国際フォーラムホールCで上演中の、原作/安田淳一・脚本、演出/小柳奈緒子・宝塚歌劇団月組・ミュージカル『侍タイムスリッパー』を観てきました。

 

ご存知、映画『侍タイムスリッパー』は自主上映からはじまって大人気を博し、たくさんのファンから愛されている作品。

私も以前映画館で観て、とても感銘を受けました。

いつもは映画の好みが全然合わない夫とも、「この映画いいよね!」と珍しく一致。

 

そんな作品が、なんと宝塚の舞台に!

 

私自身は宝塚に関しては“にわか”で、劇場で観るのは『GUYS AND DOLLS』に続いて2作目なんですが、とっても良かったです!

 

今作、あちこちで笑いがおきていて、私、三谷幸喜かアガリスクエンターテイメントを観に来たんだっけ?と思うくらい。

 

宝塚の観客のお作法としては、「あまり笑ってはいけない」というのを何かで見た気がするんですが(ほんとかなあ)、登場人物の真剣さがおかしみにつながるので、つい笑っちゃう。

劇場中の笑い声に包まれながら観るのがとても楽しかった。

 

そして、笑いだけではなく、脚本、演出、演技からは原作へのリスペクトと本質の継承が感じられ、胸をうつ場面がいくつもありました。

劇場中が水をうったように静まり返ったあの数十秒は私の観劇経験の中でも今までに経験したことがなく、忘れられないものになりました。

 

さらに、突然差し込まれるあの曲(笑)

時に明るく、時に慟哭のように響く歌声

華やかなだけでなく物語を補完するダンス

迫力と美しさのある殺陣

時代劇へのオマージュとエールと遊び心あふれるフィナーレ

 

老若男女問わず楽しめる、これこそ宝塚歌劇団創設者の小林一三氏が目指した「国民劇」では?(大きく出てしまいました笑)

 

この作品、原作映画のファンの方や、普段宝塚やミュージカルと縁がない方たちにも一見の価値あり、とおススメしたい。

 

とはいえ、思い立ってすぐにチケットが取れないのが宝塚。

2月1日に、各地の映画館でのライブビューイングや、U-NEXT、楽天テレビでの配信があるので(アーカイブはないんですが)、ご都合のつく方は是非!

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https://kageki.hankyu.co.jp/news/20251220_003.html

 

さて、以下ネタバレありの感想ですので、未見の方は自己判断のもと、お読みください!

 

 

 

 

 

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2026年1月12日(祝)15時30分

国際フォーラムホールC

原作・安田淳一

脚本・演出 小柳奈緒子

作曲・編曲 手島恭子

振付・御織ゆみ乃 若央りさ

殺陣・清家一斗

出演・鳳月杏 天紫珠李 風間柚乃 汝鳥伶 夏美よう 輝月ゆうま 梨花ますみ 住城葵 英かおと 妃純凛 大楠てら 羽音みか 彩路ゆりか 花妃舞音他

 

 

 

 

 

 

 

 

幕末の会津藩士の高坂新左衛門(鳳月杏)は、薩長同盟を阻止せよとの下命を受け、京都・西経寺前にて長州藩士の山形彦九郎(風間柚乃)と刀をまじえた時に雷に打たれ、気絶。目が覚めるとそこは現代の京都・太秦撮影所だった...

 

実は私、映画『侍タイムスリッパー』が宝塚で舞台化されると知って、楽しみな反面懸念もあって、

 

まず、映画の持ち味と宝塚の世界観ではベクトルが真逆なので、映画ファンの方は抵抗感を持つのでは、ということ。

 

そして、私の理解するところでは、宝塚はスター至上主義で、まずはスターを煌めかせることが至上命題。かつ厳格な番手主義と劇団員の役を増やす必要あり。となると、原作の内容とは乖離してしまうのでは?

 

さらに、高坂新左衛門役は鳳月杏さん、風見恭一郎役は風間柚乃さんとのキャスティングなので、実年齢の差は埋められるのか?

 

そして、劇中劇で使われる竹光での殺陣と、真剣を使っての勝負との違いを、舞台上の空間で成立させられるのか?観客に、真剣で勝負をしていると信じさせることができるのか?

 

結果…それらは杞憂だったと言ってよいと思います。

 

舞台をご覧になった安田淳一監督もおっしゃっていましたが、脚本・演出を手掛けた小柳奈緒子さんの原作の再構成(本質を損なわない)がとてもよかったと思います。

 

今回、会津の場面が新たに付け加えられていましたが、それによって高坂新左衛門が背負っていたもの、失ったものの大きさ、その心情がより響きましたし、白虎隊の場面なども加えられて、(若干説明過多かなとも思いましたが)幕末の時代背景などもよりわかりやすくなっていたと思います。

 

また、その場面をそうするのか!と膝をうった部分もありましたし、ところどころで入る歌唱がより登場人物の心情を鮮明にするのもミュージカルならではだと思いました。

 

さて鳳月杏さん演じる高坂新左衛門ですが、目覚めたらそこが撮影所だった時の驚き、とまどい…かつてこんなにオドオド、しおしお演技をすることになったトップスターがいたのでしょうか?

キラキラとは真逆だし、むしろボロボロ。

 

何がなんやらわからずウロウロする様がほんとにおかしいしそんな新左衛門がめっちゃ可愛くて可愛くて…そして必死になればなるほど観客の笑いを誘って

 

これ、鳳月さんだからこそ出せる味わいで、宝塚的にはこう言っていいのかわかりませんが、コメディエンヌと言っていいほど、間合いやせりふ回し、リアクションが完璧!

(前作ではカッコいいギャンブラーだったんですけど彼は何処へ?)

 

一方で、倒幕の歴史、会津藩がたどった運命を知った時の驚愕、故郷への思い、もう自分が元の時代に戻れないと知った時の絶望、哀しみ、周りの人々の温かさによって励まされ、斬られ役として生きていくことの決心、そしてかつて刀を交えた山形彦九郎との邂逅の驚きとある決意…

 

これらの心情の変化を、丁寧に、リアルに演じていて、そのリアリティが観客の共感をよび、涙を誘っていたと思います。本当に、演技が上手!

 

鳳月さん、新左衛門を演じるにあたって何十回も映画を見たと言っていましたが、映画の物真似ではなく、気負いすぎることもなく、真摯に役柄と向き合い、自分なりの新左衛門を作りあげていたと思います。

 

頬を伝う涙が美しくも切なかった。

観終わって思い出すと、なんだか新左衛門が愛おしくて愛おしくて…

 

一方、これまた重要な役の風見恭一郎(山形彦九郎)を演じた風間柚乃さん。

風見恭一郎は、新左衛門と拮抗する存在感と演技力を必要とされると思いますが、風間さん、堂々たる演技でお見事でした。

 

一幕の最後に後ろ姿だけで笑いを誘うのもすごいし、一世を風靡した時代劇のスターとしての華やかさ、カッコ良さもバツグン。

また先にタイムスリップしてきた彼の苦悩、背負っていたものの重さも十分に伝わってきました。

 

今回、新左衛門の年齢設定を少し若くしたようにも見受けられますが、二人の実年齢差が障壁になることもありませんでした。

新左衛門と風見を演じたのが鳳月さんと風間さんで本当に良かったと思います。

ベストキャスティング。ベストコンビ。

 

そして二人で現代で真剣を交える場面。

それまでの二人の真摯な演技の積み重ねがあってこそだと思いますが、ここはまさしく虚構の中の真実に観客がいざなわれた場面。

 

信じられた。

 

劇場中が、固唾をのんで二人の戦いを見つめていました。

原作映画と同じ殺陣師の、清家一斗さんがつけた殺陣も迫力とどこか優雅さもあり、映画同様、名場面として語りつがれていくのではないでしょうか。

 

そしてこれまた、かつてポロシャツとジーンズの衣装のトップ娘役がいたでしょうか?の山本優子役の天紫珠李さん。

 

ひたむきで、男社会の中でがんばっているけどどこかほんわりとしている優子役に、天紫さんぴったりでした。助監督としての動きもはつらつとしていてよかった。

今回、優子役をストーリーテラーにもってきて、かつメタ構造にしていたのもうまいなあ、と思います。

 

映画版の優子は京都弁ですが、宝塚版では標準語。

今回の舞台版では、京都在住の役に関西出身の人をあてていて、ネイティブな関西弁がリアリティを生み出す一助になっていて良かったと思います。

天紫さんは東京都出身なのであえて京都弁にしなかったのかな。

撮影所所長役の住城さんは関西弁がうまくできず東京から出向している設定とか。

 

新左衛門を演じた鳳月さん(千葉県出身)の会津弁は、ネイティブの人が聞いたらどうかはわかりませんが、朴訥な人柄が感じられて耳に心地よく、台詞として聞きやすくてよかったです。

 

時代劇スター俳優、錦京太郎を演じた英かおとさん、見目麗しくスターオーラがあって素敵でしたし、

所長役の住城葵さんの温かみと面白味、切れのあるリアクションもいい。

殺陣師の関本を演じた専科の輝月ゆうまさんもユーモアと毅然とした師匠ぶりがとてもよかった。

 

また、住職役の専科の汝鳥伶さん、妻役の梨花ますみさん、二人の優しさ、温かみに心がほんのりしました。

松平家家老役を演じた専科の夏美ようさんの存在感は舞台に厚みを増していましたし、

家老の娘の五月を演じた花妃舞音さんの、凛とした武家の娘ぶりが印象的でした。

 

大楠てらさんは立っているだけで存在感があるし、他の月組のみなさんもみな舞台上で真摯に役を生きていることが感じられ、とても良いカンパニーであることが伝わってきました。

 

タイムスリップものは数あれど、元の時代に戻ろうとして試行錯誤するのではなく、厳しい運命を知りながらも、今をしっかりと生きていこうとするところが新鮮で、宝塚版では、周りの人々の温かさがそれを支えていることが強調されているところもよかったと思います。

 

こうして書いていると改めて原作映画の持つ力を感じますし、また映画を見たくなってきました。

 

かつて侍がいたこと、彼らの思い、生き様、その運命の連なりの先に今の私たちがいること、そこから想起される様々な想い、

また、忘れ去られようとしている時代劇の存在からは、改めて伝統を守り、継承していくことについて考えさせられます。

 

長くなってしまったので、フィナーレについては多くは語りませんが、懐かしい時代劇メロディーに乗せての美しいダンスのカオスがとても好きでした。

 

また、劇中ではあんなに不器用な恋心を抱く新左衛門を演じていたのに、天紫さんとのデュエットダンスでは、危険なほどの色気を放出していた鳳月さんであったことを記して終わりたいと思います。