村田沙耶香「殺人出産」 | 昭和80年代クロニクル

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古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

 

殺人出産 殺人出産
 
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どんなに勉強してもどんなに努力しても、決して経験知ることのできないことと

いうのは存在する。

 

女性の人が「男に生まれて一度たちションをしてみたい」というのを何度か

耳にしたことがある。

 

一方、オレら男性は出産の痛みというものを永遠にしることができない。

というか、話を聞いているとその痛みが想像できなくてコワい部分がある。

 

昔からよく聞く例えが、

鼻の穴からSuica……じゃなくてスイカがでるくらいの痛みだという例え。

 

なるほど。

基本的に西瓜の大きさが人の頭と同じくらいだから、人間の顔にある穴のひとつから

もうひとつ自分の頭がでてくるような痛みだと思えば良いのだろうか。

 

男だったら気絶するレベルの痛みだというから、そう思うとお世辞でもなんでもなく

女性というのはすごい存在だなって思う。

 

鼻からスイカ。かなり痛そうだ。

痛そうなんて世界ではない。

鼻の穴避けてるレベルである。

 

高校生の時、同級生とアーノルド・シュワルツェネッガー主演でのちにリメイクもされた

「トータル・リコール」という映画を観に行った。

主演のシュワルツェネッガーは実は偽りの記憶を埋め込まれていて、実際に自分の記憶を

探しに火星への旅にでるというバトルモノだったのだが、その中のワンシーンで、

鼻の穴の中に機械をつっこみ、埋め込まれた発信器?を悶絶しながら、とり出すという

シーンがあったが、アレに近いのだろうか?スイカほど大きくなかったが。

 

※ちなみにそのワンシーンの動画はコチラ

「トータルリコール」

 

その大変さを考えると、今の時代……とくに少子化のこの時代だけに、子供をたくさん産んでいる

女性にはなにか特典があってもいいのかなと思わないこともない。

もちろん、あちらあこちらの好みの男に手を出しまくったり、結婚離婚を何度も繰り返しながら

ポンポン出産しているような女性は問題外ではあるが。

 

見た目もしゃべりもおっとり系だけれど、作家仲間からはクレージー紗耶香と呼ばれている

芥川賞作家、村田沙耶香の「殺人出産」をかなり前に読んだ。

 

近年、バトルロワイアルのように「新法律」が施行された設定のストーリーが増えているが、

これもそのひとつといっていいかもしれない。

 

 

10人産めば、合法的に1人殺してもいい。

 

そんな殺人出産制度が制定された近未来の話だ。

 

以前、島田紳助が自分の番組の中でゲストにたいして

「ここに人を撃っても罪に問われない銃弾が3発あります。では、あなたは誰を撃ちますか?」

とMCながらの冗談でいっていたことがある。

 

だけど、実際にそんな銃弾があったらいったいどうなるだろうかと考えたりした。

 

逆に性格の悪いやつは殺されない。

なぜかというと、性格のイイ人はどんなに憎い相手でも殺すという判断に持ちこまないと

思うから。

 

逆に性格のイイ人ほど、自分勝手で性格の悪いやつに殺されそうになるんじゃないかと

思えて悲しい部分がある。

 

今まで自分を苦しめてきた人間を葬る権利をもった人間がそれを我慢した結果、人の人生を

深く考えない人間によって逆に殺されてしまうんじゃないかというペーソス溢れる風景が浮かんで

きてしまったりする。

 

それは人を蹴落とせない人間が馬鹿を見るという現状に通じるものがある。

たとえそういった具体的な法律がなかったとしても、今の社会の概念と風潮そのものが既に

そういった法律のようなものだと思えてきてしまうのもまた悲しいことである。

 

ただ、実際にありえないことだからこそしいて言ってみれば、この作品に登場する殺人出産制度は

モラル的なものの崩壊にはつながるかもしれないが、少子化防止にはなるかもしれない。

 

そしてなによりも、我われ人間社会の中でどれだけ憎まれている人間が存在しているかという

負のバロメーターにもなるかもしれないとも少しだけ考えてしまうオレがいる。

だから、本当に極端にいえば、この法律が施行された日本を数日間だけで見てみたいという

好奇心がないわけでもない。

ただし、オレ自身がどこかの誰か嫌われていて狙われるという可能性もゼロではないから、

かなり危険ではある。

 

これまでも村田沙耶香の作品は2,3作ほどこの小説テーマ記事で紹介してきた。

 

芸風としてはなんというか、「静かに過激な世界感」というのが彼女の印象である。

 

ただ、過激な面があるとはいえ、決して単純なキワモノではない。

人間が秘めている葛藤や矛盾などもしっかりと織り込んで描いてるのが彼女の小説。

 

この本は表題作である「殺人出産」の他にも数編を収録しているが、個人的には

「余命」とう作品のほうが印象に残ったかもしれない。

 

芥川賞を獲得した「コンビニ人間」も早く読んでみたいものだ。