愛犬家 | 昭和80年代クロニクル

昭和80年代クロニクル

古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

私の名前は「ナカノウエ ユキコ」 シングルマザー。

郊外の一軒家で、娘1人 と 愛犬1匹 と静かに暮らしている。


食事はいつもきまって夜の7時。

今夜のメニューはハンバーグとポテトサラダ、そしてタマゴスープ。


私たちが食べるまえに、まず先に外に出て犬小屋の前のボウルに「ミ-コ」が食べる

ドッグフードを入れる。前に与えたものもまったく手をつけてないが一応入れておく。

切らしていたら飲み水も入れておく。

最近ミ-コは元気がなく弱っている。ドッグフードをほとんど食べない。

もうアブナイのだろうか。

今も寝ているのかあまり動かない。


ミ-コにドッグフードを与えると私は家に入り、「さくら」と一緒に自分たちの食事を始める。

外はかなり冷え込んでいて、長くいると凍えそうだ。


今日はいつもより腕によりをかけて料理した。

そのかいあって、よほど美味しいのか「さくら」を見ると黙って美味しそうにガツガツ食べている。

「オンナノコなんだから、もうちょっと上品におとなしく食べれないものかしら…」 

心の中では毎回そう思う。

でも、そんな「さくら」がまたとても可愛らしく感じる。


さくらは玉葱が食べれない。だから我が家のハンバーグは玉葱抜きだ。

さくらはぺロリと平らげて、食べ終わったら自分だけパッとその場を離れて

テレビのある居間へ行ってしまった。

つけっぱなしにしてたテレビの画面には外国のアニメが流れており、「さくら」はその前に

ちょこんと座り画面をじっと見入っている。


なんでも自分のペースで好き勝手に動いて、テレビの前でゴロゴロしたり部屋の中で

走り回ったり・・・ でもそんな我儘でオテンバなさくらだが、やはり愛おしかった。

自由きままに育てるのが私の方針だが、たまには「さくら!もっとお行儀よくしなさい!」

と叱ったりもした。


食事が済んでから数十分後・・・

私はキッチンで洗い物をし、さくらは相変わらずテレビの部屋で画面を見てるのか見てないのか

ゴロゴロしている。


そういえば、このくらいの時間、いつも外からミ-コのなく声が聞こえるのだけれども

今夜は聞こえない。どうしたのかしら。ドッグフードはちゃんと食べたのかしら?

私は外の犬小屋に様子を見に行った。


ドッグフードはそのまんま残っていて、少しも食べた形跡はなかった。

犬小屋の中のミ-コを見ると生気を感じない。

「ミ-コ!」

声を掛けてみる。反応がない。


小屋から引きずり出してゆすってみた。反応がない。

すでに衰弱してたことに加え、数年に一度と言われる大寒波のせいもあってか、

ミ-コはひっそりと息絶えていた・・・。


私は知り合いのナオさんに電話した。

いろいろお世話になってる知人男性で、ミ-コの埋葬の件で相談した。


翌日夜、ナオさんは愛車のオデッセイで家に来た。

さくらは足手まといになるので家に残して、2人でミ-コの亡骸を段ボールに入れて

車に積み込み、あまり人が来ない寂しい山の中に埋葬しにいった。


そして、数日が過ぎたある日。

早朝からインターフォンが鳴った。


ドアをあけたらグレーの背広を着た男性が3人立っていた。

ひとりは今流行りのドラマでみた俳優のような顏をしていた。もうひとりはヤクザのような

顏つきで、あとのひとりは特徴の無い顏つきだった。

俳優顏のひとりが黒い四角い物体を目の前に出して、いきなりこう言った。


「朝早くすいません。中野上由紀子さんですね? 警察署のモノです。

あなたを娘さんに関する死体遺棄容疑で逮捕します。御同行をお願いします」


いつかはこの日が来る・・・覚悟はしていた。

私はこれから警察に行って、しばらく帰ってこれない。

訪問者に気づいたさくらも玄関にきた。

さくらは警戒する表情で刑事たちを見つめている。


現場に残るらしい刑事に私は「さくらをお願いします」と言った。

そして私はさくらの顏をみて「じゃあ、ちょっと行ってくるから待っててね…」と言った。


さくらは私の顏をみて「キャン!キャン!」と鳴いた・・・。







- 201X年5月20日 押売新聞朝刊の記事より -


『丹波山の山中にて幼児の遺体が埋められていた事件で山梨県警は19日、

会社員の中野上由紀子容疑者(39)と交際相手で会社役員の小岩崎直吉容疑者(53)を

死体遺棄の容疑で逮捕した。


関係者と県警の話によると中野上容疑者は別れた夫との間に出来た長女の美衣子(みいこ)

ちゃん(3つ)に対し日常的な虐待暴行を加えて死亡させ、その遺体を交際相手の小岩崎容疑者

とともに山中に遺棄した疑い。


中野上容疑者は美衣子ちゃんを日ごろから鬱陶しく思っており、美衣子ちゃんの首に首輪をつけ

て鎖でつなぎ、数日間、庭の犬小屋に放置していたとのこと。食事もドッグフードを食べさせようとしており普通の食事は与えられていなかった。飢餓と寒気の中で犬小屋に括りつけられたことにより美衣子ちゃんは衰弱し死亡した模様。


また近所の住民の話によると中野上容疑者は異常なほどの愛犬家だったという。

自分の娘を外の犬小屋に括りつけ放置する一方、飼い犬を溺愛しており、部屋の中で飼って

一緒に食事したりして可愛がっていたらしい。美衣子ちゃんにはドッグフードフードを与えて

おきながら、愛犬にはステーキやハンバーグを与えていたこともあるという。

警察の調べに対しても

「美衣子なんか全然可愛くない。私が可愛いのはさくら(飼い犬)だけ」

と語っているとのこと。県警は虐待に至った詳しい経緯を探るべく引き続き取り調べを続けて

ゆく方針。また共犯者の小岩崎容疑者の尿からは覚せい剤反応が・・・(以下略) 』





-完-






【あとがき】


この物語すべて創作上のものです。

児童虐待風刺という題材にプラスして、今までとはまた違った角度からの

「叙述トリック」を仕掛けてみました。


ミステリーや読書が好きなかたには説明不要だと思いますが、叙述トリックとはいわば

作品中において犯人が他の登場人物を騙すトリックではなく、文章によって書き手が読者を

騙すトリックです。


まだまだ稚拙な文章ですが、素人が考えたオリジナル設定ストーリーとして

見て頂くぶんにはほーんのちょっとだけ斬新なもんが書けたのではと思います。