永遠に 手をつないで -8ページ目

永遠に 手をつないで

私には20年以上も忘れられない人が居ました。
全ての出会いと再会といきさつと・・・
過去の記憶を綴ります

それから、すぐに私は実家を出て一人暮らし始めることに。


友達も誰も居ない街で自分を最初から作り直したかった。

現在はさすがに思い出を思い出として見ることが出来るが、

この頃は育った町の何を見ても、何かを思い出しては沈んでしまうようになり、

思い出を共有したせいで、友達にすら会いたくなくなった。


だから、場所を変えるしかなかったのだ。


仕事もちゃんとして、素敵な恋人が居て、

お洒落なワンルームマンションで暮らす自分を想像すると、

わくわくする音譜


今度こそ、愛される女になりたい。


行動力だけはある私。

そう決めた翌日には、

仕事で知り合った人の会社に就職させてもらえるようお願いして、

すぐに面接と部屋探しに向かう。

たった一日で仕事と部屋を決めた私は、翌週には引っ越した。


引っ越した夜。

電話もなくて、孤独な夜。


これからの人生を思うと、寂しくて不安で泣いた。

それでも頼る人は誰も居ない。

1人で何もかもしなくてはいけない。


それは本当に何もかも。

ガスは使用開始の手続きをしなくてはコンロに火が付かないなんて知らなかったし、

固定電話を付けることがこんなに面倒で大変だなんて思いもしなかった。

最低限のものだけを実家から運んだだけなので、

テレビや洗濯機や冷蔵庫なども買いに行かなくてはいけなかったけど、

一体、どこに買いに行けば良いのかもわからなかった。

PCが1人一台の時代ではなかったから、ネット検索なんてことも思い付かず、

電話を付ける時に行ったNTTでもらったタウンページが私の愛読書になっていた。


新しい仕事の合間にそんな生活するためのベースを整えて、

そんな生活にも慣れ始めた頃、私は生まれて初めての携帯電話を購入した。


その携帯電話に知らない番号からの着信があったのはある日曜日の昼間。

トシくんと連絡を取らなくなってから、ちょうど一年が経っていた。

オープンカーの男をそんなに好きではなかったんだと

すぐに気付いたから、


どこの女に電話していたかも

その女を諦めさせて自分のものにしたいとかも


何とも思わなかった。


ただ、傷ついた。


自分が愛される存在ではないと思うことが一番苦しい。




かっちゃんとはどうやって連絡を取っていたのかも

全く覚えていないけど、

ドライブ同様、ごくたまに会って、飲んだりしていた。


この日もどうやってホテルの部屋まで行ったのか、

まったく覚えていない。


かっちゃんは私に指一本触れなかった。


下着姿で隣で寝ている私に、まるで興味がないようだ。


どうせ、愛のないセックスしかしたことのない私は

かっちゃんとしてもいいと思っていた。


どっちでも良かった。


だけど、かっちゃんが私に触れない事で、

逆に私を大切にしてくれているような気分になって、

急に我に返る私。


「帰る」


「え?」


「帰る」


「あ、ああ」


寝ていたかっちゃんを無理矢理に起こし、

帰り支度をする。

自宅まで送ってもらった。


かっちゃんはきっと、色んな女性を知っているから、

私なんかを今さら抱きたいなんて思わないんだろうな。

きっと、女に不自由してないんだ。

かっちゃんらしい。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

書きながら、今、昔のかっちゃんを思って激しく嫉妬。

あの頃、どんな女性とセックスしていたんだろう。

ああ、私もかっちゃんとしたいなぁ。

この時に抱いてくれていたら、

もっともっと若くてピチピチの私を知って貰えたのにな

と、よく思う。

右側の男も私にとっては思い出したくない記憶。


副業にも夢中になったし、右側の男にも夢中になった。


他に考えることもなかったし、

副業をするフリをして右側の男とセックスする。


週に1回はしてたと思う。


だけど、私はセックスが好きではなかった。

周りから聞くみたいに気持ちよくなかったし、

したいと思ったこともなかった。


トシくんと抱き合っていた時は繋がらなくても気持ち良かったから、

不感症ではないだろう。


私はセックスには向いてないんだな。と思えば、

求められてすることに抵抗はなかった。


ある日。

セックスして一旦帰った私は忘れ物をしたことに気付く。


男の部屋に戻った時、

部屋から声はするのに、ノックをしても開けてもらえない。


おかしい。

あやしい。


ドアに耳をつけると、どうやら電話で話をしているみたい。

「おまえのことが一番好きだ」

「何を捨ててもおまえが欲しい」


???


誰に言ってるの?


私はドアをノックし続け、10分くらいした頃だろうか。


右側の男が出て来た。

「寝てたから気付かなかった。ごめん。」

「女と電話してたでしょ?聞こえてたよ。」

「・・・テレビだろ」

「寝てたんでしょ?起きてからテレビ消したの?テレビ付いてないけど?」


私は少しも悲しくなかった。


ただ、怒り狂った。


バカにされてることが許せなかった。


よく覚えていないけど、

怒り過ぎて、アパートの階段から落ちた気がする。



私は愛されていない。

愛されることを望んでいるのに、

愛されない。

求めらる=愛される




  


  (あなたが、付き合ってくれってしつこかったんじゃない。

   あなたが私を抱きたいと言ったんじゃない。

   私を愛してるんじゃないんだね。)

では、ないの?




その翌日の夜、私はかっちゃんとホテルの部屋にいた。


車に釣られて、気を良くしていた私は、

右側の男と左側の男と香奈と4人でよく遊ぶようになる。


それは、昔、トモくん家で遊んでいた頃を思い出すような楽しさがあった。


何をするでもなく、ただ、左側の男の部屋でダラダラする。

でも、もう学生じゃなかったから、そんなのは週末だけ。



そして、ある週末、突然現れたのは

外車に乗って本物のムートンを来た若い女。

男2人の友達だと言う。


その2人は女を歓迎した。


そして、その女は唐突にこう言った。


「どうして、私がこんな車に乗ってるか知りたくない?」


「・・・」


それより、この女、いくつなんだろう?

怪訝な顔を隠そうとしない香奈と私。


無言で居ると、

「じゃあ、この子がなんであんな車に乗れてるか知りたくない?」


右側の男を引き合いに出され、私は声を出さないわけにはいかなくなった。


「なんで?」




・・・・

「副業をしてるから。簡単だから教えてあげる!」


そこから、某有名なネットワークビジネスの説明が始まる。

しかし、無知だった香奈と私は、それが有名だとも知らなくて、

残念なことに、すっかり、その気になってしまった。



しかも。


右側の男には付き合って欲しいと言われ続けている。


曖昧にしてきていたが、そこで一気に妄想してしまった私。


右側の男のオープンカーの助手席には高級ブランドのドレスに身を包んだ私。


男とお金をその瞬間に手に入れたかのような、魔法のような妄想だった。



心に何か異変があったみたいに、

トシくんと本当に別れて以来、


恋をするのは、好きだということなのだとは、すっかり忘れてしまっていた。

トシくんとは別れた形の上でのお別れだったから、

なんとなく、失恋したというモードにはなりきれず、

”やけになる”ということもなかった。



淡々と毎日が過ぎる。


淡々と初体験も済ませて、


淡々とした日々を送っていると、


悪友の香奈から

「この間の飲み会でいい男に会ったの~。また会いたいから一緒に飲み会して!」

との連絡。

「いいよ。」

と軽く返事をしていたら、

その週の土曜日には飲み会がセッティングされていた。


居酒屋に入ると待っていたのは2人のまあまあな男性2人。

2人共1つ年上だった。


香奈に目をやると、テーブルの下で左を指す。

左側の男が香奈のお気に入りか・・ふーん。


右側の男はやたらと私を褒めた。


その日は早々に引き上げることにしたが、右側の男が

「明日の夜、ドライブして!お願い!!」と言うので、

それも軽くOKした。


自暴自棄だったわけでもないが、

とにかく、一人にならないで居られるなら何でも良かったのだ。



翌日の夜、迎えに来たのはアメリカのスポーツカーのしかもオープンカー。


赤い革張りがカッコ良かった。


まんまと車に釣られた。


なるほど。

だから、こいつは









どうしてもドライブ!と言ったわけだ。

運命だと思っていた人とのお別れを経て、

我を失い、恋を忘れた。


友人の紹介で知り合った人と

新しい恋をするが、それは運命の人ではなくて、

記憶から消したいような男だった。


こんな風に生きていてはいけない。


新しい土地で1人で生きることにした私。


新しい仕事。

新しい恋人。


私はそれまでの私を変えようと努力する。


いつでも私を守るように近くに居たのは中学生の頃から見知った友人達。

過剰なくらい過保護な両親。

そんな環境に、甘えに甘えて、傲慢になり、我儘を貫き、

大好きな人との別れの時すら素直になれなかった私。



愛される女になりたい。



それが、何よりの望みになった頃のこと。



朝から階段に座ったままの私。


夕方になってもトシくんは通らなかった。


そして


夜になる。




新幹線の最終から逆算して、私がそこを離れる時間が近づいた。


会えないかもしれないとは思いもせずに来てしまった東京。


これまで東京からの新幹線に私が乗った時にはホームにトシくんが居た。


ギリギリまで手を離せず、私の顔は涙でくちゃくちゃだったっけ。


今はホームにトシくんが居ないのに、私の顔はくちゃくちゃだ。



会えないなんて思いもしなかった。



携帯があれば、会えただろう。

せめて、新しいアパートに電話があれば会えたかもしれない。

この間まで私が電話する時は寮の呼び出しだった。

トシくんが引っ越してからは

トシくんが思い出したように公衆電話からかけてくるだけだったのだ。


「たまに電話してもいい?」


そうは言ったものの、もう電話をかけることも出来ない。



そう、本当に終わったのだ


と思った時、


出会った瞬間から今までの思い出が

頭の中を走馬灯のように駆け巡り、

涙がとめどなく流れた。

拭うスピードには追いつかない。


新幹線の中で一人号泣する若い女性を

周りのサラリーマン達はどう思ってみていたのだろう。




トシくんに、この日の事を話したのは私が結婚する3か月前。

その時、トシくんは握った私の手をぎゅっとして、抱き寄せた。



東京に向かう新幹線の中。


トシくんに会ったら、何て言おうか・


私を見たら、驚くかな?

きっと、会えば昨日のことは無かった事に出来る。


そう思いながら、私は新宿で中央線に乗り換えた。

トシくんが住んでいるところの最寄駅。

この駅には今までに何度も行っている。



でも、そこからが大問題だった。



私は今、トシくんが住んでいるアパートには、

そこにトシくんがまだ住んでいない頃に一度しか行ったことがないあせる。


トシくんがそこに引っ越したのはつい最近のこと。

しかも、その時は駅から向かったのではないから、方角すらわからなかった。


前に住んでいた寮までなら行けた。だけど、そこに行くには駅が違う。

一旦、電車に乗って違う駅まで行く?


でも、絶対にトシくんが居ないとわかっている寮に向かう気にはなれない。

運良く誰かが居たとして、トシくんの居所を知っているとは限らない。



午前中に大学に行っているわけがない。

きっと昼前に大学に向かうだろう。


その時はこの駅を必ず使う。


私は駅前の階段に腰掛けた。

一度だけ行ったトシくんが今住んでいる筈のアパート(その頃はトシくんの友人が住んでいた)からの帰りにこの駅に来た時に通った階段。


その時もこの場所に2人で座って話し込んだ。


だから、この階段に居ればトシくんに会えるに違いない!


きっとお昼前くらいだろう・・でも、少しも離れるわけにはいかない。

飲み物も食べ物も買いに行けず、そのままずっと座っていた。



お昼を過ぎて、急に不安になる。


今日は朝から大学に行ったのかなぁ・・帰りには会えるかな。

「それって、私のことをもう好きじゃないってこと?」


震える私の声に対して、

無機質な感情の無い声が返って来た。


「まあ、そういうことかな」


目の前が真っ暗になるとは、こういう時のことだ。


「・・・」


声が出ない。


沈黙を破るように、トシくんが言う。

そのままの感情の無い声で。


「どうせ別れてるんだし、別に良くね?おまえも楽しそうだし。」


泣きつくことが出来なかった。

今まで培ってしまったプライドのせい。


「いやだ。そんなこと言わないで。私はまだトシくんが好き。」

「私の我儘でトシくんを傷つけた。ごめんなさい。」


その時、そう言えたら、何か変わっていただろうか?


それから17年近く、私はずっとその?を抱えたまま生きることになる。




「でも、これからもたまに電話していい?」


「ああ、それはいいけど。」


よりによって、どうしてそんなことを言ったのか。


とにかく、普通に会話しているように見られたかったし、

悲しんでいる素振りを見せるのが嫌だった。


それに、心のどこかで、

(うそでしょ・・また戻れるよね)

と思っている私も居た。


その夜は当然、一睡も出来なかった。

終わったのだという実感が持てず、その時点ではまだ泣くこともなかった。



翌朝、私はトシくんに会う為に東京に向かう。


始発に飛び乗り、途中で会社に欠勤の連絡を入れた。


携帯電話を持っていなかったから、公衆電話からだとわかりきっていたし、

欠勤の為のウソも思い付かなかった。

「すみません。急に東京に行くことになりました。今日中には帰るので、明日は大丈夫です。」


電話をしている時には、

本当に明日は、大丈夫な一昨日までの私になっていると思い込んでいた。

トシくんに会いさえすれば、大丈夫。

クリスマス、トシくんと2人でケーキを囲む。


こんな日を私と過ごすのだから、やっぱり私のことは好きなのかな?


いや、それは違うだろう。


でも、他に過ごす女性が居ないのだろうということが私を安堵させた。



いつのまにか、私の言う通りにしてくれるトシくんは居なくなって、

トシくんの顔色を伺う私が居た。

けれど、そんな不安の色を出す為には、

それまで培ってしまった

傲慢で我儘な私のプライドが邪魔をしていた。


この時、ほんの少し素直になるだけで、この後のことは全てが違ったのかもしれない。





別れた形にしようと言い出しておいて、

自分たちのあやふやな状態が苦しくなってしまった私は

とうとう、白黒はっきりつける

という手段に出る。



電話で話していた時に、ふと、そう思う会話があった。



(それって、私のことをもう好きじゃないってこと?)



声に出してみる。



自分でも驚くほど声が震えた。


「それって、私のことをもう好きじゃないってこと?」


告白するより勇気が要った。


日曜日の夜だった。

私はパジャマのズボンに右手を突っ込んで、

冷たくなったお尻に掌をあてていて、

左手は受話器を握りしめていて。

階段の脇のクロスが2cmくらい捲れているのをみつめていて。


トシくんのこの時の言葉は

今も鮮明に、声までも覚えている。

ついこの間まで、それを思い出すだけで呼吸が苦しくなる記憶。