乗員用、携帯要具』カバン。

・登場時にパイロットが機内に持ち込み、何かあった時の簡易整備に使用したのだろうと思います。

・カバンに一重丸京/京都機械製を示す銘板が取り付けられていますので、同じく一重丸京の工具が入っていたのでしょう。

・銘板に3種類のマークが刻印されていて、左側はイカリマーク(海軍向けの印)、左側が一重丸京。

・中央のマークは○にカタカナの"オ"の様に見えますが、何でしょう?

↑"要"と"共-2"が刻印された一重丸京スパナ(裏に一重丸京の刻印)

・発動機名など特定の機種を示す刻印が無いので、何用なのだろうと思っていましたが、例えばこの『携帯要具』カバン等に共通要具として入っていたのかもしれません。(スパナは展示物では無く私の手持ち品)

 

 2面目 

↑KTCの初期カタログ類(二重丸京と楕円KTC)

・1950年代の二重丸京カタログ(恐らくKTCの第一号カタログ)をスキャンさせて貰いましたので、この後に全ページを掲載します。

 

 3面目 

↑ラチェットハンドル・バリエーション

(現代物NEPROSなので、古い物が主流の他の2階展示とはちょっと異なります)

 

 4面目 

↑ミラーツールセット(1985年頃)

(ここにもNEPROSのラチェットハンドルが)

 

 5面目 

↑1980年前後の製品群

 

 6面目 

↑二重丸京と楕円KTCのダブルロゴ製品群(1960年前後)

 

 7面目 

↑二重丸京のシングルロゴ製品群(1950年代)

 

 8面目 

↑OEM製品群

・一重丸京/京都機械がトヨタに初めて供給した凸帯スパナ(3本セット)とフランスMG社向けコンビレンチの詳細写真がこれまで無かったので、この2モデルの写真を撮るためだけにでも京都を訪れたいと思っていました。

 

★一重丸京/京都機械、最初のトヨタ向け車載スパナ(1953年)

・終戦後の1947年に生産を再開したトヨタBM型トラック向けの車載スパナ。

・表面にカタカナ"トヨタ"、裏面に一重丸京が刻印されています。

 

★フランスMG社向けM41コンビレンチ(1970年頃)

・このKTC展示以外では見ることが出来ない貴重なフランスMG社向けM41。

・MG社についてはKTCにも記録が残っていないとのこと。

・ヨーロッパ製品は英国ebayに良く登場するので、1年ほど追い掛けてみましたが、このブランドは全く登場せず、詳細不明です。

 

★トヨタへの感謝

・KTC創業(1950年)と同時に車載スパナの調達をKTCに変更するなど京都機械から独立したKTCを支え続けてきたトヨタへの感謝が分かるコメントカード。

・カードの上下展示はKTC製トヨタ向け2種。(凹丸パネルS10と異形コンビレンチ)

 

 

 9面目 

↑チタン試作品、医療ツール、KTC労働組合発行の15年史と30年史

・チタン製の凸丸スパナ2本は、"Fx"の製造記号が付いたFULLER向けスパナボディーを使用していて、試作品ですので、表裏共にブランド無刻印です。

・3本目のチタン製品として楕円KTCが刻印された専用凹帯パネルスパナも一緒に展示されていて、下に詳細写真を。

・KTC労働組合の年史には商品に関する特別な情報は書かれていませんでした。

 

★チタン試作品(1980年頃)

・チタン試作品で、裏面の"TITAN"が目立っています。

・表面の"HI-TECHNICAL TOOL"は新たな製品名称です。

・かっちりとした凹帯パネルは、他の製品には無く、このモデル専用になっています。

・かなり具体的な製品であり、発売直前まで行ったのかと推測しますが、コメントカードにあるように原価と販価の整合性が取れなかったようです。

 

 10面目 

・KTC社史『50年のあゆみ』と、一重丸京/京都機械モデル群。

・『50年のあゆみ』はKTCのバイブルです。

・あまり見ることの無い一重丸京モンキーレンチが展示されているのは流石です。

 

★一重丸京/京都機械、初市販モデル"KKK"(終戦の年、1945年に登場)

・セットでのKKKモデルは、なかなか見かけない貴重品です。

・ホルダーの一重丸京ロゴが、真円では無く楕円になっています。

 

 11面目 

・KTC創業者3名の内の一人、宇城氏(現会長のお父さん)のメモ類と戦前から使っていた氏の手作りによる彫金用ハンマー。

・プロとは『自分で使う工具は自分で作る人』だと私は思っています。

・これを引き継いでいた方が停年時に『お父さんから譲り受けたハンマー』として現会長に再度引き継いだとの逸話付き。

・戦時中、紫電改/"譽"発動機用スパナに細かな文字の"譽"を刻印した時のハンマーなのかなと思いを馳せました。

 

【感想】

日本唯一の工具ミュージアムとして圧巻の展示でした。

但し、一重丸京を含めたKTCの歴史にもっと重きを置いた展示になれば良いなと感じました。

例えば、スパナのスタンダードモデルだけを取り上げ、一重丸京の初市販モデル"KKK"から二重丸京、楕円KTC/S10とS100、海外向けFULLERを経て、現代のS20までをずらっと時系列に並べると圧巻なのかと思います。(30本は並びます)

このスタンダードモデル群の先頭にKTCの原点とも言えるゼロ戦スパナが置かれていれば最高ですね。

来る2025年のKTC75周年に向けて、期待しています。

 

4) 工場見学

・鍛造からメッキまで自社で一貫生産しているのは工具会社ではKTCだけとのことで、全工程を見学させて貰いました。

・スパナやコンビレンチ類は熱間鍛造でエアーハンマー、ソケットは冷間鍛造で、騒音防止のために緩衝材で支えられた浮き床とのこと。

・1000度に熱せられた真っ赤な丸棒がドスンと押しつぶされてコンビレンチになり、数センチの厚みの丸棒が冷間鍛造の一発で奥の深いソケット形状に変形する様は圧巻でした。

・メッキは社外だろうと思っていたのですが、メッキまで自社工場内で実施していて、驚きました。(半光沢ニッケル⇒光沢ニッケル⇒クロムメッキの3層)

・ちなみに、鍛造型も社内で作っているとのこと。

・工場内は撮影禁止のため、写真を掲載できないのが残念です。

 

 

 

 

初代と2代目のケイティーちゃん。

 

 

2.KTC保有の珍しいスパナ

『ものづくり技術館』の2階に初期モデルが展示されています。

その初期モデル展示品を選ぶ時の元になったKTCが保管している工具群を見せて貰いました。

二重丸京を中心に多くの未使用品が目の前に現れ、目が飽和してしまいましたが、大半はこれまで当ブログで紹介してきたカタログモデルでした。

その中に、これまで見たことが無かった非カタログモデルが含まれていましたので、以下にその詳細写真を掲載します。

 

 ➀ 二重丸京/異形ロング(9x21) 

・とても長く、かつ左右のサイズが大きく異なる9x21で、異形スパナです。

・表に二重丸京だけが小さく刻印されています。

・特定ユーザー向けと思います。(KTCにも記録が無く、どこ向けか不明とのこと)

 

 ➁ 二重丸京/陸上自衛隊向けタペットスパナ 

・タペットスパナ/品番CTの陸上自衛隊向けです。

・自衛隊スパナは航空自衛隊向けがほとんどですが、陸上自衛隊向けを初めて見ました。

・単体の桜マークが陸上自衛隊向けの印で、中の"W"は武器/Weaponを示しています。

・インチ仕様ですので、アメリカ製の何らかの武器整備用と思います。

・複数の工具メーカーが自衛隊に納入していて、KTCも多くの工具を自衛隊に納めていたとのことでしたが、これまで見たことが無く、KTCの自衛隊向けを今回初めて確認できました。

・4本セットとして保管されていて、正規納入する前のサンプルと思います。

 

★赤トンボ/"天風"発動機用の整備工具ケース

・一重丸京/京都機械の赤トンボ/"天風"発動機向け整備工具ケースが、KTCに保管されていてびっくりしました。

・海軍航空機の整備工具で中身の工具一式まで揃っているのは私が知る限り世界に2つしか無く、『3つ目の登場!』と思ったのですが、残念ながらケースだけでした。

※中身が入っているのは、米国スミソニアン博物館が保管しているゼロ戦/"榮"発動機用と、予科練平和記念館(茨城/霞ヶ浦)の赤トンボ/"天風"用の2つだけ。

 

 

・ケース横に"天風"の大きな印付き。

・銘板打刻の"京機"より京都機械製、さらに昭和18年/1943年10月生産、662基目と分かります。

・中央の刻印マーク3つは、左が海軍向けを示す"錨マーク"、右が京都機械を示す"一重丸京"。

・中央のマークは、○に”オ"またはアルファベットの"K"に見えますが、よく識別できません。(3つ共に前述の搭乗員工具カバンと同じマークになっています)

・予科練平和記念館の同銘板は半年前の昭和18年4月製であり、3色刷になっていて、この半年で原価低減されたのかなと思います。

 

★『予科練平和記念館』が保管している赤トンボ/"天風"用の整備工具一式

↓銘板は3色刷り

⇒ "天風"整備工具の詳細は当ブログ内の、こちらにて。

 

 

3.初期カタログ

二重丸京シングルロゴ時代のカタログが、KTCが保管しているカタログ群で一番古いものです。

発行年が記載されていませんが、1950年代後半と推察しています。

初代の凸帯スパナからフラットスパナに切り変わた時点でのカタログです。

市販モデルが全て掲載された一番最初のKTCカタログではないかと推察しています。

また、二重丸京と楕円KTCのダブルロゴになってからの英語カタログも保管されていました。

とても貴重な資料であり、KTCの許可を貰いましたので、この2冊を全ページ掲載します。

 

★スパナ変遷と生産年

・スパナ生産年ならびにカタログ発行年を特定するためにスタンダードスパナの変遷を一覧表にまとめました。

・年代が明確に分かるのは広告だけになり、残念ながらこのカタログに登場するフラット二重丸京シングルロゴ➂がいつ登場したのか明確には分かりませんでした。

・凸帯パネル➁が少なくとも1954年には登場していたことが分かりますので、その後継であるフラット➂は1950年代後半と推察します。

 

☆この後は最後までカタログ掲載が続きます☆

 

1) 1950年代後半

↑二重丸京シングルロゴ

・フラットスパナは二重丸京と楕円KTCのダブルロゴだけだと思っていましたが、このカタログより二重丸京だけのシングルロゴモデルがあったことが分かりました。

・現物が見つかっていませんので、探したいと思っています。

↑第1世代/凹丸コンビレンチ(ディープオフセット)

裏面の材質表示は"Special Alloy Steel"ですので、一般鋼と理解していましたが、カタログによるとクロモリ製なんですね。

 

 


2) 初期英語版(1966年頃)

・英語版カタログです。

・これも発行年の記載がありませんが、冒頭解説文に『1966年からの5カ年計画』の説明が載っていますので、1966年またはその数年以内の発行だろうと思います。

・凹丸パネルで二重丸京と楕円KTCダブルロゴの時代です。

・英語版ながら、初期KTCの貴重な資料です。

・8頁に凹丸パネル(二重丸京と楕円KTCダブルロゴ)が掲載されていますが、品番S10が既に採用されていることが分かりました。(楕円KTCのシングルロゴになってから品番S10が始まったと思っていました)

 

 

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★『ものづくり技術館』入口(東門)

 

★外観が工具箱の事務所

 

★工場正門(北門)

 

 

この回、終わり