ここからは、

思い出すだけで気が遠くなりそうな出来事が続きます。

 

でも、避けて通れないことだから。
ちゃんと記録しておこうと思います。

 

大学二年生になり、娘は一度だけ地元に戻ってきました。
五月、成人式の前撮りのためです。

 

本当は、これも最後の最後まで嫌がっていました。

でも祖父母の勧めもあり、

「式には出ないけど、写真だけは撮る」

ということで、なんとか納得して帰ってきました。

 

当日は祖父母も来て、
無事に写真撮影は終わりました。

 

ですが、そのとき、私はあることに気が付きました。

 

娘のアップルウォッチの画面。
そこに、見知らぬ男の子の写真が表示されていたのです。

 

「これ……誰?」

そう思いました。

 

でも、聞いたところで答えないだろうと思い、
そのときは何も聞きませんでした。

 

結局、これが悪夢の始まりだったのです。

 

娘は大学二年生になってから、
SNSでつながった子たちに誘われ、

メンズ地下アイドルのライブへ行くようになっていました。

 

いわゆる「メン地下」です。

中高生がハマり、危険だと一部で問題になっていた、

あのメン地下。

 

まさか娘が、そんな世界にハマるなんて――

 

そのときの私たちは、想像もしていませんでした。

 

ここから、私たち家族には
次々と悲惨な出来事が起こることになります。

 

でも、この前撮りの写真を撮ったあのときは、
こんな大きな問題になるなんて、

まったく思っていませんでした。

 

今、思い出すだけでも、胸が痛くなります。

大学一年の後期が始まりましたが、

相変わらず連絡の取れない日々が続いていました。

 

LINEは既読スルー。
電話をしても折り返しはなし。

そんな毎日です。

 

仕方ないと諦めつつも、

何をしているのだろう?
ちゃんと生活できているのだろうか?
ご飯は食べているのかな?
勉強は頑張っているのかな?

心配は山ほどありました。

 

そんな中、「秋に旅行」という名目で、
夫婦で娘のところへ会いに行く計画を立てました。

ですが――

 

「バイトで忙しいから会えません」

と断られてしまいました。

 

え?
なぜ?

 

親が来ること、そんなに嫌なの?

 

当時は理由が分かりませんでしたが、
今ならはっきり分かります。

 

娘の家には、

推し活で大量に購入したグッズの山があったのです。

 

見つかりたくなかった。
バレたくなかった。

きっと、そういうことだったのでしょう。

 

ちなみに、そのグッズ。
後になってはっきり分かったのですが……

 

公式うちわ、三桁…

 

え?って思いません?

 

そんな枚数、どうするの?って。

でも、今の子たちはそういう文化のようです。

 

グッズを売り切れさせることを「枯らす」と言うらしく、
売り切れ=応援しているアイドルの売り上げに貢献、
という考え方のようです。

 

さらに、売り切れは「人気がある」というアピールにもなるので、
「枯らしました」という写真をSNSにアップする。

それが、今の子たちの応援方法の一つなのだそうです。

 

……私には、正直まったく理解できませんが。

 

今は良くても、
あとでこんなにたくさんのグッズ、邪魔にならないのかな?

推しが変わったとき、
「こんなに買わなければよかった」と後悔しないのかな?

そんなことを、つい思ってしまいます。

 

……と、少し話がそれましたが。

 

大学一年の後期も、
私たち親の想いと娘の感覚の差は広がる一方でした。

 

結局、大学一年の後期に地元へ戻ってきたのは、
二月に二泊三日だけ。

大学一年の一年間を通してみても、

九月に二泊三日。
二月に二泊三日。

それだけでした。

 

LINEの返信も、二、三か月に数回。
電話は、ほとんどなし。

 

なんとも寂しい親子関係です。

こんな思いをするなら、
遠方の大学に行きたいと言ったとき、

反対すればよかった。

そう、心から後悔していました。

 

そして大学二年生。

ここから、本当の悪夢が始まります。

無事に大学に合格した娘。

私は、娘が希望に満ちあふれ、

キラキラとした大学生活を送るのだと、

勝手に思い込んでいました。

 

でも、娘にとって大学生活のスタートは、

親からの脱出――

 

つまり、自由を手に入れ、

一人暮らしという「自分のお城」を手に入れただけだったのかもしれません。

 

慣れない土地での女の子の一人暮らし。

心配しない親はいないでしょう。

 

大学に近く、治安の良い場所を選んだこと。

大学卒業後や就職後のことまで見据えて揃えた家具や家電。

 

今思えば、少しやりすぎだったのかもしれません。

そこまでしなくても良かったのかな……とも思います。

 

そんなふうに、すべての条件が揃ってしまった娘は、

結果として、推し活をさらに強化してしまいました。

 

三月に地元を離れて引っ越し。

四月には大学入学。

 

最初の一週間ほどは連絡がありましたが、

五月になると、ほとんど連絡はなくなりました。

 

ゴールデンウィークも帰省せず、

表向きの理由は「バイトが忙しいから」。

 

でも実際は、あちこち遠征してライブに行っていたようです。

 

そんなことになっているとは夢にも思っていなかった私のもとに、

その情報が入ってきたのは、ママ友の何気ない一言でした。

 

もちろん、悪気があったわけではありません。

 

当時、子ども同士はまだつながっていて、

そのSNSに、娘がライブに行っている写真が頻繁に上がっていたそうです。

 

「楽しそうにしてるね!」

 

そう言って教えてくれただけでした。

 

そのときの私は、

「そうね。バイトもしてるし、自分で自由にやってるんだろうね」

と、何気なく会話をしていました。

 

でも――。

 

その「遠征しているらしいね」という話を、

何気なく娘にしてしまったことで、

私はさらに避けられるようになってしまいました。

 

今思えば、その頃にはもう、

推し活の範囲がかなり広がっていたのだと思います。

 

きっと娘は、

「バレた」と思って、気まずかったのでしょう。

 

結局、大学一年生の前期。

娘が地元に戻ってきたのは、

夏休みの終わり、九月に二泊三日だけ。

 

たったそれだけでした。

 

聞きたいことも、話したいことも、たくさんあったのに。

 

でもその頃には、

娘の中で私は、

もう「敵」のような存在になっていたのかもしれません。

 

それを確信したのは、

一人暮らしの家へ戻った娘とのやり取りでした。

 

私は、

 

「もう少しだけ連絡を入れてくれないかな?

色々と心配だから」

 

と伝えました。

 

すると娘から返ってきたのは、たった一言。

 

『ウザイ』

 

その一言でした。

 

そこから、私たちの溝はどんどん深くなっていきました。

 

今思い出しても、

あの溝は、どこまでも深く、真っ暗なものだった気がします。