「『苦しい時ほど笑え!』……それができたら、とっくに笑ってます」
これは以前も紹介したヒロシの名言だ。
オレは前向きとか元気とかいうものをこのコラムであまり良く言ったことはないが
それは決して全面的に否定しているわけではない。
モチベーションのコントロール方法は人ぞれぞれだから、自分自身に対していつも明るくいよう
とか、笑って前向きに考えようと言い聞かせるほうがうまく生きてゆけるという人はそれでいいと思う。
大変よろしいことではないか。
ただ、自分がそうだからと言って他人にまでそういう自分の思想を押し売りするなと言いたい
だけである。
言っている側からすれば、明るく接した方が相手も嬉しいだろうという気遣いのつもりかも
しれない。
でも言われた側からすれば、相手のその笑顔は他人事だというところからきているもののように映り、時には腹立たしくなったりもする。
実際に心のどこかで他人事だと思っている余裕があるから笑顔を浮かべられるというのもあると
考える。
たとえばみなさんが会社員だとして、ずっと同じ部署で仲良くやっていた仲間のひとりに
ある日、どう考えても理不尽でオカシイ異動人事がでたとする。
本人も納得いっていないし、あなたや周囲の人間もその異動に納得いっていない。
本人はとても不思議がり、悲しみ、そして怒っている。
みなさんならばここで去ってゆく仲間にどう声を掛けるだろうか?
大きくわけて2パターンがあるだろう。
1・
それが会社というものだから割り切って、「決まってしまったものはしょうがない。新天地で
活躍して見返してやろうぜ!」と明るく笑顔で声を掛ける。
2・
「なんでお前が異動しなければいけないんだよ!」と怒りをともにして、悲しみを見せる。
オレね、実際にこれに近い例に直撃した時に何人かが1のほうで接してきたけど
正直あまり嬉しくなかったんだよね。
相手なりにちゃんと考えて笑顔で接したほうがオレも暗くならないと思ったのかもしれないけど
逆効果。残念賞でしたね。
オレの中で、いくら前向きなこと言われても当人はオレだからね……
っていう思いがどこかあった。
いっぽう、何回か会ってお世話になった地方支社にいる上司に異動報告の電話を入れた時、
その上司は受話器の向こうでため息つき、数秒絶句したあと、
「なんだよ! その人事!! うちの会社、○○君を動かすなんて大丈夫なのかよ…」
と激怒しながら悲しんで、オレの異動に異議を唱えてくれた。
他にも同じような対応を見せてくれた人が数人……
これは涙がでるほど嬉しかった。
とにかく納得いかない命令が自分に発せられた際、教科書的や事務的に笑顔で励まされるよりも、一緒に怒って悲しんでくれる人のほうにオレはジーンとくる。
組織人である前に人間としての視線でオレを見てくれていたんだなあと感慨深くなる。
自分ではそういうふうに喜怒哀楽をともにしてくれる人がいる人間になれて良かったと思っている。
そんなオレと比べてしまっては、あまりにもスケールが異なるので失礼になるからそれを踏まえて
というカタチで書くが、映画『沈まぬ太陽』にて渡辺謙が演じる主人公の恩地元もそんなふうにして自分のところにきた懲罰人事に対し、周囲の仲間が会社に対して怒ってくれるような人物だ。
オレもそういった人望のある人間になりたい。
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先日、図書館のDVDコーナーでやっと巡り合うことができた(笑)
公開時間が4時間くらいあるので、その時に借りようか迷ったが借りた。
企業の内部モノの映像作品て、大人になった今でもやはり難しいんじゃないかと心配だったが
原作5冊を既に読破していたため、流れはスッと入ってきて全体的に理解できた。
キアヌ・リーブス主演のアクション映画「スピード」は冒頭でいきなり爆弾が仕掛けられたエレベーターが乗客を閉じ込めたまま停止するというヤマ場がある。
しょっぱなから客を退屈させないために監督がよくスタートに仕掛ける演出だ。
実際にあった墜落事故がモチーフになっている映画とはいえ、「沈まぬ太陽」は決して
パニック映画ではない。
とても重いヒューマン映画のようなもの。そしてとても長い。
「スピード」のように作品中にそういう派手な演出的な仕掛けなどない。
それにもかかわらず、4時間近くずっと目を離せない作品だった。
どんなアクション映画でも、どんなに深いヒューマニズム映画でも、上映時間が3,4時間あれば
さすがに「このくだりは、ちょっと退屈だな……」というシーンが数分は必ず存在する。
だけどこの映画を見ていて退屈だと思ったくだりはまったくなかったのだ。大袈裟に言っている
わけでもなんでもなく。
公開時間を知った時は、あまりに長さに太陽は沈まなくても、観ていてオレの意識が沈んで
ゆくんじゃないかとさえ心配したが、あっという間の3時間以上だった。
名作だな、これは。(今さら)
主人公のモデルとなったのは寛太郎さん(通称カンタロウさん)という実在の人なのだが、
それを演じている渡辺謙の不幸さがなんとも観ていて辛い。
原作で筋は知っているのだけれど、それに渡辺謙の演技が味付けとして加わり映像作品になるとほんとに涙が溢れそうになる。
職場のみなから尊敬される国民航空の恩地元(渡辺謙)は組合のリーダーとして会社と闘ったことで、のちにアジアの各地にたらいまわしにされるという懲罰人事を受ける。
つまりは流刑。
山﨑豊子が原作の中で表現していたところの「閑離職」だ。
これぞ「オトナのいじめ」だと思った。
国民航空のモデルとなっている企業は言うまでもなくあのツル。
ヤ○ダ電○、サ○ゼリヤ、ドン・○ホーテ、す○家、アリ○んマークの引越社……
ここんところネットトピックや新聞社会面でよくこういった企業の社員に対する扱いにおける
裁判の情報を見かけるけど、やはり大手で有名で従業員数の多いサービス業ほど必然的に
黒くなってゆくサダメがあるようだ。熾烈な価格競争によるアオリ。
隔地に飛ばされながらも、そこでも仕事を続ける恩地。
上からは組合を抜けて一言詫び状を書けば、すぐに東京に戻すと言われていながら、
それを拒否。
オレにはそこまでの強さは当然ないなあ。
でも、どんなに強い信念を持っているといっても恩地だって人間。
弱る時は弱る。
一部ネタばれになるから詳しくはかけないが、部屋でひとり散弾銃を持って……のシーンは
センセーショナルというよりも、「そうなちゃうよなあ、うん」と同情したものだ。
実際にあった大事故をテーマにして、実在した職員の人生を描く。
この作品は旅客機乗客の不幸と、職員の不幸といった2つの同時進行する不幸を描いたある意味でとてもデリケートなテーマなわけだが、特に観ている側を刺激するような派手な演出とかを
用いることなく、うまく作られた作品だなあと感じた。
墜落してゆく旅客機のシーンはあるけど、激突や爆発の瞬間の映像はない。
乗客の遺体を収容している体育館の映像は何度もあるけど、遺体はもちろん遺体の顔なども一切映さない。
そこには映像作品として、観ている側に想像させるという意図があると同時に、衝撃的なシーンを
演出しないというご遺族への気遣いもあるんじゃないかとオレは捉えた。
さりげなく東幹久や小日向文世を配役しているところも良かった。
ブラック企業と大事故。
関係ないようでどっかでやはりつながっているなと考えさせられる作品でもあった。