PARCO劇場で上演中の、三谷幸喜作・演出『アメリカン・ドリーム』を観てきました。

 

米ソ冷戦時代にアメリカの映画界で行われた「赤狩り」を題材に、4人の映画人と彼らを追及する2人の非米活動委員による会話劇。

 

三谷幸喜さん、いつもは「自分はあくまでコメディ作家である」と言っていて、それが三谷さんの矜持なのだと思っていましたが、

 

今作品に関しては、

「これはコメディではありません」と宣言していたのが、意外でした。

 

観終わってみると、今、この題材であえてコメディではないと宣言したことに、ある種の覚悟…というと言いすぎでしょうか、

この作品にこめた「思い」が伝わってきた気がします。

 

かといって、堅苦しかったり、説教くさいわけではなく、エンタメとして一級品で、

なにより、実力のある俳優を集めたというだけあって、

その演技の上手さ、表現の豊かさがもう最高で、

演劇好きにはまさに至福のひとときでした。

 

ベテラン俳優さんたちの手練れの演技に加え、若い中川大志さんが奮闘する姿が一種の清涼感をもたらしていたのも良かったと思います。

 

以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方は自己判断のもと、お読みください!

 

 

 

 

 

 

 

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2026年8月18日(火)13時

PARCO劇場

作・演出 三谷幸喜

出演 小日向文世 浅野和之 山崎一 浅野雅博 関谷春子 中川大志

 

 

 

 

 

 

 

舞台は、とあるホテルの一室。

4人の映画人たちは別の控室に集められており、一人ずつ部屋に呼び出され、

 

「あなたは、コミュニストですか?あるいはかつて、コミュニストだったことはありますか?」

という中川大志さん発する台詞を皮切りに、

 

コミュニストを排除する目的で作られた非米活動委員会の「委員1」(浅野雅博)と「委員2」(中川大志)が、

公聴会を前にして次々に尋問していきます。

 

実際には、公聴会の前に証人が呼び出されたという事実はないそうですが、

 

小日向文世さん演じる「脚本家」が主催した、コミュニストの集会と疑われているパーティに参加していた仲間の名前を明かすように言われ、

 

証言を拒否すれば、議会侮辱罪に問われ、投獄される。

仲間の名前を言えば、密告者のそしりを受けて映画界から追放され、仕事を失う。

 

映画人としての信念と、保身との間の究極の選択を迫られ、

 

仕方なく仲間を売る者、

むしろ積極的に委員に協力する者、

のらりくらりと追及をかわす者、

あくまでも仲間を売らない者…

 

映画人たちの選択と決断に、時に共感や同情や反発を覚えつつ、「もし自分だったら?」と自問したり、

 

マッカーシズムを背景とした権力の横暴さ、イデオロギーの対立がやがて魔女狩りを生み出していく様には遠い昔の話というだけではない普遍性を感じてもいました。

 

今作品に登場する映画人たちにはモデルがいて、

 

一番はじめに尋問を受けた関谷春子さん演じる「女優」は、かつて出演した映画で受賞歴があるものの、それ以降はオファーも減り、現在はチャイニーズレストランで働きながらチャンスを待つ日々。

 

委員たちからの追及にはじめは抵抗を試みるも、投獄の恐怖や脅しのような詰問には抗えず…

 

モデルは、キム・ハンターという女優のようですが、三谷さんは、赤狩りで一番被害を受けたのは、むしろ名もない俳優たちだったのではないか、と言っていて、

 

関谷さん演じる「女優」は、大スターではなく、ハリウッドにたくさんいたであろう弱い立場の女優だったことがよくわかる人物像で、それでも女優を続けたいという葛藤が伝わってくる演技でした。

 

関谷さんを拝見するのは初めてでしたが、お声がいいですね。

台詞が、とても心地よく耳に届いてきました。

 

次に呼び出されたのは浅野和之さん演じる「映画監督」

モデルは、かつてのコミュニスト仲間を積極的に売ったエリア・カザン。

 

悪びれない態度は卑怯者ともうつる人物像でしたが、浅野和之さんの演技からは、映画製作への使命感と、己の才能への信頼と、エゴもあるとはいえ、根底には、映画を作り続けることをファーストプライオリティとしているゆえんということが伝わってきて、一方的に断罪する気持ちにはなれませんでした。

 

次に呼び出されたのは、劇作家の「マイスター」

モデルはナチスに追われ、デンマークへの亡命を経てアメリカに来たベルトルト・ブレヒト。

 

山崎一さん演じる「マイスター」が、委員たちからの追及をのらりくらりとかわすんですが、それがもう巧みで、劇場が笑い声で沸いた場面でした。

 

実際、ブレヒトは公聴会でものらりくらりと証言を拒み、翌日アメリカを離れたそうですが、委員との攻防の中で「マイスター」が放った、

 

「ファシズムから逃れて自由の国アメリカに来たのに、今起きていることはファシズムそのもの。また、上のやることに疑問を持たずに従っている者こそ、過激なコミュニストである」という言葉。(意訳ですが)

 

この台詞は強烈で、胸に刺さりました。

 

最後は、小日向文世さん演じる「脚本家」

モデルは、ダルトン・トランボ。

 

自らコミュニストであると宣言し、仲間の名前は、合衆国憲法修正第一条を根拠に断固として拒否。

小日向文世さん演じる「脚本家」は、常に穏やかな態度で、落ち着いた口調の中に、強い信念をもっていることが伝わる演技で、とても魅力的でした。

 

また、異分子を排除していくことがやがて何をもたらすかを物静かに語った言葉が深く胸に残っています。

 

一方、映画人たちを尋問する「委員1」を演じた浅野雅博さん。

 

浅野雅博さんは、横田栄司さんが出演した『オセロー』のイアゴー役ではじめて拝見したんですが、浅野さん演じるイアゴーは、一見普通の人に見えるのに策略をめぐらせオセローを追い詰めていく様がとても恐ろしく印象的だったのを覚えています。

 

今回は、手練手管を弄したり、時に大声で威圧したりしながら、映画人たちを追求していく役柄でしたが、忠実に職務を果たしているとはいえ、もともと映画にはまるで興味がなく、自分の理解の及ばない映画人たちに対して常にいらだちを抱えている様などが見事でした。

 

それでも、終盤で、「委員2」に向かって言った言葉が、「委員1」に別の印象を与えていて、三谷さんの人物造形の奥深さを感じました。

 

そして、「委員2」を演じた中川大志さんの存在がまた重要性をもっていて、

 

「委員2」は、かつて俳優を目指したこともある映画好きの青年で、映画への知識を見込まれてこの任務を任されているという複雑な役どころ。

途中、自分には向かないと訴えても先輩の「委員1」には従うしかなく…

 

中川さんの演技は、映画人への尊敬の念や憧れ、映画への愛があるゆえの葛藤がよく表れていて、

彼が感じる失望や怒りやジレンマは、映画ファンの気持ちを代弁しているとも言えて、

また、権力と映画…ひいては表現の自由との関係の様々な側面を表していると思いました。

 

老練な俳優陣に混じっての若さ、まっすぐさもこの作品に爽やかさを与えていたし、

中川さん、何より演技が上手いですよねー 努力家でもあるし。

 

今回、三谷さんが朝日新聞に連載している「三谷幸喜のありふれた生活」というコラムの中で、中川さんのことをたくさん褒めていて、ファンの私としてはすごく嬉しかった。

 

これからも、力を発揮できるような作品に「呼ばれて」ほしいし、「選んで」ほしいな、と思います。

 

舞台上方にはスクリーンがあって、尋問の順番を待つ映画人たちの控室の様子が映るのも面白かった。

 

雑談の中から証拠をつかむために、委員が隠しカメラを仕込んでいたんですが、敵もさるものでカツラと整形の話しかしていないのも可笑しい。

尋問が終わった後に、広々とした控室へと舞台が転換したのも開放感があって良かったです。

 

今作品、三谷さんが書く台詞が本当に良くて、登場人物たちの置かれている立場、心情、思考、社会情勢などが無駄なく理解できるし、

 

ところどころ笑いを誘う軽妙さの中にも鋭さや深さがあり、そこから観客は色々な思いに導かれたのではないでしょうか。

 

映画人たちのそれぞれの闘いをある種の怒りをもって描きながらも、根底には三谷さんの映画やエンタメへの愛を感じましたし、

6人の俳優陣の個性を十分に引き出す演出と、それに答えた演技が本当に良かったです。

 

最後、誰もいなくなった控室で、「委員2」がちょっと踊るんですが、隠しカメラを使ったこのラストの演出は、とても粋で、ここは中川さんのルックスが活きましたね。

 

中川さん、もともとダンスを習っていたのでもっとキレキレに踊れると思うけど、「委員2」として少し照れたように踊るのが良かった。(多分、これも中川さんの計算だと思う…)

 

「アメリカン・ドリーム」というタイトルに込められた皮肉も感じつつ、

シリアスさと洒脱さのある物語を十分に味わうことができた1時間50分でした。