契約解除の効果が問題となった事例 | 著作権コンサルタントが伝えたいこと

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契約解除の効果が問題となった事例

 

▶平成25年8月29日東京地方裁判所[平成24(ワ)32409等]▶平成26年04月23日知的財産高等裁判所[平成25(ネ)10080]

(注) 本件で問題となった録音録画物製作業務委嘱契約書(本件契約)には次の規定があった:

10条(解約の効果)

「甲が,前条の解約により本契約を終了させたときは,乙はそれまでに甲より受領した金員を甲に返還しなければならない。」(1項)

「甲は,本契約を解約した場合においても,本契約によって取得した著作権,及び乙がそれまで取得した本件成果物の素材の所有権はすべて甲に独占的に帰属するものとする。」(2項)

 

[控訴審]

(2) 本件契約の解除の効果

本件契約第10条は,被控訴人による解約により契約が終了した場合には,被控訴人が控訴人に対して既払金の返還を求めることができるとする定めを置く一方で(同条①),本件契約によって控訴人から被控訴人が取得した著作権及び本件成果物の素材の所有権を失わないとする特則を規定しており(同条②),被控訴人に片面的に有利な規定となっている。

確かに,本件契約第9条(10)を除く同条の他の号を見ると,受託者が順調に受託業務を遂行していない場合や委託者に成果物の著作権等を取得させることが困難となった場合など(同条(1)~(3)),どちらか一方の金銭的信用力が極めて悪化した場合や破綻した場合など(同条(4)~(7)),受託者に著しい不行跡があった場合など(同条(8),(9))であり,このような場合に委託者が契約を解約したときには,委託者が既に支払済みの金銭を回収するとともに,責めのない委託者が将来的な著作権等の権利をめぐる紛争に巻き込まれる懸念をなくし,あるいは,契約違反をした受託者への制裁又は違反の予防として,受託者から委託者に納入された映像素材の著作権等の権利を引き続き委託者が保有し続けるとしてもやむを得ないものであり,契約当事者双方もそのように解釈して本件契約を締結したものと推認される。したがって,本件契約第10条は,そのような場合にはこれを全面的に適用しても必ずしも合理性に欠けるものではないといえ,言葉を換えれば,本件契約第10条に定める契約解約後の権利関係の調整規定が全面的に適用されるのは,そのような場合に限られると解される。しかしながら,逆に,本件契約第10条が念頭においていないような場合については,同条の定める契約解除後の権利関係の調整をそのまま適用する前提を欠くことになり,これを当事者間の利害調整や衡平の観点から適宜調整の上適用することが,本件契約の合理的解釈といえる。

(略)

以上の点を考慮すると,本件は,本件契約第10条が本来的に想定する事例とは異なるものであり,契約の合理的解釈として,同条②に基づく権利等の維持の効果を認める必要性は高く,その適用はあると解されるものの,同条①に基づく既払金の返還の効果は,これを認める必要性は低いだけでなく,その時機も逸していて殊更に大きな負担を控訴人に強いるのであるから,その適用はないと解するのが相当である。

そうすると,本件契約の解約の結果,被控訴人は,控訴人に対し,本件作品を返還する必要はなく,本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権等の取得も継続されるが,既払金の返還を求めることはできないというべきである。

したがって,被控訴人の解除に基づく既払金の返還を求める請求は,理由がない。

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