蟹工船 | 昭和80年代クロニクル

昭和80年代クロニクル

古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

美味いと思うんだけれども、あまり好きじゃない食べ物がいくつかある。

その代表的な2つが「カニ」と「手羽先」。


美味いのになぜ好きじゃないのか。当然その味に文句はない。

だけど、正直それをメインとする料理屋や居酒屋にはあまり行きたくない。


勘のいい人、あるいはオレと感覚が似ている人ならば、もうその理由はなんとなく

わかり始めてはいるとは思う。


手が汚れる。これがいやだ。

その場で食べるものがカニだけならばいい。

手羽先だけならばいい。


だけど、その他に米やサラダ、あるいは惣菜などもあった場合はそのへんも当然

バランスよくつまむ。


手で手羽先を裂いたり、カニをほじったりしたあとに、サラダを食べたくなって箸や

フォークを持つ場合、そのたびにオシボリやナフキンで指先をフキフキしなければならないのが

なんとも面倒クサイのだ。


面倒クサイからと言って、手羽先を裂いた手で一度でも箸やフォークをもってしまう。

箸やフォークがベトベトになる。

ああ、もういやだ。 という理論。

指が汚れるのが最初の一回くらいならば、そんなオボッチャンオジョーチャンみたいな

わがままは言わない。インドに生まれたことを考えれば衛生はトップクラスのこの日本。

指の一本や二本くらい黙って汚してやる。


だけど、何度も何度も箸やフォークに持ち替えるたびにフキフキするのが面倒クサイのだ。

オレだけかな。いや、早朝鈍行仲間の一人もそう言っていた。


そういった食事情を考えると、「カンヅメ」というものは誠にありがたい発明だと言える。


でも、簡単に手に入って当たり前のように食卓に並びそんな身近な食べ物でも、作る側に

とっては過酷な環境が合ったりするのだろうなあと思う。


それは素材となるものを捕るという意味でもだし、また低価格商品の大量生産にあたり

酷い賃金で労働させられている人々もいるんだろうなといった意味もある。


数週間前に図書館で『蟹工船』を借りて観てみた。

最近のリメイクではなく、ずっと昔のモノクロの作品のほう。


蟹工船 [DVD]/森雅之,日高澄子,中原早苗
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さすがに映像は古いが当時訴えたかったことはものすごく伝わってる作品だった。

古い映像だったからよかったのかもしれない。


波が荒れ狂う嵐の日でも、右へ左へ揺れる甲板でロシアに負けるなと働かされる船員。

病気になっても放置され、労働に駆り出される若い船員。


下の人間を奴隷のように扱いながら、自分は部屋で酒を飲み、気に食わない船員がいたら

監禁や暴力を繰り返す非道の監督・浅川。


露骨な暴力制裁こそ、現代社会では減少するか表に出なくなってはきているが

上の人間から下の人間への差別的視線や奴隷的扱いは今もひっそりと生きている。



数年前に何回か日払いの派遣バイトに行ったことがあった。

朝早く駅前などに集まって、業者が用意したマイクロバスやワンボックスで派遣先へと

オレらは輸送される。

何人かは友人同士で来ている者もいるが、その場で顔を合わせるのはほとんどが知らない者

同士だ。


その時ひとり、見た感じた話し方からして明らかに障害者であろうという中年の人がいた。

派遣先である梱包作業場についたら、オレはその人と同じ持ち場になった。


オレもそうなのだけれど、その中年の人も判断力や理解力がちょっと弱いというのが見ていて

わかった。

でも、ずっとニコニコしていて、派遣先の人が何かを命じたら、すぐ返事をして動き、オレが何か

訊いた時もニコニコと丁寧に対応してくれた。

人間性はとてもよく、優しさをも持った人だなと思い、オレも丁寧に話した。

ヘタな偏見や差別に聞こえてしまうかもしれないが、明らかに障害を抱えた人というのも

あったから、オレも優しく対応したというのもある。


だが……


派遣先の梱包作業場の現場監督である30代くらいの男は、まったく容赦しなかった。

対応や話し方を見ていてもその人が障害を抱えているのは誰がみてもわかる。


どこで何をしてくれと指示を受けたその中年の男性は、指示を勘違いして、言われた持ち場と

逆のほうに駆け出していった。


それを見た30代くらいの監督の男は

「おい! お前何やってんだよ!そっちじゃねえだろ! 時間もったいねえだろ!バカ野郎!」

と、その中年の人に向かって叫んだ。


そんな状況が数回あった。

オレは自分の耳を疑わずにいられなかった。


彼らにとって、その障害者の中年男性もオレも、直接も取引先ではないのだ。

直接も取引先なら、そんな態度はとらない。

ヘタすれば、へつらって「しっかり働いてくださいね~」といった顔も見せるだろう。


だけど、オレを含めたその場のいる人間は、梱包作業場の直接の取引先が用意した

雇い兵隊のようなものだ。


どなったところでヘソ曲げたり、使えない人間がいたら、次回からは違うメンツをよこしてくれと

派遣事務所の依頼すればいいだけの話。


つまり、彼らにとってそこで作業するモノは人間ではなく、労働力といったひとつの記号に過ぎない。

それが搾取という現実。


人件費削減や、肉体的な部署の増加に当たり、ここ数年は建設や工事関係の企業でなくとも

日払いの派遣者を雇う企業が増えている。

IT関連も例外ではない。


今やだれもが知っている超有名なIT企業。

名前は出せないが、ホリエモンはきっと嫌いだと思う企業。


これは聞いた話だから、100パーセント正しい情報だとは言えないが、

その企業も派遣会社からたくさんの派遣労働者を送ってもらっているらしい。


その会社は他では類をみない立派な社員食堂をもってるのだが、派遣で来た人たちには

そこを昼食に使わせないらしい。

それどころか昼休憩に使用する場所もひどいところを使わせ、持参した昼飯のゴミもゴミ箱に

捨てさせないとのことだった。持ち帰れと。社員はどんどん捨てている。


ちなみにこのゴミ箱使用禁止する派遣先は多い。オレが行った所もそうだった。


別に一週間分の家庭ごみを捨てるとかいうわけではない。

コンビニのおにぎり一個を包んでいる小さな透明のビニール?一枚とかそんな程度だ。

それだけでも捨てさせない。

たとえばそこで必死に労働していても、自分のとこの社員でもない連中のゴミ処分になんか

一円も使いたくないという考えなのだろう。

本当にいやになる。


もちろん、世の中のすべての企業がそういうことをしているとはいわない。

派遣だろうがバイトだろうが正社員だろうが、人間を記号としてではなく、ちゃんと人間と

して丁寧に親切に温かく受け入れる体制をとっている企業も少なからず存在するだろう。

ただ、数割のそういったいわゆる隠れブラック企業が、そういった善良企業や経営者の

印象までを悪い方向に浸食させていっている感は否めない。


原作はとっくに読んだが、小説、映像ともにこの作品が今になってまた注目されている

ことがうなずける。



ちなみに数年前に公開されたSABU監督のリメイク版「蟹工船」はダメだ。違う。緊張感がない。

西島秀俊はいい役者だとは思うけど、どう捉えても非道の監督・浅川とは印象がかけ離れている。


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これは観に行かないほうがよかった。

まさに監督の名前が、そのまま映画の一言感想になってしまった。


ただ、一つだけウケたのは東京だとたしか単館上映とのことで、新宿にあるその映画館に行って

みたら、「かに道楽」が入っているビルの地下にある映画館だった。

上を見上げたら看板のデカいカ二(笑)

絶対狙っただろ!それとも静かなるタイアップか。別にどっちでもいいけど明らかに偶然ではないと思う。



原作が同じ作品だからモノクロ版もリメイク版もラストは同じ。

最後はともに船員たちが浅川をはじめとする雇い主側に「もっと人間的に扱え」と抗議する。


もう有名だからオチを言ってしまうと、主人公はじめとする船員たちはそこまでしても結局は

最後まで裏切られて終わってしまうけど、なんでも「世の中がそうなのはしょうがない」で済ませる

のではなく、そういった姿勢をかたちにすることが重要なのだと痛感する。





――「革命は些細なことではない。 しかし些細なことから起きる」


 これはアリストテレスの言葉で、オレが好きな言葉。



――「富める人がその富をいくら自慢しているとしても、彼がその富をいかに使うかということが

判るまで、彼を誉めてはならない」


 これはソクラテスの言葉で同様に、オレが人の成功例を見聞きした時に心がけている言葉。