紀伊國屋ホールで上演中の、小沢道成作・演出・美術『わたしの書、頁を図る』を観てきました。

 

紀伊國屋ホール創業100周年記念公演にふさわしく、図書館が舞台のお話。

 

とある町の図書館職員と常連客との間の妄想と笑いと歌と音楽に彩られた物語。

 

登場人物それぞれに自分の一部を見たり、共感したり、考えさせられたりしながら、楽しい時間を過ごしました。

 

以下、ネタバレありの感想です。

明日が千秋楽ですが、未見の方は自己判断のもと、お読みください!

 

 

 

 

 

 

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2026年7月12日(日)13時

紀伊國屋ホール

作・演出・美術・小沢道成

音楽・オレノグラフティ

出演 木村多江 味方良介 光嶌なづな 中井智彦 坂口涼太郎 猫背椿

 

 

 

 

 

ある町の図書館職員の柳沢町子(木村多江)は、退屈で平凡な日々を送る中、図書館に通う常連客たちが借りた本から、彼らの職業や人物像を想像することがやめられない。

 

まずは町子が想像する人物たちが、歌や音楽とともに紹介されました。

 

売れない舞台役者(坂口涼太郎)

無職の男(中井智彦)

不登校の中学生(光嶌なづな)

エンドレスの家事に嫌気がさしている主婦(猫背椿)

 

彼らに共通するのは、孤独で、図書館にしか居場所がない人たち…

 

そんなある日、最近よく図書館に来る岸口(味方良介)という若い青年が、町子の姿を撮影させてほしいと頼み込んできます。

 

岸口は自主製作映画を撮っており、町子の働く姿に感銘を受けたとのこと。

その申し出に驚き、最初は拒絶する町子ですが、自分は岸口から好かれているのかも?と妄想がふくらんでいきます。

 

町子が撮影に応じ、他の常連客たちも撮影に巻き込まれていく中で、彼らの現実の姿が明かされていったんですが、

 

町子の想像と全然違っていてむしろある意味では「勝ち組」とも言える人たちで、そのギャップに笑わせられました。

 

彼らを孤独な人と想像していたことは町子自身の投影でもあったのでしょうが、

現実の彼らにも自分の人生の中での焦燥感や不全感、悩みがあり、それは岸口も同じで。

 

そんな彼らの思いに私も、私自身の一部を重ね合わせたり、共感したりしながら観ていました。

 

やがて、町子が、岸口に「好きです」と告白する、と決心。

 

今までの町子なら考えられない行動で、自分の殻を破って一歩踏み出そうとしているのはわかりますが、

 

岸口は町子に恋愛感情はもっていないと思うよ、それあなたの妄想だよ、イタイ人になっちゃうよ…と、観ながらハラハラする私。

 

私の懸念にもかかわらず告白に協力するという猫背椿(笑)

 

町子は、中学生の時に、吹奏楽部のサックス奏者の男子生徒に恋をし、自分の想いを手紙に書いて彼に渡すんですが、

(中学生時代の町子を光嶌なづな、男子生徒を坂口涼太郎が演じる)

 

それを読んだ男子生徒は、ひとこと

「ムリ」と。

あげくその手紙を他の生徒に見せたため、町子は笑いものになってしまいます。

 

その拒絶されたという経験が、町子を孤独の殻に閉じこもらせ、人との関わりが少なくて済む図書館という場所に自分をおいて安心を得たけれど、

そんな自分に虚無感も感じている。

 

そして、こんな自分にしたのは拒絶されたあの体験のせい、と他責思考にもなっている。

 

中学時代に傷ついたことが、その後の人生を決定づける、ってあるのかしら。

自分はどうだったろう、最近は昔のことは忘れていることも多いけど…

でも、その人にとってとてもつらい体験だったら、あり得るかも。

人の発する言葉は凶器にもなりますしね。

 

撮影をきっかけに図書館の常連客たちもそれぞれに思いをぶつけあうのを見ながら、

町子は自分が本当にしたいことは岸口への告白ではなく、

「好きです」という言葉を言ってほしいのだと気が付きます。

あの日の自分が言ってほしかった言葉で。

 

それを聞いた常連客の一人が、

「それは気持ちのカツアゲだ」と言った台詞が可笑しかった。

 

そして、自分が本当に言いたいことは、あの日言えなかったこと、あの男子生徒に向かって言うべきことだったとわかった町子は、

岸口に、カメラを回してほしいと頼みます。

 

カメラの前で、あの日の彼に向って

 

ここ、なんて言うのかな、と思ったんですが、

男子生徒への怒りや恨みではなくて、

「心が動いたんです」と。

 

町子はあの日の自分に向き合って、

想いは届かず、傷つきはしたけれど、

自分の心が動いたことがすべてなのだ、と自分を肯定できたんだな、と思いました。

 

何十年もかかったけれど、きっとそこから、町子は歩きはじめていくのだろうな、と。

 

町子を演じた木村多江さん、これ以上傷つきたくないために自分の殻に閉じこもっているけれど、

本当は内なるエネルギーを秘めており、それが妄想力となっているところを、

歌や時にファンキーな言動で表現していて、楽しかった。

突飛なことを言っていても、品性を失わない感じがしたのは、ご本人のキャラクターによるのかしら。

 

「自分のルックスがいいので人が寄ってくるけど、やがて内面とのギャップに気づいて人が離れて行ってしまう」という悩みをもっている岸口を演じた味方良介さん、

臆面なくそれを何度も言うのが可笑しかったし、確かにそういう葛藤をもつ人もいるでしょうね。

 

売れない舞台役者ではなく実は成功している起業家だけれど、その価値観や恋愛観にはどこか無理をしているような様子を演じた坂口涼太郎さんも、リアリティがありました。

 

実は無職ではなく働く必要もないほどのお金持ちだった中井智彦さん、それゆえの空虚があったり、町子のことを好きなんだけど実らなそうだったり(笑)

どこか可愛らしさもあって。

 

歌声が素晴らしいなと思ったら、劇団四季出身のミュージカル俳優さんなんですね。

 

実は有名な料理研究家だった猫背椿さん、それでも段々と料理研究家としては売れなくなってきている焦燥もあり、

でも町子の恋バナにはおせっかいおばさんになるところは、猫背椿さんのキャラクターが生きていて面白かった。

 

本当に不登校の中学生を演じた光嶌なづなさん、町子の中学生時代の瑞々しい演技が良かったです。

「私は自分の意志で図書館に来ているんです」

と言った台詞に、彼女の苦悩と覚悟と芯の強さを感じましたし、

彼女のこれからの幸せを願う気持ちになりました。

 

6人の登場人物、みなさん個性的で、魅力的に演じていて、とても良かった。

 

小沢道成さんは、時に人の心の弱さや生きることの辛さを赤裸々に描いているけれど、

根本には、そんな人の痛みに寄り添う優しさがあるように思えて、温かい気持ちになりますし、

 

「心が動く」

って、いい言葉だなあ、

私もそれを求めて劇場に通っているのだなあ、と改めて思いました。