三鷹 いしはら食堂 | 昭和80年代クロニクル

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古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

 

大学時代のバイト経験から、オレは自分が接客業に向いていない

ことと、接客業で働くべき人間ではないことがわかった。

 

理由はとても簡単。

記憶の限り、来店したお客さんにたいして心から「ありがとうございました」

といったことがおそらくない。

店に来てくれて、本当に嬉しくてありがたいからいっていたのではなく、

あくまでそういう「言葉」「笑顔」というマニュアルだったから。

 

正直な話、経営しているオーナーや店長と、非正規社員やバイトとの間には

店が忙しくなってほしいという思いにかなりの温度差がある。

 

オーナーや店長は自分の持っている店だから当然売り上げは重要なわけで、

お客さんが来てくれて忙しくなればなるほど、嬉しい悲鳴かもしれないけれど、

時給や固定給で雇用されている人間からすれば、忙しいのは単純な悲鳴に

過ぎない。

 

いずれその店で正社員や社長になるという夢があるのでれば店の存続にかかわって

くるので話は別かもしれないが、時間給、非正規雇用という割り切った仕事で同じ

時給をもらえるのであれば、そりゃ人間だから、死ぬほど忙しいよりも比較的ヒマなほうが

いいに決まっている。

学生時代、ただただそう思って働いていた。心構えの問題とかそういう綺麗事抜きで。

 

厳密にいえばヒマ過ぎても時間経つのが遅くて辛いので、そこそこいい具合に来客

があるのがちょうどいい。それは一緒にバイトしていた人もいっていた。

 

だから、オレみたいな思想を持ってて、来てくれたお客さんに心の底から

「ありがとうございました」といえない人間は、きっとそういうところで働く資格もなければ

業界からも求められていないし、そもそもそういう場で働くことが自分の店を選んできて

くれるお客さんに失礼なことだから許されないことだと考えている。

たまにコンビニいって不愛想に「ありあとやしたー」とかいう店員を見かけるたびにも

つくづくそう考えてしまう。

 

そんなこともあり、逆にいえばたまに入った飲食店から食べ終わってでるときに

掛けてくれる「ありがとうございました」という声が、本当に心がこもっているか

どうかということも敏感に察する能力がついた気もする。

 

「たくさんあるご飯屋さんの中からうちを選んできていただいて本当にありがとう

ございます!」

という純粋な感謝を感じる店もあれば、本心のお礼ではあるだろうけれど、

それは選んでわざわざ来てくれてとかいうほどの深いものじゃなく、単純に

「お金を落としてくれてありがとうございます」という意味止まりの言葉だったりも

識別できる。

そして、若き日のオレのように特別感謝してないけれど、一応お客さんだし

マニュアルだからいわないといけない、というレベルでいっている店も完全に見抜ける。

 

そんな若いころのオレ自らの姿を反面教師とする意味でも、心から本当に

「ありがとうございました!」といってくれているお店に出逢うと、とても尊敬するし、

なんだか安らかな気持ちになれるのである。

 

今回はそんな素敵なお店を紹介。

 

『いしはら食堂』

東京都三鷹市下連雀3-6-27

詳しくはココ

 

 

三鷹駅前から歩き、太宰治文学サロンをこえてすこしいったところにある

昔ながらの定食屋さんである。

 

昔ながらの街の食堂を紹介する雑誌などでにはよく掲載されている。

ドラマ「孤独のグルメ」の撮影を断ったこともあるという地元では有名で

愛されている店だ。

孤独のグルメといえば原作者が三鷹市民の久住氏だが、さぞ残念がったこと

だろう。

 

前から一度訪問してみたいと思っていた店のひとつで、タイミングをみて

やっと訪問。

時間は正午を2、3分回ったところだと思う。

 

引き戸にガラス部分がまったくないので、中の様子が一切わからない。

 

思い切って開けて入ると、既にたくさんの人がテーブルをうめていたが、

幸いにもカウンターはまだ2席した埋まっていなかった。

 

一番奥が空いていたのでそこに座らせれていただいた。

 

噂通り店内は素敵でどこか懐かしい空間だ。

 

 

ご家族での経営と思われて、カウンターの中ではお父さんとお母さん?らしき

方々が調理をされていた。

 

お父さんは腕のいい気さくな職人さんという感じで、小柄なお母さんはもうご高齢

に見えるのに、とても可愛らしい。

 

 

上に貼りつけられたメニューからもわかるように、こちらの店は単品一品一品がとても

良心的。

 

好きな単品につけられる定食のセット(ごはん・みそ汁、漬物)も200円ととても安いので

財布に優しい料金で食べたい定食がカスタマイズできるのである。

 

今回頼んだのはこちら。

 

「ハムエッグ定食」 370円

 

 

内訳は単品のハムエッグ(170円)に、定食セット(200円)をつけて

合計370円。

安い。

 

そういえば目玉焼きになにを掛けるかっていう議論があった。

各家庭や地域によってスタンダードが異なるようだったが、オレは子供のころ

ケチャップかソースだったので、しばらくそれで育った。

 

のちに「醤油」というのもスタンダードのひとつだと聞いて、当時は醤油は

あまりに粘着質はなさ過ぎてナシだろうと思ったが、実際掛けてみたら

イケることがわかり、その後はしばらく醤油だけれど、ケチャップでも全然イケる。

ちなみに今回は醤油で。

 

オレは寮生活というのは経験ないんだけれど、いい意味で寮の朝食っぽい雰囲気が

多少あってなんかいい。

味も温かみがあってもちろん好きなのはいうまでもないが。

 

これはまた来たいし、友達を連れて食べに来たい店でもあるな。

 

がっつりとした食事をとるために定食セットで食べにくるのもいいけれど、

安い単品料理が豊富なので、お店の回転をしっかり気遣ったうえで酒を呑みに来るのも

かなり良いかもしれない。

 

オレが入店したあとも続々とお客さんが入ってきた。

そして、先に食事をしていたお客さんたちが会計を済ませて店を出てゆく際もみな

カウンターの中にいるお母さん(おばあちゃん)に、また来るよ!とか美味しかったよ!

と声をかけていた。

お母さんもそれたいし、とても丁寧に言葉を返していた。

 

調理や卓に料理を運ぶ作業でとてもバタバタしている中でも、食べ終わって席を立ち会計を

済ませたオレが出口に歩いてゆくのを見つけたら、本当に心からの笑顔と言葉で

「どうもありがとうございます」

とわざわざ声を掛けてくれた。

 

裏表のない人の感謝の言葉が最近涙を誘う……。

 

こういう空間を見つけてそこにゆくことだけで、それが自分が作り出すモノを求めてくれる

人たちへ感謝するということを教えてくれる最高の授業の場になるんだな、って感じた日だった。