「じゃあ神風吹かせればいいじゃない!」


前述の社長の年始の言葉

「今年の目標は返品をとらない」

と、聞いた時と劣らないくらいに呆れた。


ー さすが昔から一緒に仕事をしてるだけあって似ている。

類は友を呼んだのか… 


「吹かせたいですよ!


吹かせたいですけど、吹かせる準備をすれば,頭ごなし否定されるんですよ!


だから神風を吹かせる仕組み作りはあなた達がして下さい!

要するに戦略、戦術作りですよ!

いつまでも個人商店ではいられないんですよ!

いつまでも思いつきではダメなんですよ!

ウチはれっきとした企業なんですから


「そうよね!」


「そうよねって人ごと過ぎますよ!

あなたも取締役でしょ?

じゃあ聞きますけど、あなたのブランドはあなたで終わりですか!

あと数年で終わりですか!

今後どうするんですか?

このままでは松井ブランドは年を取って行くんばかりですよね?

下を育てるんですか?」


「育てるわよ!」

と、苦し紛れの返事。


ー 過去30年間、部下を育る事が出来なかった人が今からどうやって育てるのか! ー


「じゃあ、会社の為に誓って下さい。いついつまでにどうするのか?」




やっぱり先が全く見ていなかった。


以前は熱いモノを持っていた松井さんだから

何か「きっかけ」や「気付き」を引き出せるんじゃないかと期待したが

結局何も引き出せなかった。


気まずい空気、長い沈黙。


僕は残りのビールを飲み干し、口を開いた。


「ですから今の社長がいる限りは大きな改革が出来ないんですから


いつも会議で営業が提案する案あるでしょ?

それを少しずつ実行させましょう。

小さな事でもいいんです。

成功させて実績を作って行きましょう。

その小さな成功の積み重ねが、いずれ大きな成功につながると思うんです。

そうして営業のモチベーションを上げて売上につなげましょう。

売上と成果が何よりの起爆剤です!」

と、僕の思いを必死で訴えた。


松井さんも反応したのか

「何か久しぶりね!こんなに熱く話してくれる人って!私、頑張るわ!」

と、涙を流していたが半分酔ってるみたいだ。


「その言葉は前にも聞きましたよ~

でも、松井さんのブランドが持ち直してくれない限り、関西もしんどいんです。

とにかく売れてしまえばそれは実績です。

社長も売れてしまえば否定しないでしょう。

勝てば官軍!

松井さんも過去の殻を破ってやり直しましょう。

あっ、頑張りますの言葉はいりませんよ~!

そんな言葉よりも、ブランドの方向性や松井さんがやりたい商品をボク達に語って頂いた方がいくらか営業に役立つので!」

「分かったわ。私がやればいいのよね?私、カリスマに戻るわよ!」


何となく後味が悪かった。

それもそうだろう。

僕なんかが言っている事にイチイチ納得しているのだから


何とも情けない。

取締役である松井さんの口からは一切何の意見も出て来なかったし


つづく・・・

その日の夜、帰り支度をしていると


「鈴木?今から何か予定あるの?」

と、松井さんに声を掛けられた。


「ホテルに戻って1人居酒屋するだけですけど


「あらぁ~寂しいわねぇ!それじゃあ飲みに行こっか?」


ー 松井さんとの食事はキツいなぁ ー

と、思ったが今日のリベンジならいい機会だ!受けて立とうと思い


「いいですねぇ!いいトコあるんですか?」


「もちろんよ!六本木のあそこ行こ!」


「いいですねぇ。行きますっ」


ー お酒の席でどこまで思いが伝わるのかでも今の危機感を率直に伝えよう! ー



食事会は始まった。

ボクは1杯目の生ビールを一気に飲み干した。

松井さんは酔うと全く記憶がなくなるので、仕事の話なら酔う前に片付けたい。


早速松井さんの仕事回路に軽くジャブを突いてみた。


「今日はT社の巷で売れていると評判のJK(ジャケット)を着用されてた方が多かったですよね~」

と、言ってみた。


案の定、松井さんは乗ってきた。


「そうそう、あれかわいいよね~。私もあんなの作ってみたいの!」


ー 作ってみたいの!じゃないだろ~!それはデザイナーのあなたの仕事だろ 


「えっ!?じゃあ作ってくれればいいじゃないですか?」


「でもね、社長がダメだっていうから!」



ー よく言うよ!出来ないから社長のせいで、そう言うと営業から責められなくて済むとでも思ってるみたいだ ー


確かに社長の感覚はいつもズレていて、自分の感覚外では他社が売れていても全く受け付けない。

すべてが好き嫌いだけの判断なのだ!

ウチでは実績がない事は一切やらせてもらえない。

だから、僕はこの取締役松井義夫に今、社内外で起っている状況を徹底的に話してみようと思った。


「社長はいつも営業に対してもそうですよね~。営業も社長に提案するんですけど


社長は自分の思い通りにならなかったらキレるし、喧嘩にならないから全く話にならないんですよ!最終的に、立場が悪くなり始めれば営業のあらを探して、重箱の隅をつつく様な事ばかり言って来るので、ついつい何も言えなくなるんです!」

と、愚痴ってみた。


「あの人は変らないからあの人が社長である以上、仕方がないよ!」


ー いつまでぬるま湯に浸かっているんだ! ー


「仕方がないで済まさないで下さい!

社長には社長の仕事をしてほしいんですよ!

営業と同じ目線では困るんですよ!

そしてもっと大きな視点で時代に対応出来る会社作りをしてもらいたいんです!

そして社員に提示してほしいんです!


ファッションは時代対応業なんですから!

時代に応じて変化しないと次から次へと新しい事を仕掛けて行く!

営業の新しい提案を実績がないからといって、頭ごなしに却下していては、いつまでたっても進歩しないですよ。

逆に社長に何か考えがあるのなら別ですが聞いた事ないですからあるワケないですよね!人の提案を否定から入る人が、新しい考えなんて持ってるワケないですよ!」

と、僕が言う終わる前に松井さんが口を挟んで来た。


「じゃあどうするの?」


「どうするの?」って



ー やっぱりあなたも社長と一緒か!取締役がこれでは先もないな ー


「今のままでは神風が吹かない限り状況はよくならないでしょう!」

と、呆れて言ってみた。


次の瞬間、まさか取締役の口から出たとは思えない言葉が本気で返ってきた。


つづく・・・

展示会初日


「松井さん?今回の出来は何点ですかぁ?」

と、僕は自信満々の松井さんを見て、まずは探りを入れてみた。


「よく聞いてくれたわねぇ~かなりの自信作だから90点!てトコよ!鈴木は?


ー あ"ぁ~やっぱりこの人ズレてるわ!まだ100点と言わないだけ謙虚なのか… 


ボクは松井さんの自己満足度に100点満点を与えたくなった。 


「それは売れると思っての90点ですか?自己満足的な点数ですか?」

と、まだ探ってみた。


「両方よ!例えば、これなんか絶対に売れると思うんだけど


ー マジっすかぁ?本気で売れると思ってるん? ー


かなり調子に乗って来た。 


あのですね~今回の展示会商品って7月末の納期ですよね!いくら得意先におしゃれで高感度なお客様がついていても、残暑厳しい8月にこんな分厚い、硬いツィードの、しかも丈の長いJK(ジャケット)に同素材のPT(パンツ)なんか合せて誰が買いたいと思うですか?もっと他社商品や店頭の動きを見て下さい。他社はもっとスピード感のある商品を作ってますよ!いつまで昔の感覚を引きずってるんですか?少しは目を覚まして下さい。お客様の立場に立って考えて下さい。」



「すいません言い過ぎました。営業なので売ります。売りますよ!でも




これ以上言うと見苦しくなるし、追い詰めると社長と同じになってしまうので言うのをやめた。


たとえ、展示会で得意先からその様な商品の受注を頂いても、店頭で売れなければ後々の商売に影響を及ぼす。

仮に売れたとしても、納品してから3ヶ月も4ヶ月も先になりそうな商品では得意先も売り甲斐がない。


いわゆるスピード感がない商品なのである。


得意先にとっては納品時期に合ったタイムリーな商品を即座に売りたい。

仕入れてから、売って、お金に変わるまでの時間は短いに越した事はないのだから


今やファッションセンス以上にマーケットセンスが問われる時代だ。


従来のアパレルメーカーは


「ファッションセンス=感度あるよい商品」


さえ作っていれば十分に売れていた。


しかし、今や時代の変化と共に、ファッションセンスだけでなく


「マーケットセンス=消費者に買いたいと思わせる感覚


が企業やブランド自体になければいくら営業レベルや商品レベルで頑張った所で売れるマーケットが限られる。


例えば、上代(価格)に関して言えば、以前はメーカー発信型で「ファッションセンス」のある商品(素材、デザイン、着心地、完成度の良いなどなど)さえ作っていれば、上代が高くても十分に売れていた。

ウチも実際にそうだった。


しかし、良い商品=上代が高いだけで勝負する時代は終わった。

良い商品を作ったからといって買って下さいと営業活動する時代は終わった。


今や良い商品は当たり前。

これからは、メーカーが得意先や消費者に対して、ニーズを満たせるマーケットに、どのような商品をどのような戦略で当てはめて行くかといった「マーケットセンス」がなければ、まず生き残って行けないだろう。


多くの数字を求めず「こだわり」だけのニッチ展開を目指すメーカーであれば別だが



しかし、ウチの様に商品はニッチマーケット向けなのに、目標数値や考え方は無限大にマスマーケット向け、といったアンバランスな考え方はあまりにも世間知らず過ぎる。


それでも、未だにウチの社長は良いものさえ作っていればいくらでも売り上げを伸ばせると思っているからかなり痛い!


営業の尻さえ叩いていれば数字が伸びると思っているから痛過ぎる!


社長もデザイナーの松井さんも創業当初の個人商店のセンスのまま時代と共に大きくなってしまった。


ここで一言!


ファッション業は時代対応業だ!


時代に逆行して、自社の器以上に利益を求め過ぎるなら滅びるしかない!

と、言いたい。


 時代に合せて会社に「変わる」気がなければ、オレが「替わる」しかないのか… 


つづく・・・