今やスマホや携帯が当たり前でいつでもどこでも連絡がとりあえる。
そんな時代の流れの中で消えていったもののひとつに「駅改札の伝言板」がある。
駅に設置された黒板のようなもので、待ち合わせなどに利用されており、
オレらが中学生のころはまだ普通に見かけていた。
チョークで日付が書かれ、その下に「先に○○喫茶店にいっている」とか伝言が
続けて書かれていたりした。
それぞれどこの誰が書いたのかまったくわからないが、なんとなく他人の行動を
のぞきみているようで面白く思えたものだ。
北条司原作の漫画「シティーハンター」の作品中ではこの駅の伝言板がキーと
して登場していたのが印象的だ。
主人公の冴羽リョウは一流の腕をもつ街のスナイパー。
依頼を受けたらそのターゲットを必ず仕留めるのでシティーハンターと呼ばれている。
そのシティーハンター冴羽に依頼者が仕事を依頼するときの方法が、その伝言板に
「XYZ」と書きこむのだ。
ターゲットは基本悪党だが、殺しという非合法の仕事である以上おおっぴらに
できないため、そういう方法で依頼者はシティーハンターに接触するのだが、
その設定が当時の小中学生にはとてもかっこよく映り、友人たちと街で遊んでいるとき
伝言板とそこの空欄を見かけたら、遊びで「XYZ」と書きたくなったりした。
依頼人が書きこむその「XYZ」。
最近になって「あとがない」ということを意味するとしって、ああ、なるほど、と思った。
X,Y,Zはアルファベットの最後。
つまり、依頼人からすればもうあとがないからシティーハンターに仕事をお願いしたいと
いうことを意味するようである。芸が細かい。
少年ジャンプでも人気があった「シティーハンター」はアニメ化もされた。
途中からあまり観なくなってしまったが、最初のほうはしばらく観ていた。
小室哲哉のいるTMネットワークの名前が世間一般に広まったのも、
このシティーハンターのエンディングテーマとして「Get Wild」が使用されたからでは
ないだろうか。
「Get Wild」は全体像としてはアップテンポな曲だが、イントロはシンセサイザーによる
静かでゆっくりとしたメロディではじまる。イントロが過ぎると急に
♪アスファルト、タイヤを――
という歌詞とともにとアップテンポになるのである。
イントロがゆっくりで静かなことには、実はアニメ制作側とTMネットワークの間に綿密な
打ち合わせがあったという説がある。
当時放送されていた「シティーハンター」(初期)を観ていた人ならわかると思うが、
30分の放送のラストが近づいてきたら、まだ本編の映像が終わっておらず、登場人物が
ちょっとした会話をしているうちから、「Get Wild」のイントロが流れだす。
そして最後、本編が完全に終わったところで、画面がエンディング映像に切り替わり、
それにあわせて「Get Wild」もゆるやかなイントロからアップテンポなメロディに入ってゆく。
要するに、アニメのラストシーンにエンディングテーマのイントロをかぶせるというのは
製作サイドの意図。
なのでいきなり大音量&大声だと、アニメ本編の中で登場人物が話しているセリフが
メロディにかき消されてしまうため、製作サイドがエンディングテーマ担当のTMサイドに
‘イントロ数秒が静かな曲’を作ってくれ、と依頼したというのがその説である。
と、『昭和アニメソングベスト100』という本に書いてあった。
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厳密には著者の好み的なチョイスを思わせたり、昭和から平成にかけてのアニメも含まれている
感じだが、雑学的や俯瞰的にアニメをみるぶんには、たくさん情報があって楽しめる本だ。
冒頭に書いたシティーハンターの北条司といえば、「キャッツアイ」も人気。
オレは原作も読んでなく、アニメも観ていなかったのだが、杏里が歌った主題歌は
そんなオレでもしっているほどの有名アニソンになっている。
今でこそ国民的なアニソンになった「キャッツアイ」だが、当時はまだアニソンがそれほど市民権を
得ておらず、どちらかというと「安っぽい」というイメージが蔓延していた時代だった。
だからその当時依頼を受けたとき、杏里は「アニメの主題歌なんて歌えるか!」と拒否した
ようだが、、しぶしぶ引き受けることになり、いざ歌ってふたを開けてみたら杏里史上最大の
ヒットソングとなったという。
また、ひと昔前は東京ムービーというアニメ製作会社がたくさんのアニメを世に送り出していた。
東京ムービーは自社で製作したアニメの主題歌の歌詞などは社員が自ら作詞することが
多かったようである。
「アタックナンバー1」もそうで、歌詞中の有名なセリフである
♪だけど、涙がでちゃう、女の子だもん
というアレも、作詞家でなく自社社員が考えたようだ。
そういわれてみれば、たしかにそこであんなセリフは斬新かもしれない。
あとは製作会社が知り合いの仲がいい業者に頼むケースもあるようで、永井豪原作の
「キューティーハニー」の歌の作詞は実は博報堂の社員だとか。
ただ博報堂は副業禁止だったため、社員が誰だか会社にバレないようクレジットの
作詞家名は仮名にしたようである。
最近ニュースで、長い連載がついに完結と話題になった水島新司原作の「ドカベン」。
アレのアニメの主題歌もまた世界観に合わせて、
「がんばれ! がんばれ! ドカベン!! 山田太郎~~!」
と応援歌チックな歌詞になっており、OP映像でもそれに合わせて画面がアルプススタンド
で応援する観客の映像になっているのも隠れて凝っていた演出だった。
あと、昭和の名作アニメといえば「うる星やつら」。
主題歌である「ラムのラブソング」はアニソンという枠を超えた名曲である。
歌詞の中でも印象的なのはセリフ的な要素の強い「好きよ」と「ウフフ」の部分。
実はこの2つのセリフ的箇所、当時歌っていた女性歌手の人が最初に歌詞を見せられた
際に、
「こんな部分、恥ずかしくていえないっ!!」
と歌うことを拒否したため、実際この箇所だけは主題歌歌手本人ではなく、作曲した
女性の方が代理で「好きよ」「ウフフ」といっていたようである。
てっきり同じ人が全部歌っているのかと思っていた。
子供の頃はなにも気にせず、自然にノリで訊いていたアニメソング。
でも、大人になってから改めて探ってみると、そこにはやはり当時の大人たちに
よるモノづくりの苦労や裏話を見ることができる。
それはとても面白いし、同時に勉強にもなる。
かつてのアニメソングというものは、とにかく歌詞の中で主人公や登場ロボットの名前が
連呼されていた。
機動戦士ガンダム、サイボーグ009、ダルタニアス、科学忍者隊ガッチャマン、
花の子ルンルン、キャンディキャンディ、魔女っ娘メグ……
子供たちは歌詞の中でその主人公などの名前が叫ばれるところで、テンションが最高潮に
なり、テレビの前で一緒に歌ったりした。
そんなシーンの背景にはやはり、作詞や作曲する人たちの
「このアニメにもっともふさわしい曲を提供しよう」という強い想いがあったからだと思う。
そこまでリサーチしているわけじゃないけど、ここ数年のアニメの主題歌とかって
ほとんど人気アイドルとかロックバンドに作詞作曲を依頼しちゃってて、歌詞もそのアニメに
ついて歌ってるものとかって絶滅危機にあるような気がする。
ひとつのアニメの曲として有名な曲を残そうとする気持ちよりも、自分たちの中の1曲と
して残るような曲をつくろうとしているように見えるのはオレだけだろうか。