姫野カオルコ「彼女は頭が悪いから」他 | 昭和80年代クロニクル

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古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

 

彼女は頭が悪いから 彼女は頭が悪いから
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これまでの人生で一度だけ法廷に立ったことがある。

小中学校のときの社会科見学で、とかではない。

れっきとした原告のひとりとしてである。

 

営業担当していた業者が金を支払わず意図的にバックレたため、

その一味のひとりをとっつかまえて、ひっぱりだしての裁判だった。

 

とはいっても少額訴訟なのでとても小さな法廷だ。

オレは訴訟の段取りとか素人だから、流れや進行は同行した総務の人に任せ、

あくまで担当営業マンということで証人として出向いて、必要なときだけ隣りで答えて

いただけである。

 

どこだったかな。なんとなく霞が関とかその辺だった気がする。

裁判所の中にたくさんの小さな法廷があって、自分たち部屋の前にゆくとしっかり

開廷する予定の貼り紙があり、社名とか書いてあった気がする。

 

裁判所だから当然といえば当然なのだが、しっかり傍聴席とかあって改めて

「ああ、裁判所なんだなあ」と感じた。

 

裁判の結果は長くなるので、さておき――

小さな出版社と小さな業者の間の数万円の少額訴訟だったので、興味あるどころか

そんな裁判をやっていることすらしる人間などいるはずもなく、法廷は原告であるオレと

総務の人、被告である相手の業者ひとり、そして裁判官の合計4人だけで速やかに

進行して終わったのだが、もし、そんな小さな裁判でも興味あるような少額訴訟傍聴マニア

とかがいたら、自由に見学できて、オレのカミカミ受け答えとかも聞かれておかしくない

んだと思うとちょっと恐ろしく感じた。

どこの誰かもわからないやつに、自分の発言とかを聞かれるわけだから、

 

ずっと前に「それでもボクはやっていない」という痴漢冤罪の映画を観にいった。

テーマのとおり、加瀬亮演じる主人公は本当に冤罪なんだけど、裁判が終わったあと

傍聴席にいたニヤけた若い男から、「なあ、本当はやったんだろ!」みたいなことを

いわれて怒り、手をあげそうになるが近くにいた友人から止められる。

「相手にするな! 性犯罪の事件ばかりみてまわっている趣味の悪い傍聴マニアだ!」

と。

 

リアルだ。たしかにいそうだ。いや、いそうじゃなく、実際にいるんだろう。

でも残念ながら、事件の真意より内容にくいつくような悪意のマニアでも法廷を邪魔しない

限り、そして席がある限り見学する権利はあるのだ。

 

しかしもっと突きつめていえば、法廷まで足を運ぶか運ばないかの差だけで、実際そういう

ニュースに興味を示す本質は老若男女問わず誰にでもあるかもしれない。

 

 

―― いやらしい事件がおきると、人はいやらしく詳細をしりたがる。

被害者はいったい、どんないやらしいことをされたのだろうと。

 

これは姫野カオルコの話題作『彼女は頭が悪いから』の冒頭に書かれている

釘をさすような一文である。

 

そう、書評などをチェックしている人は既にご存知だと思うが、2016年に

豊島区のマンションで実際におこった東大生による集団強制わいせつ事件を

モチーフにして描かれた小説である。

 

――

私は東大生の将来をダメにした勘違い女なの?
深夜のマンションで起こった東大生5人による強制わいせつ事件。

非難されたのはなぜか被害者の女子大生だった。
現実に起こった事件に着想を得た衝撃の書き下ろし「非さわやか100%青春小説」!

 

横浜市郊外のごくふつうの家庭で育った神立美咲は女子大に進学する。

渋谷区広尾の申し分のない環境で育った竹内つばさは、東京大学理科1類に進学した。

横浜のオクフェスの夜、ふたりが出会い、ひと目で恋に落ちたはずだった。

しかし、人々の妬み、劣等感、格差意識が交錯し、東大生5人によるおぞましい事件につながってゆく。
被害者の美咲がなぜ、「前途ある東大生より、バカ大学のおまえが逮捕されたほうが日本に有益」

「この女、被害者がじゃなくて、自称被害者です。尻軽の勘違い女です」とまで、

ネットで叩かれなければならなかったのか。

(amazonより引用)

 

記事冒頭で、「あーなんだ、今日は本の紹介かよ」と思いつつ、さーっと読んできて、

ここで「強制わいせつ事件」というワードがでてきたことで急にじっくり読みだした人がいたら

まさにそれが姫野氏のいったことなのだ。

 

社会的にセンセーショナルといえばセンセーショナルな事件だった。

 

オレは基本、東大生だろうがニートだろうが不謹慎なことをやるやつはやるし、

やらないやつはやらないという考えだから、さほど驚くこともなかったが、

あの事件を機会に東大生の感覚というのが問われたりするようになった風潮はある。

 

最近はテレビでもやけに東大生をクローズアップしたクイズ番組とか多い。

あの類は好きになれない。

学歴社会を助長するとかいうほどのレベルでもない。

 

出演している東大生はハナにつく人間が多いが、東大生にだって好感持てる

学生はたくさんいるのはわかっている。かといってハナにつかない控えめな

東大生を出演させたら数字がとれない。

だから意図的にハナにつく東大生を画面に出している製作側の企みもまた

ハナにつくので、もうこんがらがって観る気もおきない。そんな感じ。

 

他人が東大に入りたいというのを心から応援したのは、元気がでるテレビの

「頑張って東大に入ろうね会」を観ていたときくらいだろうか。

コーナー内で主役的にとりあげられていたHくんは、結局東大には落ちたが

早稲田だか慶応には合格。

 

東大不合格は残念だったなあと悲しんだけど、同時にそれでもすべり止め感覚で

早稲田・慶応が合格できる脳を持っているのは贅沢だなとも感じた。

しかし、そんなHくんものちにスキーで事故死したときいたときは驚いた。

 

で、話は戻るけど、東大生が事件をおこすということは決して特殊ではない。

学歴がよくても聖人ではないから。

これは決して擁護しているわけでもなければ、差別しているわけでもなく当たり前の

表現。

 

でもやはり、出る杭は打たれるというか、ある意味での有名税的なものというか

トップでエリートという大衆意識を持たれた東大にすすむ以上、もしなにか不謹慎な

ことをやれば必要以上に叩かれるというのは覚悟して、すすむべきさだめはある

かもしれない。

 

マスコミや大衆が静かに望むのは、その落差だと考えられる。

4回覚醒剤で捕まった人間が、また5回目で捕まってもさほど騒いだり叩いたり

しないが、ずっと真面目で清楚なイメージで通っていた人が、一回間がして

覚醒剤に手をだしたときのほうがサバトのごとく熱狂して、ここぞとばかり叩く。

 

たまに介護士が事件を起こすが、その際メディアは犯人の職業として

会社員ではなく、「介護士」と報道する。

通常のサラリーマンが逮捕されたら職業「会社員」と報道される。

介護士だって雇われている会社員なのに、なぜ会社員ではなく、「介護士」と

報道するのか。

 

理由は単純。

本来は人を手助けするはずの職業の人間が、人を殺したという大きな落差が

見出しに躍ったほうが、大衆心理がざわつくからである。

地味な公務員が人殺すと、職業には公務員とだけ表示されるが。警官が人殺したときは

職業・警察官とでるのも似たようなもの。

 

なので、これから東大を目指す人間は、順調にゆけば周囲の人間よりも安定ある

将来や、豊かな収入が待っていると思うが、もしなにか間違いを犯した場合、周囲の

人間の場合よりずっと強く叩かれ晒されるという覚悟も持って欲しい。

偏差値45以下の人間として愛情含んだ妬み僻みも込めてそれだけいいたい。

 

またまた本題からそれてしまったが、誤解ないようにいっておくとこの小説は

あの事件を綿密の取材して忠実に小説にしたとかそういうのではない。

 

実際に報道された全裸にした女子学生の上にまたがり、カップ麺の熱湯を体に

かけたとかいう描写はあるが、基本はあくまであの事件と思想をメインとして描かれた

半フィクションである。

 

名前を変えてあるとはいえ、モデルとなった被害者がいる事件なので、

面白いとか面白くないとか、おすすめだとかおすすめじゃないとか、オレのそういう

言葉はここではあえて遠慮させていただくが、過激さではなくモラルとかについて

自分なりにいろいろ考察してみたい人は一読してもいいかもしれない。

 

 

今回読んだもう1冊。

 

 

――

「突然のメッセージで驚かれたことと思います。失礼をお許しください」――

送信した相手は、かつて恋人だった女性。

SNSでの邂逅から始まったぎこちないやりとりは、徐々に変容を見せ始め……。

ジェットコースターのように先の読めない展開、その先に待ち受ける驚愕のラスト。

覆面作家によるデビュー作にして、話題沸騰の超問題作!

(amazonより引用)

 

うーん、SNSにおける送信、返信のやりとり形式での文章進行というのは

読みやすかったのだが、オチが……。

 

料理でいえば、不味くはないのだが思いきり薄味というような。