だいぶ時間が経ってしまいましたが、2月16, 17日の週末は、高松明日香さんの個展『クラウディア』を観に、彼女の地元である香川県の高松まで遠征してきました。このおよそ10年間に描いた作品のうち約200点を展示するという、一昨年の東京・三鷹市美術ギャラリーでの『届かない場所 高松明日香展』と並ぶ規模の大きな展覧会になります。同じ年の岡山県立美術館での『第7回 I氏賞受賞作家展 ダイアローグ』に続きちょっと遠距離ですが、これは見逃してはいけない展覧会。万難を排して臨みました。
四国を訪れたのは、数年前に仕事で岡山に出張した際に丸亀まで足をのばしたのが一番最近のことで、高松はとっても久しぶり。15歳の時に一人旅で訪れて以来、37年ぶりになります。当時はまだ瀬戸大橋がなく、宇高連絡船で四国入りしました。女木島に行ったり、当時仁尾で開催していた太陽博を観にいったりしたのが懐かしいです。
新幹線、瀬戸大橋線と乗り継ぎ、特に交通トラブルもなく、昼少し前に無事高松に到着。東京からは5時間弱というところでした。さっそく会場の香川県文化会館に。どっしりとした風格のある建物でした。
入口すぐのところが受付。入場無料のうえ、図録(ピックアップした作品を収録)までいただき、なんとも申し訳ない気持ちになってしまいます。
展示は二階に上がる階段の踊り場から始まります。ここには旧作の『逃避途上の旋律』『別れの喪章01』、そして階段横の壁には『鳥を印象する』から2点が。
階段を上がった二、三階がメインの展示室になっています。二階までは吹き抜けになっており開放的。特に展示は章立てされたりはしていませんが、大まかにいくつかのセクションに分かれています。
まずはざっとひと通り鑑賞。一昨年の三鷹市美術館で展示されていたもの、昨年の岡山県立美術館に出品されていたものなどもありますが、それ以降に描かれた新作もたくさん展示されており、見ごたえがありました。
午後からは高松さんによるギャラリートークがあるので、その前に昼食を。やはり香川に来たらうどんかなというところで、近くのうどん屋さんの釜揚げうどんで腹ごしらえのあと、あらためて会場に。
吹き抜けの二階は、壁際に沿ってコの字型に展示されています。ここからギャラリートークは始まりました。
個々の作品についてというよりは、自身の絵の描き方などについて話されました。
最初の2面は壁際の床に藍色っぽいカーペットが設えられており、この色に合わせた作品を選んだとのこと。
高松さんは写真や映像など2次元の資料をもとに描かれているのですが、これは決して3次元の代用ということでなく、あくまでも2次元のものを2次元として写し取っている(写真に写っているものを描いているのではなく、写真そのものを描いている)のだそうで、そのあたりのニュアンスがギャラリーにはイメージしにくかったのか、みんなの頭の上に??が浮かんでいるようでした。
学生時代に、ベルギーの象徴派の画家
レオン・スピリアールトの絵をみて、自分もこんな絵を描きたいと思ったのが、今の画風につながっているとのこと。なるほど。
コの字の三画目の壁には、緑色を多く用いた作品を中心に展示。ご本人も気に入っているという『梢の花を摘み取りながら』(私も好きな絵です)や、ちょっとミステリアスな『近づく』など。
この壁の裏が次の展示室。部屋は明るく、作品も明るい、暖色系の色を多めに使った作品を中心に展開されていました。こちらも部屋の雰囲気に合わせて選んだとのこと。実際に展示してから、あちこち移動させて今の形になったとツイートされていました。
次にギャラリートークで取り上げられた作品は『私は、私がそうであるということを知っている』。高松さんが兵庫県立美術館の常設展で観た版画家・
柄澤齊の作品で目の中に日蝕が描かれている、その名も『日蝕』という作品があり、その影響下に目の中にも背景の波を描いてみたとのこと。
こういう細かいところは、解説がないとなかなか気づきにくいですよね。
そういえば、子ども向けのイベントの時にやけにウケていたと思ったら、「生で方言を聞くのが珍しかっただけですよ」と言われたというエピソードなども話されていました。三鷹のときに比べると、トークに余裕が出てきていましたね^ ^
続いては階段を上がって三階へ移動。こちらは広々とした展示室で、比較的新しい作品が並べられていました。
群像を描いた作品や、映画のシーンのような作品など。
水や氷などを描いた作品群や光を描いたものなど。
今回のチラシにもなっているメインビジュアルの『光の配置』についても説明がありました。
鳥を描いた作品もいろいろあります。鳥を描くのも好きだと、三鷹の展覧会でも仰っていましたね。
ギャラリトークの後、声をかけさせていただきました。SNSでのやりとりはあったのですが、直接お話しするのは初めてになります。
せっかくの機会なので、気になっていることなど、いろいろ質問させていただきました。
最近の作品は少し前のブルーが特徴的な作品と比べ、画面上の色数が増えた印象もあり、子どもさんが生まれてから、少し画風にも変化が出てきたのかと思い尋ねたところ、特に意識しているわけでもなく、急に変わったわけではないけれど、変化はしているのだと思うとのことでした。
モモというタイトルの子牛の絵は娘さんなのだそうです。お風呂に入っている子どもの背中の絵もその流れの作品。最近は動物を画面にちょっと入れたりしているとギャラリートークでも説明されていました。
いったん話を切り上げた後、しばらくぶらぶら鑑賞していたら、高松さんに後ろから声をかけられてびっくり。トークイベントに参加されたギャラリーの方々も大方帰られて空いてきたこともあり、もう少しいろいろとお話しさせていただきました。
筆が早いなぁと常々思っていたので、頭の中には描きたいものが沢山あって、そこから選んだものを仕上がりのイメージに沿って描いているのかと思ったら、そうではないとのこと。
自分で描いていて、はじめから仕上がりが見えている事はなく、予想外の出来上がりがあるからこそ、絵を描いていられる。仕上がりがわかってしまっていたら、なんの楽しみもなく、モチベーションもなくなってしまうと。なので描いていた絵が、自分の思いもよらないタイミングで描き終わりになってしまったりすることはよくあることなのだそうです。
でも、気に入ったモチーフでないと描く気は起こらないとのこと。
三鷹での展覧会の話になって、絵の組み合わせは自分で考えたけれど、展示や新しいタイトルなどは学芸員さんが考えて、準備の時も、高松さんは来なくていいですよなんて言われていたとのこと(^_^;)
訪問の何日か前にtwitterで、以前金比羅歌舞伎のために描いた『鞘當』は展示されていますか?と尋ねたところ、残念ながら出品されていないとのお返事だったのですが、その話になって、実際どこに収めたらいいのか、フィットする場所がなかったからとのこと。確かに今回の展示を観ると、しっくりと収まる場所がないのは納得でした。他にも時代劇のようなザ・和風の絵も色々あるのだそうです。どこかでまとめて展示できるといいですけどなんて。
過去の作品も、三鷹の時や今回のように組み合わせを変えて展示したりすることによってイメージも変わるのですが、今後もこのような展示はするのでしょうか?と尋ねたところ、今回出品した古い作品は今後はもう展示しないかもしれないし、なんとも言えないとのこと。
そういえばクリエイターは総じて、過去よりも今の自分の仕事を見てほしいと思っているということを思い出しました。
音楽でいうとソフトロックのレジェンド、ロジャー・ニコルスが、過去の作品のようなものはいくらでも作れるので、今作っている曲を聴いてよと言っていたという話や、先日亡くなったミシェル・ルグランも、どうして昔の作品の話をするのか?そんなのを振り返っている時間がもったいないだろ?と言っていたというエピソードを思いだしました。
先日ヌードに関する公演でのセクハラ問題で話題になった会田誠氏も、今の作品を観て欲しいんだよねという、同様な発言をされていましたね。高松さんもそうなんだと思います。国際フォーラムでエクリュの森のスタッフの方が、描いた絵はすぐにでも観てもらいたい気持ちだと話されていたのを思い出しました。
疑問に思っていたことも、直接訊くことができ、なるほど、そうなんだ、と納得がいきました。お忙しい中、相手をしていただき、とても充実したひとときでした。嬉しかったです。遠征して来た甲斐がありました。
高松で開催中のやなぎみわさんの個展を紹介をしてもらったり、帰り際にも呼び止められて、次回の岡山での個展(内容は今回の展示からの抜粋とのこと)の絵の入った案内はがきをいただいたり、気にかけていただき本当にありがとうございました。
このあと、岡山市の天満屋でも展覧会が、そのあと三島のエクリュの森でも作品が展示されるなど、続けてイベントがありました。毎回新作の展示もあり、観に行けない歯がゆさもありましたが、4月5日からは東京での展示です。青山のスパイラルガーデンでのグループ展です。クラウディアで展示した作品に、新作を加えての展示になるそうです(こちらは観てきましたので別の記事でアップします)。
このあと、この『クラウディア』を高松さん自身が2冊のフォトブックにまとめて刊行されました。
高松市の塩江美術館で販売されていますが、通販でも購入可能です。
文庫本サイズで手に取りやすいです。単なる図録ではなく、作者自身によって切り取られた展覧会の情景と、それに添えられた作者の言葉。ファン必携です。