箱根から帰った日の翌日の話。
かっぱ天国には行かなかったもう一人の友人の企画で某スーパー銭湯に行った。
順不同になるがそのスパ銭の記事は後回しにして、風呂入ったあとにいった店の記事。
スパ銭の段取りは企画した友人に一任したが、そのあとの居酒屋検索はオレが担当に
なったので。
前回、西新宿の「やまと」にいったあと、職場のSさんにそれを伝えたことがきっかけだった。
(もともと職場は新宿にあって、それから引っ越した)
Sさんに「やまとっていう店に行ったんですけど安かったですよ」と言ったら
「アルプスは行ったことある?」という質問が返ってきた。
「ないです」とオレは答えた。
どうやらSさんは「やまと」についても既に知っていたらしく「アルプス」についてはその系列
だということを教えてくれたらしい。
オレも歌舞伎町に関してはそれなりに詳しい自信があったが「アルプス」なんていう店は初耳である。
情報を聞いたその日にネットで調べてみた。
なんとこれまで仕事でもプライベートでも何度も通っていた道ではないか。
歌舞伎町でも比較的奥のほうのホストやラブホやカプセルホテルが密集している地域である。
これまで歩いてきた時も記憶を必死にたぐってみた。
あんなときに居酒屋らしき看板なんてあっただろうか。
――ない。
でも……よく思い出してみるとなにやら料亭の跡地のような建物はあったような気がする……。
そうか、「やまと」と同じで一見わかりにくいが、ひょっとしたらあの建物が夜になると居酒屋として
営業しているのか、と気付いた。
で、連休の夜の風呂のあと、新宿まで移動して喉を潤しに行ってみた。
たしかにあった。 そして今まで見た記憶もある。
高級料亭チックな門構えのこの入口、そしてその奥に佇む建物。
ここが
『すし居酒屋アルプス』
東京都新宿区歌舞伎町2-35-2
そして画面左上の看板。
光っているからわかりづらいけど、アップで別撮影したのはこちら。
これはアレだろ……
はなから商売する気もない地主がとりあえず税金対策で建てたような店が出す手抜き感満載の
店舗とか、あるいは893サンが秘密の商売とかの取引場所とかを設けるためにカモフラージュで
看板だけだしてある飲食店とか、そんな感じ(笑)
店名の由来も何故アルプスなんか不明だ……教えておじいさん、教えておじいさん。
とりあえず入店してみると店内はいたって普通でアットホームっぽい。
オレらは2階に案内された。
入店時間が早かったこともあり先客は一組程度だ。
Sさんから聞いてきたとおりビールとハイボールはかなり安い。
というか安すぎである。
フード料金のほうでうまくバランスをとっているにしても、この系列のドリンク価格設定は
破格だ。
どうやって経営しているのだろうか。
まあ、こちらは安くて美味い酒が飲めれば別にいいのだけれど。
まずはビールで乾杯した。
180円にしては泡が丁寧な感じで驚く。
とりあえずオレはつまみに「タコ焼き」を頼んでみた。
海鮮でも肉でもなくなんでタコ焼きを頼んだのかわからない。
人間とは時になぜかそういう行動をとってしまう生き物だ。
でも美味かったからいい。
時間がたつにつれてお客さんがどんどん入ってきて、いつの間のかフロアのほとんどが
埋まった。
激安居酒屋だけにやはり知っている人は知っているようだ。
「鉄鍋牛すじ煮」と「川エビ」
「鉄鍋牛すじ煮」は味付けとかしっかりしていて美味かった。
川エビももちろん。
ただ、エビは既に絶命していながらも最後の一矢を食べる人間に向けようとしてくるのだ。
かみ砕いているときに、その足や甲殻の破片を歯茎の裏側に突き刺してくることが多い。
年齢的な衰えによるものか、30を過ぎてから口内などの体の内側における肉体の防御力が
ドラクエ言うところのルカナンで下げられたかと思うくらい著しく低下してきており、さほど
戦闘力の高くない甲殻生物の屍が放つ最後の一撃でもそれなりのダメージを被ってしまう
リスクが生じたりする。
諸君、川エビ食う時は最後の反撃に気をつけるべし。
ハイボールも安いので頼んだ。
英国王室ご用達のデュワーズスコッチウィスキーで150円だと。
ひとくち、ふたくちと流し込んで女王陛下の旗がなびく地へトリップ。
夕陽を浴びたエリザベスタワーの壁をよじのぼっているオレの姿が見える。
目標はあの大時計についた悪魔の尻尾のような短針だ。
あの短針をもぎ取って祖国に持ち返り、独裁者の脳天にロンドン土産としてぶっさしてやるのさ。
短針に右手が届くまであと数メートル。だけど下手して足をすべらせるとまっさかさま。
でも心配はいらない。
オレの下では4人の警察官がユニオンジャックの国旗の四隅をもってピンと張り、万が一オレが落下してきてもその旗で受け止めてコンクリートに激突しないように待機しているのだから。
女王陛下万歳。
でもオレは気付いている。
四隅を持っている警察官の一人。唇の端にピザのカスをつけてだるそうな顔をしているあの
警察官だけユニオンジャックをもつ手に力が入ってないことを。
やつはオレが落下して激突死することを望んでいるに違いない。
だからオレは意地でも落下するわけにはいかないのだ。
女王陛下万歳。 総理大臣万歳。
短針まであと少しのところで夕陽のまぶしさによろめいたオレは足を滑らせ引力にまかせるまま
落下していった。太陽の熱で翼を溶かされたイカロスのように。
オレの寿命はあと数秒だ。
女王陛下万歳。
今夜、友人のシド・ヴィシャスがイカれたハニーを連れ、イカしたチーズケーキを土産に持ってオレのマンションに訪れ、3人で一緒に夜を楽しむ予定だったけど、どうやらその約束は守れそうもない。
なぜならオレはあと数秒後には地面に激突してしまうのだから。
落下しながらだんだんと近づいてくるテムズ川の水面をみながらオレはポケットからスマホを
取り出した。
「シドに連絡をしなければならない……今日は会えないと」
画面の番号をタップしようとするが肝心の番号をド忘れしてしまったようだ。
シドの番号は何番だっけだろうか。
ええと、たしか410-248……の
だめだ。間に合わない。
ダイヤルが終了するよりもオレの激突のほうがどうやら先のようだ。
地面に激突まであと10メートル……
5メートル……
3メートル……
1メートル…
…
は! トリップから現実に戻った!
ここは歌舞伎町の「アルプス」だ。
最後にこれまた価格を下げているらしいモヒートを飲んでみた。
450円→280円。
うーん、これは……
なんか水で溶かしたクールミントガムを飲んでいるみたいだ。
モヒートはちょっとオレに合わないかな(>_<)
でも、このアルプス、3人でそれなりに飲んで食ってひとり2000円もいかなかった。
これは安い。
また来よう。
ここの常連になればそれが本当にアルピニストだ。
あ、すし居酒屋だけど寿司食ってねえや(笑)