朝井リョウ「何者」他 | 昭和80年代クロニクル

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古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

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少し熟してきた今みると、またちょっと面白くもみえる野々村元県議のアノ号泣会見。

面白いんだけど同時にひくし、なんかムカつく。


でも……

あの「この世の中をおおおおおおおーーーっ!」って叫んでた時のテンションみてて

また別の恥ずかしさというものをおぼえた。


正直認めたくないが、あのセリフと、セリフを言った時のテンションがなんとなく

ストレスが溜まって酒飲んで悪酔いした時の最近の自分にちょっとだけ似ているかもなと思って

しまったのだ。


もちろん基本的な人間性も全く違うし、さすがにあそこまではおとなげなくないし、

それなりの地位にあったとしても詐欺罪にあたるような悪いことは絶対しない。

あくまで、あの絶叫の瞬間の雰囲気だけが似てるかも……と思っただけである。


ただあの元県議の場合のあの瞬間の絶叫は自分に対する質問をごまかそうとする芝居の

叫びであり、オレが酒の場で酔って周りにわめき散らしていた時に話す「この世の中はなー!」

というのは何かをごまかすための芝居ではなく、純粋な心の奥の叫びであるからそこは

決定的にちがう。

(本気で言っているからこそ周りからしたら余計にメンド臭いのかもしれないけどねんw)


そこでこのオレのプチ告白を聞いて、オレのことを知っている人間の中の一部は「そうだよ!おまえ!」と思っているかもしれないし、オレのことを知らない人はこれを聞いて笑っていたり、あるいは「うわー、知り合いたくねえ!」とかって思っているかもしれない。


しかししかし!

今、これを読んでオレに対してそう思っているアナタも自分では気づいていないかもしれないけど

実はメディアとかに出ているクセのある政治家とか評論家とか芸能人にどっか似ていて、密かに

周りからそう思われたり言われているかもしれないのですよ(笑)


オレは野々村氏のあの絶叫の瞬間を見て、酒が入った時の自分に似ているように感じ

恥ずかしいと思ったのは事実だが、同時に思ったのは悔しいけど自分でそれに気付いてさらに

認めたことで「客観的に自分をみることが出来たのかも」とも思えたことは救いというか

安心でもあった。


まさに「人のふりみてわがふり~」のようなもの。

はたからみるとああいうふうに映るのかと思って今後は気をつけようと思った所存である。


周囲の人間やテレビに出ている有名人の話や喋り方を聞いて、なんとなくむかつく場合の

ケースとして全部が全部ではないが、人はそこに自分自身のイヤな部分に似たものを感じるからこそそれを否定して、自分はそうじゃないと自己暗示をかけたい心理もあるんじゃないかなって思う。

作家の岩井志麻子も「ふだんから努力とかいう言葉をくちにする人って、どこかやましいところが

あるからそれを否定するために周りにたいしてそういって自分を守ろうとする」と言っていた。


他人からみて目についたハナにつくようなクセや特徴……

それも「おっちょこちょい」だとか「おせっかいやき」だとかどこか可愛げのあるクセではなくて

それこそまさに「うっとおしい」「あつくるしい」「説教臭い」「偽善者っぽい」というようなクセ。

周囲の人間と関わったり、テレビ画面の中を見るなりで誰もが誰かに一度はそういうよくない

印象をもった経験はあるはず。

そんな中で批判してきただけの人は比較的自分のことを客観的見たことがないじゃないかなって

思う。個人的にだが。

見れてないわけじゃないのだとしたら、本当に誰から見ても非の打ちどころのない人間かなと。


見ていて「うわ、こいつの態度とか理論とかすげえムカつくけど、なんかオレ(ワタシ)に似てたり

するかも……」って恥ずかしくなったことがある人は自分のことを客観的にみることが出来ている

んじゃないかなって最近思うようになった。


今回紹介する直木賞受賞作、朝井リョウの「何者」

大学在学中にデビューした平成生まれの朝井リョウが就活の実体験をベースに書きあげた

学生たちの苦悩と葛藤。

ずっと前から一度読んでみたいと思っていたのだが、話題作だけになかなか図書館で借りれず

先日やっと借りられた。


主人公の学生の視点からで、自身と友人たちの就職活動を描いた作品で、友人の男女も

タイプがさまざまだ。

(以降、一部詳細説明アリ)


主人公はどちらかといえば冷静で冒険をさける平凡なタイプにうつる。

まわりの友人は、学生なのに自分の名刺を作って面接などで担当者にそれを配ったりする

女友達や、演劇に打ち込みながら週活をテキトーにする男友達。

理論派でいつも哲学の本を持ってあるいている男友達。


この哲学の本を持ち歩いている男友達の名が「隆良(たかよし)」というのだが、

さっきの野々村氏の例同様、読んでいて思い切り「うわ、こいつオレみてえ」と思ってしまった。

いや、たぶん作者の朝井リョウも主人公ではなくこの隆良に自分を投影させたのだと信じたい。


以降、本文から隆良のセリフ一部抜粋


「原発があんなことになって、この国にずっと住み続けられるのかもわからないし、どんな大きな

会社だっていつどうなるかわからない。そんな中で不安定なこの国の、いつ崩れ落ちるかわからないような仕組みの上にある企業に身を委ねるってどういう感覚なんだろうって俺なんかは思っちゃうんだよね」


「前、理系に行っときゃよかったなみたいなことを言っていたらしいけど、俺はそうも思わないな。

あの人たちがやってる実験ってつまり、団体の一部として活躍するためのものだろ?じゃあ

その所属団体が無くなったら? ひとりで実験続けるのか?」


「50点を10回とるんじゃなくて、たった1回でも百点をとりたい」


こういったセリフを隆良が言う。


うーん、この理論といい、ひねくれ具合といい、まさにオレ(笑)

実は朝井リョウはオレのことをしっていて勝手にモデルにしたのではないかと錯覚さえ起こして

しまう。


そして隆良がこういったことを言いだした時、主人公は心の中で毎回「また始まった……」と

呟く。


オレが哲学的なことや持論を力説しだした時、哲学に興味のない一部の人はオレに対して

こう思ってそうな空気はひしひしと感じる。

まわりの反応まで含めてワンセットで隆良はオレと似ている……ように思えてならない(笑)


主人公はそんな隆良に対しても、就活よりも演劇に力を入れる友人に対しても

学生なのに名刺をつくって面接でばらまく女友達に対して「イタイヤツら」という冷静な視線をおくり

自分はたんたんととくに目的ももたず無難な就職活動を行う。


そんな主人公視点によって、主人公以外の多くの友人が「イタイ人達」、

主人公だけが「まともな人」という世界観が進行する。


読んでいるうちに、隆良タイプである自分もイタイ人間だと言われているのかなという

気持ちになった……が、


最後の最後で朝井リョウが本当に書きたかったこと(であってほしい)節があった。


名刺をつくってばらまいていた女友達が主人公の男に言う。


「(学生なのに名刺をつくっていることについて)笑われてることだってわかっているくせに、

そんなことをしているのはなんでだと思う?」

と、

それに続く答えが

「それ以外に私に残された道なんてないからだよ」

と。


この女友達はこのあと続いて主人公をさとす。


名刺なんかつくっている自分も、哲学にこだわる男も、演劇ばかりに打ち込む人間もたしかに

「イタイ」には違いないけれど、それでも自分なりの考えをしっかりもったうえでそれなりに考えたり

勉強したりして動いたり悩んだりしている、と。


そして、そんなふうにイタイと分かっていながらも自分に出来ることに必死になっている人たちに

対して、批判したりバカなことをやっているというアナタはただ流されているだけのくせに他人を評価する「観察者きどり」じゃないかと。


これを読んでまだ悔しいけどまだ若い朝井リョウが言いたいことをすべて言ってくれたようで

読んでてなんかスッキリした。


「出来ること」と「やるべきこと」は違う。

たとえ結果が出にくいことであっても、理解されにくいことであっても、食べてゆくにはキビシイ

ことであっても人が自分の能力で出来ることをやるしかない。

やりたいことをやるのではなく、出来ることをやるしかないのだ。


よく50歳くらいになっても芸人とか演歌歌手とかを目指している無名の人や素人もいる。

最近思うことはそういう人たちって、世間では夢を諦めきれない人だとか、一攫千金を狙っている

人だとか、目立ちたい人だとか言われているけど、本当は出来るのであれば一般業種でやって

いってもいいと思っているんではないだろうか。


歌でもお笑いでも才能の有無は別として、本人たちがこれだけは人よりもうまく出来るとか、

あるいは自分は他には何も出来ないとか思っている人たちが、選択肢がないという前提のうえで

その世界のみで必死にもがいてねばっているのではないかと思えてきた。

作品の中で名刺をつくっていた学生が、自分でも笑われているとわかっていながらも、周りと差をつけるために自分に出来ることに必死になっているように。


皆さんの周りにも、非生産的だったり、リスクがともなったり、まわりから笑われたり

するようなことを必死にやっている友人や知り合いがいるかもしれない。


そういう人たちはたしかに変わりモノであるかもしれないし、イタイ奴かもしれないし、

感覚だって世間からちょっとズレているかもしれない。


だけど……


自分なりの考えをしっかり持って、まわりからどんなに笑われようが非難されようが

自分たちの世界をとことん勉強して追及しようとしてはいるのだ。


持論も哲学も持たずにただ組織やシステムの流れに従って「俺だって我慢しているんだ」と

いいながら、自分の世界を絶えず追っている人を冷静な目で観察している人がいたとするなら

……


そんなアナタは一体「何者」のつもりですか……?


朝井リョウ、おそるべし平成生まれの直木賞作家。

酷評する人間も少なくないが、悔しいながら昭和生まれのオレは拍手をおくりたい。

ヘタな昭和生まれのカタブツなんかよりは現実をしっかりとらえている。



今回のもう一冊。

ここまでが長くなったから簡単に。


モンスター (幻冬舎文庫)/百田 尚樹
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醜い女が整形して、これまで侮辱した人間に復讐する話。

まあ、昔からよくある話だけど、それなりには読める。


ここ最近の百田尚樹の発言はあまり好きじゃないが、作品は作品で割り切ってね(笑)