サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」他 | 昭和80年代クロニクル

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古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)/J.D.サリンジャー
¥924
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いろんな文化や作品名においてタイトルやビジュアルから脳ミソに入り込んでしまう

イメージってこわくないかい?

そうだな、例えばボクなんかは小さい時に「たこやき」にはてっきり玉ねぎが入ってるもんだと

思い込んでしまって、しばらくは喰わなかったんだ。うん。あとになって玉ねぎは入ってないって

知って、だったらもっと早く食べ始めておくんだったと後悔さえしたものなんだ。

ネーミングのイメージからしたら、映画のエレファントマンだっけ?あれもタイトルはインパクトある

から存在はずっと知ってたんだけどさ、動物のあとにマンがつくもんだから高校生になるまで

てっきりヒーローもんの映画だと思ってて恥とかかいたもんさ。ホントにイメージってものはこわい

もんだね。


そうそう、そういえばサリンジャーが書いた名作の「ライ麦畑でつかまえて」っていう本。

これも有名だからね、うん、作品の名前はずっと前から知ってたよ。

知ってはいたけど読んだこともなかったし、今まで読もうと思わなかったんだ。もともと外国文学

はちょっと苦手だということはあったよ。だけど、実際読まなかった理由はね、やっぱ、イメージで

勝手に「乙女チックな恋愛小説」だって勘違いして拒絶してたんだ。そう、だってそんな感じの

タイトルじゃないか、「~でつかまえて」なんてさ。思わず顏が赤らんじゃいそうじゃん。


ところがね、いろんな作家がこの作品を絶賛してて、解説とか読んでるとなんか違ったんだ。

そこでボクはちょっと読んでみようと思ったのさ。図書館で借りてね。


読んでみたらこれが恋愛モノじゃなかったんだ。

コールフィールドという少年が成績不振で学校を強制的?にやめさせられたあと放浪して

その時の出来ごとを一人称で語るという文章というか、まあその物語として話がすすんで

ゆくんだな、ああ、そうそう!今のこの記事みたいな一人称語り調でね。


このコ-ルフィールドという少年が今まで人生で関わってきた人たちについて何人もベラベラと

次から次まで喋り続けるんだよ!まったくよく喋るぜっというくらいにね。

でもこれがまた話の中に、兄弟から同級生、先生、行きつけの店員、不良、淫売婦、ガールフレンドっていろんな人間が登場するんだ。


最初のほうに登場するのはハ-スとかいう先生だったかな。コールフィールド曰く、コノ先生、

「これは僕が臍の緒切ってから、この方お目にかかった最大のインチキ野郎だったね」だと。

あ、そうそう、このコ-ルフィールドって言う少年のセリフにはさ、よく「インチキ」って言葉が

出てくるんだよ。つまり自分以外はみんな「インチキ」か「嘘つき」というメガネで世の中を観てる

ってわけだ。


こんな調子で今まで出会った人の事をずううっと批判して喋ったりするスタイルで話は進むんだ。

だけどね、だけどだよ、コールフィールドは言い回しは悪口っぽくて小姑のようにベラベラと

よくしゃべるんだけど、実は言ってることや指摘してることは的を得てるんだよな、これが!


この「ライ麦畑~」が全体を通して訴えたいことは、レビューで書いてる人がいたけど、その

フレーズを1部を拝借すると、

「純粋で正直ゆえ自分が一番だと思ってる少年が、世の中やオトナの偽善を見抜く」

ということ。

今これを読んでるみんなの周りにも実はいるんじゃないかな。ふだんからベラベラ喋ったり

また愚痴っぽくダラダラいってるから、なんとなく嫌われてるけど言ってる内容をしっかり

聞いてみたら、それはそれで実はかな鋭いトコロをえぐるようなコト言ってたりとかさ。


気にいった部分を一部引用してみようか。

コールフィールドが先生と会った時に、先生から「人生は競争だ」と言われるんだ。

その時のことを思い出して語ったコ-ルフィールドのセリフがね、


「競争だってさ、クソ喰らえ。大した競技だよ。もしも優秀な奴らがずらっと揃ってる側について

いるんなら、人生は競技で結構だろうよ、そいつはオレも認めるさ、ところが優秀な奴が1人も

いない相手側についてたらどうなるんだ。その時は人生何が競技だい?とんでもない。

競技でなんかあるもんか」


これはまさに御尤もで今まで誰もあまり言わなかった指摘だと感心したね。

作家の原田宗典サンもね、この部分をエッセイでとりあげてて、

「たしかに彼の言うとおり、人生を競技ととらえる人達が、今この社会を生んだことは間違い

ないことだ。そして競争はやがて対立を生み、戦争をも生み落としているのだ」ってね。


それを考えるとまだまだコノ国にも競争競争って言ってる人が多いから、みんな戦争が

したくてしょうがないんだな。ボクはそんなことはしたくないからゴメンだぜ。

その他にもコールフィールド少年は名言的セリフを作品中でばら撒いていたりするよ。


「やぼなことを言うのは大きらいなんだけど、やぼな人間といっしょの時は、きまって僕も

やぼになるんだな」


「(飛び降りたかったけど)僕は血まみれになった自分の身体が物見高い馬鹿どもに見られると

思うと、それがどうもいやだったんだ」


「堕ちてゆく人間には、さわってわかるような、あるいはぶつかって音が聞こえるような底と

いうものがない」


うーん。オトナになる前の少年の純粋な感覚だからこそ、感じられる感覚かもしれないね。

というか実際に書いてるのは、もうオジサンになったサリンジャーなんだけど、そのオジサンが

少年の気持ちに戻ってコレだけの表現を出来るというのはやはり凡人にはムリだと思うね。


とにかく、このコ-ルフィールドは次から次へと出会った人間にたいし不満をマシンガントーク

するんだけど、なんだかんだで人間が好きなんだよね。だからこんだけしっかりと憶えてるんだ。

だって興味ない人間の言ったことや、やったことなんていちいち細かく憶えてる?憶えないよな。

好きだからこそ、ウソや偽善、綺麗事を言ってくる人間を糾弾してるのさ。そこが核なんだよね。

この物語のさ。わかるかな?わかるよね?

ライ麦畑を読んでるとさ、やっぱ一番面白いのは人間のエピソードかなって思うんだ。

ヘタに作られたラブストーリーや反吐の出るサクセスストーリーなんかよりずっとさ。

まあ、反面教師っていう言葉もあるくらいだからね、ある程度は虫酸が走るクソヤローと出逢って

おくのもまた重要かなとか思ったりしちゃったよ。


「ライ麦畑~」は世代も時代も越えて読み継がれるってのは理解出来たよ。

なにかしらの発信力を持っていると感じるんだ。そういえばジョンレノンを暗殺した青年の

ジャケットのポケットにも文庫が入ってたらしいしね。ジョンとライ麦は接点ないからそこだけは

理由がわからないけど。

今はよく活字離れとか言われて本読まない人やキライな人多いらしいけど、この「ライ麦」は

是非読んでもらいたいね。盲点だった社会の矛盾に気づいたり、同級生に逢いたくなったり

するかもしれないよ。ま、読む読まないの判断は任せるけどね。


じゃあ、「ライ麦」のレビューはこれくらいにしておこうかね、それじゃあ今回のもう一冊を

紹介するよ。ああ、でもその前に「ライ麦」のレビュー終わったのと馴れない文体で疲れた

から、本来の文体に戻してもいいかい?いい?あ、そう!じゃあ、今から戻すね。


蠅の王 (新潮文庫)/ウィリアム・ゴールディング
¥740
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というわけで、今回は洋モノ2発(笑)

ゴールディングの「蠅の王」


大戦のさなか、イギリスから疎開する少年を乗せた飛行機が攻撃をうけ、南太平洋の孤島に

不時着したことから、そこで争いや殺しが起こる少年の群像劇。

権威のキーワードとなるのは「ほら貝」

極端に言ってみれば「裏・15少年漂流記」みたいなもんかな。


ただ、「15少年」その他の、いわゆる友情と絆における最終的全員脱出ストーリーよりも

こっちのほうがリアルに近いという印象は受けた。もし実際こういう漂流事件の状況になったら。


限られたエリアの中で、もしかしたら一生助けがこないかもとかおもったら発狂だってするかも

しれないだろう。また極限状態なだけにストレスもたまり仲間割れだって起きる。プラトーンが

そうだったな。当然、子供のみの集団だって殺し合いが起きてもおかしくはない。

リアルで深い一冊。


蛇足だが「蠅の王」とは神話かなんかに出てくる神で別名「ベルゼブブ(ベルゼバブ)」

同じくこの「ベルゼバブ」をモデルにしたキャラを登場させた「ゴッドサイダー」と言うマンガが

昔ジャンプでやっていた。まともに読んだことはなかったが、キャラの顏というか表情というか

いわゆるタッチが気味悪くて、「食欲なくす画だよな」と友人と話してた記憶がある。

ジャンプマニアには好評なマンガだったみたいだが。