魂が揺さぶられました! 芥川也寸志さんの遺作『佛立開導日扇聖人奉讃歌 いのち』30年ぶりの再演! | cookieの雑記帳

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世間は大型連休の最終日、5月6日(振替休日)の午後は、水戸博之さん指揮によるオーケストラ・トリプティークの演奏会を聴きに、渋谷区総合文化センター大和田に行ってきました。
会場のさくらホールは4階の大ホール。6階の伝承ホールでは以前歌ったことがあるのですが、こちらは初めてでした。
今回の演奏会はオーケストラ・トリプティークの第八回演奏会で、「3人の会2019」というタイトル通り、戦後のクラシック音楽の作曲界に燦然と輝く御三方、團伊玖磨さん、黛敏郎さん、そして芥川也寸志さんによるグループの演奏会を再現する企画(企画はスリーシェルズの西耕一さん)です。
「3人の会」を名乗ったステージは、2006年に東京シティフィルが(当日の演奏はCDになっています)、また、2017年、2018年には大友直人さんが東京交響楽団や群馬交響楽団を率いて開催していますが(比較的メジャーな作品の演奏でした)、今回の演奏会では、よりレアな作品が取り上げられており、邦人作曲家作品のファンにとっては聴き逃せないラインナップです。
個人的には長年待ち続けた、故芥川也寸志先生の遺作『佛立開導日扇聖人奉讃歌 いのち』の再演があるとのことで、駆けつけました。

実はここ数ヶ月、転職活動をしていたこともあって、チェックが行き届いていなかったため、この演奏会の開催に気づいたのは前日の5月5日。
たまたま芥川さんの作品を聴いていて気になったことがあったのでWeb検索していたところ、この演奏会にヒット。まさかあの「いのち」が再演? 見つけた瞬間の心臓がドキンとする感じは、とても言葉では表現できない程でした。初演もちょうど社会人から大学受験をした節目で忙しかったため聴き逃しており(その後FMで放送されたエアチェック音源は今でも大事に保管してあります)、今回も危うく聴き逃すところでした。偶然というには出来すぎているかもしれませんが、まさに神様(今回の場合は仏様かな?)のお告げのようでした。
そんなわけで当日券があることを確認して参加した次第です。


今回取り上げられた作品は、普段耳にすることのないものばかりで、聴衆のほとんどが初めて聴く曲だと思います。


プログラムは黛敏郎さんの作品から始まりました。黛さんといえば『饗宴』『曼荼羅交響曲』『涅槃交響曲』といったゴツい作品や数々の電子音楽など、ちょっとイッちゃっているような、別次元の人のイメージがあるのですが、比較的普通の仕事もしているのだなぁと思うのが映画音楽になります。昨年生誕100年だった大好きな川島雄三監督の代表作『幕末太陽傳』の音楽も黛さんでした。
そんな数多くの映画音楽から『東京オリンピック』組曲。1964年の五輪の記録映画で、来年の東京五輪2020を控えてのタイムリーな選曲。
無伴奏の女声合唱の導入部から始まり、聖火リレーや競技の様子を描いた描写的な音楽でした。
お次は映画音楽から『天地創造』組曲でした。旧約聖書に基づいた作品で、アメリカとイタリアの合作映画。オリンピックよりはだいぶスケールの大きな作品でした。
黛さんも埋もれている作品が多いので、こうやって取り上げられるのはとても意義のあることです。

続いて團伊玖磨さんのステージでは、初めて聴く『シンフォニア・イゾラナ』が取り上げられました。
團さんといえば、6曲の交響曲やオペラ作曲家としてイメージが強く、また作風が汎アジア的な印象もありますが、個人的には合唱をやっていたこともあって、『筑後川』や『岬の墓』は馴染み深いです。あとはエッセイストとしての『パイプのけむり』シリーズですね。
今回の作品はもともと1954年の3人の会の第1回演奏会で初演された『ブルレスケ風交響曲』を本人が改訂・改題したもので、時期や意図は不明とのこと。1984年放送の「音楽の広場」でオリジナルの第3楽章が演奏されており、少なくともこれ以降の改訂ということになるのでしょう。
この時の放送がYouTubeにアップされているのでリンクを貼っておきます。






急ー緩ー急の3楽章形式の、比較的軽めで全体的に明るく、魅力的な作品でした。これが初演から60年以上も眠っていたかと思うと、本当にもったいないです。
こういった作品は、採算などを考えるとなかなか演奏会に取り上げにくいのが現状でしょうけれど、まだまだたくさんあるはずなので、発掘が進むといいなと思います。

休憩を挟んでの後半はいよいよ芥川也寸志先生のステージです。
芥川さんの音楽は伊福部昭先生の門下生の中でもとりわけその影響が強く、同じ門下生の黛さんとはだいぶ作風が異なります。
アレグロ、そしてオスティナートが持ち味。江戸っ子のスマートさが容姿にも作品にも表れています。
その音楽はとても自分の好みに合っていて、氏の生前からずいぶんと演奏を聴いてきました。学生時代は新響のコンサートにも通ったものです。
しかし、頻繁に取り上げられるのは初期の作品ばかりで(代表作であり人気作なので仕方ないのですが)、『エローラ交響曲』や『チェロとオーケストラのためのコンチェルト・オスティナート』、『オルガンとオーケストラのための響』ですら演奏されるのは稀な状態。それ以外の作品は言わずもがなです。
今回はバレエ音楽『失楽園』が登場。若い頃から師の伊福部さん同様、多くのバレエ音楽を書いた芥川さんですが、そのほとんどは顧みられることなく、『蜘蛛の糸』くらいしか音源がありませんでした。しかし近年発見された『湖底の夢』『炎も星も』の古い音源がCD化されたり、2015年の生誕90年のメモリアルコンサートでオーケストラ・トリプティークが『KAPPA』を演奏したり、少しずつですが、耳にすることができるようになってきました。嬉しいことです。
『失楽園』は1950年に初演。この年は『交響管弦楽のための音楽』がコンクールで第1位となり、楽壇で注目を集めることとなった年でもあります。
その音楽はというと、もうどこをとっても芥川節全開でした! 思わずニヤッとするようなallegroの部分では随所に少し前に書いた『交響三章』のような響きが聴こえました。いったいどんなバレエだったのかと思ってしまいます。

プログラム最後はいよいよ芥川也寸志先生の遺作『佛立開導日扇聖人奉讃歌 いのち』です。
この曲は佛立宗より日扇聖人の開導100年の法要のために委嘱された作品で、作詞はなかにし礼さん。しかし作曲途中の1988年初夏、芥川さんの肺にがんが見つかり、闘病の甲斐なく、翌年1月に逝去されました。生前に完成していたのは合唱パートとオーケストレーションの1/6くらいだったとのこと。年末になり病状の悪化で思うように筆がとれなくなった芥川さんは、黛さんのお弟子さんである鈴木行一さんにオーケストレーションを依頼することに。
「曲は、ドレミのド音が最初から最後までずーっと鳴っている。あとは、南無妙法蓮華経の御題目を、延々と続けて、オーケストラで、それをユニゾンで堂々とやってくれ」というのが鈴木さんに託されたメッセージ。
初演は1989年5月2日、サントリーホールでの「芥川也寸志 追悼演奏会」で、外山雄三さんの指揮、東京交響楽団、東京混声合唱団、合唱団鯨による演奏でした。


委嘱元である佛立宗での演奏は7月17日の御正当大法要で、同じく外山雄三さんの指揮、大阪フィルの演奏でした。
その後、頒布されていたカセットテープ(のちにCDに収録。一時期ホームページでも公開されていました)の演奏は天沼裕子さん指揮の東京シティフィルハーモニック、東混によるもので、これはライブなのかセッションなのか?
現在はYouTubeなどでも聴くことができます。


そして、初演以来の公開演奏となる今回。初演が平成元年、そして再演が令和元年と、なんだか不思議な符合ですね。
佛立宗の方々にもお声がかかっていたようで、↓のような案内が出ていました。


ここにも30年ぶりの再演と書いてあるところを見ると、大法要以来という事になるのでしょうか?
実は芥川さんはこの作品に先立つこと8年、1981年に日蓮宗の「宗祖日蓮大聖人第七百遠忌」という日本武道館での大法要のために音楽を書いています(2017年に長崎で再演された様子が動画であがっています)。

妙法蓮華経の中の「自我偈(じがげ)」の部分に付けた曲で、こういった仕事が「いのち」の委嘱に繋がったのかもしれません。

演奏に先立ち、企画の西耕一さんからお話があり、来場されていた、初演にも関わった本門佛立宗の小山日誠上人、芥川也寸志さんの奥さまである真澄さん、そしてオーケストレーションをした鈴木行一さんの奥さまが紹介されました(鈴木さんも2010年に56歳の若さで逝去されています)。

西さんが合唱に加わり、指揮者の水戸さんが登場し、いよいよ演奏です。
ティンパニと低弦による序奏に男声合唱による「南無妙法蓮華経」のお題目が加わり静かに曲は始まりました。
座っている場所のせいかもしれませんが、オーケストラの音圧に合唱は若干押され気味で、tuttiのところでは歌詞はほとんど聞き取れませんでした(合唱パートは耳コピ済みなので、歌詞は脳内で補完されました)が、合唱は1つの楽器のように、またオーケストラからはお題目が聴こえてくるかのように、両者は渾然一体となってホールを満たしました。
中間部の女声合唱を中心とした穏やかな世界、そして後半。ティンパニに誘われるように再び男声合唱によるお題目が繰り返される中、女声も混じり厚みを増しながらオーケストラとともに徐々にクレッシェンド。熱狂の渦に身を任せ、恍惚感とともに、「南無妙法蓮華経」が渦巻く圧巻のcodaに向かって一気に駆け抜けました。
残響が消えた後、魂を持っていかれたかのような一瞬の静寂。そのあと会場は割れんばかりの拍手に包まれました。
やはり生演奏は凄かった! 伊福部先生の『釈迦』を初めて生で聴いた時以上の、トランス感覚でした。

最後に指揮者の水戸さんから、「アンコールではないですけど」と、前置きがあったあと、もう一度演奏するので、どうぞお題目を唱えて下さいと。佛立宗の方も大勢いらっしゃっていたので、配慮したものかと思われますが、これは無くてもよかったのでは? 中間部を除いて、短めに編集しての演奏でした。

ともあれ、長年待ち焦がれていた演奏が聴けて、しあわせな気分で連休を終えることができました。
自分の年齢を考えると、この先再び聴けるチャンスは訪れるのか?
余韻を噛み締めながら、期待したいと思います。

物販では、先行発売のCDを購入。
オーケストラ・トリプティークの演奏会から、2015年の「芥川也寸志 生誕90年 メモリアルコンサート」

そしてこちらもオーケストラ・トリプティークの演奏会から2016年の「芥川也寸志 個展」
共にほとんどの作品がここでしか聴けません。芥川也寸志ファン必携のアイテムです。

リハの写真です。SNSよりお借りしています🙇🏻‍♂️