非属の才能 | 昭和80年代クロニクル

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古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

才能というものは‘どこにも属せない感覚’の中にこそある。


「空気を読め」とかいう言葉がキライな人や、自分の哲学を持っている人にはおススメの本。


非属の才能 (光文社新書)/山田 玲司
¥735
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「非属の才能」の持ち主が教えてくれた、群れなくても幸せに生きることのできる方法。

井上雄彦、よしもとばなな、重松清、さかなクン、手塚治、みうらじゅん、水木しげる、

オリバーストーン、団鬼六、村上春樹、鮎川誠、荒俣宏、寅さん、黒柳徹子、のっぽさん、

ダーウィン、村上龍、エジソン、オノヨーコ、町田康…… (一部略にてオビから引用)


今でこそお笑い第一線で活躍する爆笑問題の太田光が、学生時代に友人がひとりもいなかった

エピソードは有名だが、同じく芸人のほっしゃん。も高校3年間で、5分しかしゃべらなかったらしい。

スラムダンクにて、あれだけ大衆の心をつかんだ漫画家の井上雄彦は、小学校のクリスマス会

を「自主参加でいいですよね?」と言って堂々とさぼった。


いわゆる、社会とのつながりといわれる団体行動やコミュニケーションを拒否してきた経歴を

もっていながらも、自分の世界をしっかりと持ったことで、その才能が開花した人間である。


上にずらっと羅列した人達も、ケースや程度の差はあれ、そんなようなものだ。


彼らが「群れ」を拒否した理由は単純な反抗でもなければメンドくさがったわけでもない。

この本の著者によると、

「彼らは群れの掟にしたがえば、人と違う自分だけの感覚、自分だけの才能がすり減ることを

しっていた」からだとのこと。


これにはとても共感した。



今の日本には「協調」と「同調」を勘違いしている人がいる。

大勢が生きてゆくなかだから、ある程度の妥協や気づかい、譲り合いはやむをえないが

確固たる思想の変化まで押し付けようとする傾向がある。


みんなが一致団結しようとしている時に、ひとりだけそれに反対するような意見を言うと

叩かれる。マイナスな発言すると叩かれる。

ほとんど意思の暴力に近い強制である。


オレはそんな世間を見ていると、おそらく戦時中もこんなような雰囲気だったんだろうなと

思ってしまう。

国民が一体となって「国のために」「鬼畜米英」とか言っている時に、たとええどんな相手に対して

でも「命の重さは……」とか「日本は勝てないかも」とか言ったら非国民扱いされるような風潮。


その風潮が復活してきたから「空気が読めない」とか「ポジティブ」とかいう言葉を頻繁に聞くように

なってきたのではないだろうか。その危機感っていったらない。


オレは別にひきこもりでもなんでもないが、よく引きこもりの人や社交的じゃない人に対して

「社会とのつながり」という言葉を連呼する人がいる。


それは大きな間違いである。


社会とつながらなくても良いと言ってるわけじゃないし、全て間違っているというわけではない。

正確には

「社会とつながっていたほうがよい結果になる人の割合の方が多い」というのが正解だ。

少ないにしても、今の社会と一旦離れたことにより、その才能を発揮した人もいるし、

社会と距離をおいたことで水を得たサカナのように元気になった人もいるいうことが事実である。


※ここで一応断わっておくが「オレがそのタイプ」だとか「アナタもそうしろ」とか言ってるわけじゃ

ない。そういう人もいるわけだから、決して「社会とのつながり」は最優先ではないということ。


元パンクロッカーで芥川賞作家の町田康はバンド活動に疑問を感じた時、歌を休止して

閉じこもった。そして図書館に通い続けて本をかたっぱしからべラボーに読みあさり、家に

いる時はひたすら時代劇を見た。

それで積まれてきた知識や感覚が芥川賞へとつながった。


同じく芥川賞の西村賢太や田中慎弥、

アノ人達は友人がひとりもいないと言っている。

田中氏に関しては、ぞれこそずっと家に籠って、ひたすら本を読み、書いた。

そして芥川賞をはじめとする多くの賞を獲得した。

もし、彼らが無理に社会とつながろうとして、世の中の人がたくさんいるところに出ていたら

おそらく受賞作品は生まれていなかっただろう。


もちろん、生まれもっての才能や、とじこもったにしてもどれだけ勉強したかという過程もあるから

誰でも閉じこもれば結果が出るというわけではない。


だが、こうして無理に社会にでて、理不尽な同調をうけることを拒否したおかげで

才能を発揮していきいきとしている人も存在する例があるわけだから。

誰かれかまわずに「社会とのつながり」を押しつけたり、正当化するやり方は明らかにおかしい。


この「非属な才能」の著者が書いていることはマイノリティ哲学者の中島義道氏の考えかたに

共通する事が多くて、オレはかなりの部分で共鳴した。


引きこもりの人に対して、よく「甘えている」とかいう人がいるが、それに対して著者は

「僕はどちらかというと、引きこもりのことをバッシングする人間のほうが甘えている気がして

ならない」

と語っていて同感だった。


引きこもりをバッシングする人は大きな群れの中で、思考停止という状態に甘えている事が多い

という意見。


そういう人たちはそういう人たちに我慢もしてるし、絶えているのは理解できるが、たとえおかしい

ことでも、従っていれば居場所と安定はあるという甘え。

著者いわく、言われたことには耐えているが肝心なところで甘えているのと言う理論でこれは

かなり説得力がある。


自分で考えたり動いたりせずに怠けているくせに「それが大人」「それが利口」と体裁のもとに

ひきこもりの人や、自分の哲学をもっている人間にくってかかる……。


「群れの価値観が作る意味の無い意見に負けてしまえば、すべての革新的可能性は消えて

しまうのである」(本書より引用)


ただ自分自身をもっていない人からすれば哲学だのどうだのなんて、しったこちゃないだろうし

知ろうともしないだろう。


著者はアンチ尾崎豊を例に、こうも書いている。

まあ音楽に関しては趣味や価値観はそれぞれだから、そんなに強く訴えることではないと

個人的に思うが、参考までに。


あの尾崎の世界観をわかっていて否定する人はまだいい。

でも、単純に否定する人は、非属の才能なんて知ったことじゃなく、ただの迷惑な個人主義者

にしか見えないのだと。


これは尾崎や他のカリスマ歌手に限られたことでなく、年齢問わず一般人同志でもありえる。

社会に疑問をもっていて純粋に怒りを訴えてるだけなのに、ただ群れに従っているだけの人間

から個人主義者扱いされるパターン。


ただ、これに関して書かれていたことで的を得ているなあと思ったのは

「群れている人ほど、孤独になりやすい」と言う件


この場合の孤独とは「精神的」という意味だと思う。

一応、カタチ上はそういう大勢の人間がいる場所にいるが、あくまでも物体的なものとして

まわりに人はたくさんいるが、意思が疎通している人間はほとんどいないパターン。

でも、それを認めたくないし、そうなるのが怖いから、とりあえず群れにはいっていない人間を

否定して、群れている自分を正当化したいという思いが潜在的に働いているのはないかと

オレは考えている。


むしろ、しばらく引きこもりをしたほうが悟りを開けると言う。

消費社会から一旦距離を置くことで「何が本当に必要で、何が本当に価値があるのか」という

ことの本質が見えてくる。

日本には山ごもりという修行がある。1人で山に入り、誰とも話さない。

言い方を変えると、好きな人であれ多少イヤな人であれ、たえず周りに誰かがいるというのは

とてもラクなことなのだ。逆にずっと1人というのはある意味で苦行なのである。


でも、そんな苦行を経験したからこそ、太田光、町田康、井上雄彦、田中慎弥などは

結果を出すことが出来たのだろうと感じる。



空気を読めないこと、無理に皆と同じになろうとしないこと。

これは実は重要なことである。


「自分だけ違う」というのはとても重要なのだ。

微妙に論点がずれるかもしれないが、黒いサカナの「スイミー」の話をご存じだろうか。


小学校の時の教科書にのっていたのだが、完全に忘れていて、この本の中でとりあげられていて

「あっ!」って思いだした。


たくさんの赤いサカナの群れの中で、一匹だけ黒い色のサカナのスイミー。


ある日、天敵の大きな魚にスイミーの群れが狙われた。

キケンを感じたスイミー達の群れは、みんなで集まって天敵よりも大きな魚の形をつくり

それで追い返そうとしたが、どうも大きいサカナに見えない。

そこで一匹だけ黒い色したスイミーが、目の部分になったことによって、見事に黒い目をした

赤い巨大魚のカタチが出来あがり、天敵を威嚇し追い返して助かったという話。


この話は一見、仲間同士の団結とか、今まで差別してた者との協力とかいう美談だと

誤解されがちだが、実は違うと著者は語る。


「みんなと違うモノのメリット」を語っているのだと。

簡単に言えば、その存在価値といったところだろう。


もし、この時、スイミー含めて群れすべてが「黒一色」か「赤一色」だったら、その群れは

やられていた。

一匹だけ変わりモノがいたから、その窮地を乗り切れたのである。


などなど……


この本に関しては、もっと紹介したい場所があるのだが、ありすぎて全部紹介すると

キーボード打ち込むオレの指が麻痺しそうだから、このくらいにしておく。


あとは本を読んでもらえれば全部伝わると思う。