ハタ坊のおでん | 昭和80年代クロニクル

昭和80年代クロニクル

古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

 

 

1.長渕剛

2.ザ・ブルーハーツ

3.尾崎豊

4.叫ぶ詩人の会

5.斉藤和義

 

大学4年生のときは就職活動でいくつかのレコード会社も受けた。

あるいは応募した。

 

今の就職活動はみなインターネットの応募なのかもしれないが

オレらが大学生のときはまだネットもスマホもなかったのでアナログ方式。

 

受けたい企業の住所を自分で調べて、「御社の新卒採用を受けたいので

会社案内や応募書類を送ってくれませんか」的な旨を普通ハガキに手書きで

書いてその企業の人事宛てに郵送すると、企業側から応募用紙や会社案内が家に

郵送されてきて、書類選考がある場合は同封されているエントリーシートに記入して

送り返すという流れだった。

 

レコード会社の場合、音楽業界だけあってエントリーシートに

「好きなアーティストを記入してください」

という欄があることは珍しくない。

 

当時、ファンハウスというレコード会社(現在はいろいろあって名称変更したらしい)を

受けようと思い、資料請求のハガキをだしたら、後日ファンハウスから会社案内とエントリー

シートが送られてきたのだが、エントリーシートの内容に学歴とは別に、

「好きなアーティストを5組とその理由を書いてください」

という欄があった。

 

記事冒頭に挙げた5組の名前はオレがそのとき、ファンハウスのエントリーシートに

書いたアーティストの名前である。

 

いや、わかってはいたのだ。

音楽の趣味に正解不正解はないけれど、仕事として音楽業界を駆け巡る営業マンとして、

またレコ―ド会社の就職試験に受かるための答えとしては、オレが書いた答えは‘不正解’で

あることは。

 

ほぼみんなメジャー。ほぼ一般的な人気モノ。

ごりごりの社会派メッセージを発信しているひとばかり。

 

でも嘘はつけなかった。だから正直に書いた。

ただひとつ嘘よりなことを書いたとすれば5番目の斉藤和義。

全然嫌いじゃないが、5組のうちひとりくらいはファンハウス所属のアーティストを書いて

おいたほうがいいかと思った。

当時CDTVのオープニング曲で斉藤和義が「郷愁」という歌を歌っており、その曲は

けっこういいかなと思ったので、5番目に斉藤和義と書いた。

 

このエントリーシートを返送したあと、長渕ファンのバイト仲間にこの5組のアーティスト名を

エントリーシートに記入したことを伝えたら、笑いながら

「○○さん!それ、それだけでもうどんな人かわかっちゃうじゃないですか!w!」

といわれた。

てか、もう長渕と尾崎がいるだけでオレがどのジャンルに属する人間かバレバレだろう。

焼け石に斉藤和義である。

 

レコ―ド会社の採用担当者からすれば、そんな偏った音楽聴く人間よりも、もっと通好みな

インディーズバンドや、知る人ぞ知る海外の歌手とか、いろんな音楽をしっている人間を

採用したかったに違いない。

 

結果はもちろん書類選考落ちだった。

 

でも4番目に書いた「叫ぶ詩人の会」は今でもいいセンス&チョイスだったんじゃないかと

思う。そんなメジャーじゃなかったし、知る人ぞ知るバンドだ。

 

10代のころ、土曜日の夜、ニッポン放送で「ドリアン助川の正義のラジオ!ジャンベルジャン」

という番組がやっていて、いつも聴いていた。

若者向けの電話悩み相談の番組だが、そのパーソナリティをやっていたのが、叫ぶ詩人の会の

ヴォーカル、ドリアン助川だ。

 

叫ぶ詩人の会というバンド名はなんとなく聞いたことがあったが、ドリアン助川という名前を

聞いたのはそのラジオが初めてだった。

 

番組を聴いているとオレの好きなタイプのアーティストだということがわかった。

悩み相談だけど、綺麗事とかいわないのだ。かといってそんなアツくもない。

好感が持てた。

 

同時に番組の中でよく叫ぶ詩人の会の曲も流れていた。

曲も好きになって、アルバムも何枚か購入した。

 

ただ、アルバムには収録されていない?が、ラジオのなかで何回か流れている好きな曲があった。

それが

「ハタ坊のおでん」

という曲だ。

 

 

 

 

アニメファンの人には説明するまでもないが、ハタ坊というのは赤塚不二夫の

マンガ「おそ松くん」に登場するキャラクターである。

 

言葉の語尾に「じょー」をつける。

頭のてっぺんにハタがささっているからハタ坊。

 

そのハタ坊が持っているおでんと人生を照らし合わせた歌である。

 

マンガにでてくる串に刺さったおでんは○と△と□で表現される。

今までの人生はそのおでんに似ているという歌詞。

 

そう、○や△の出来事はあったかもしれないが、すべてをだめにする

×はなかったという歌である。

歌の出だしも好きだ。

 

 

前の日の酒が残っていて

 

タバコなんかも吸い過ぎてしまい

 

爪を切ったら深爪で

 

電話さえ鳴らない昼下がり

 

 

 

ドリアン助川の歌詞には共感が宿っている。

 

ときにはダメな日もある。

いや、ときにはどころか連続してダメはときもある。

でも、生きていたっていいじゃないか。

 

そんな感じとでもいおうか。

 

 

オレの人生に○は少ない。

いや、もしかしたらまったくないかもしれない。

ほとんどが△だ。

 

だけど、人を殺めてしまったとかいうような、誰が見ても決定的な×もない

といえる。

 

おでんで△といえば、厚揚げだろうか。

○といえば大根だろうか。

 

厚揚げは厚揚げで美味い。

そしていつか大根が食べられる日もくるかもしれない。

「ハタ坊のおでん」

はそれを教えてくれる。

 

ちなみに、小学生のとき、自分の生い立ちを親に訊いて発表するという宿題が

あった。

 

それで親に自分が赤ん坊のころの出来事を訊いたら、

「ねずみに耳をかじられて流血した」

と聞かされたことがあった。

赤ん坊って、ミルクっぽい匂いがするからネズミが寄ってきたのかもしれない。

これは、ちょい「×」。

友人にこれを話したら、「ドラえもんじゃん!!」と言われた。

 

 

 

冒頭のPVはまだ流行る前の新横浜ラーメン博物館で撮影されたようだ。

金髪のドリアン助川が若い。

そういえば、オレは観ていなかったんだけれど、ドリアン助川って「金髪先生」

っていう洋楽を紹介する番組で人気でたんだよな。

 

あ、冒頭の動画を最後まで観てくれた人は気づいたと思うけれど、

演奏がジャン!っていったん終わったあと一言、

 

「あれ~? おでん持ってたのチビ太じゃなかったっけ??」

 

というオチが入っている。

 

そうなのだ。

オレも最初、「ハタ坊のおでん」という曲名を聞いたとき、普通に

「ああ、ハタ坊のおでんか」と思ってしまったが、実はおそ松くんに登場するキャラ

の中で、いつも手におでんを持っているのは、ハタ坊ではなくてチビ太なのである。

 

オチがしっかりあるコミックソング×メッセージソングなのだ。

 

 

 

ちなみにずっと昔にも美輪明宏のヨイトマケの歌とセットで記事に書いて紹介

したけど、もう10数年経っていて新しい読者さんのいるだろうことなので改めて

叫ぶ詩人の会のお気に入りの歌をもう1曲紹介。

「抱きしめたい」という歌。

 

曲名だけ聞くと、よくあるラブソングかと誤解されるかもしれないが全然違う。

手垢のついたよくあるラブソングは、ひとりの異性をとにかく愛しているという

ような歌だが、この曲はこの社会に生きるいろんな人を抱きしめたいと歌っている。

たとえば、

 

故郷に仕送りしている立ちんぼの売春婦を―

人の家の火事なのに、命をかけて消火している消防士のニイチャンを―

毎朝こびりついた便器のウンコを掃除している駅員を――

 

などなど、ドリアン助川が抱きしめたいいろんな人が登場する。

 

大学時代、同じ長渕尾崎ファンの友人のこの曲が入ったアルバムを貸したとき。

「抱きしめたい」って曲がおススメだから絶対聴いて!といったら、

後日、酒呑みながら聴いて号泣したといっていた。

お暇なときでいいので是非聴いていただきたい。