「今夜は泊まれるの?」
小料理屋を出て、しばらく手を繋いで歩いた。
横断歩道の赤信号で止まり、
おもむろにトシくんが口にした。
「今夜は泊まれるの?」
正直、考えていないわけでもなかったが、
そんなことを前以て確認するのは
格好悪くて出来なかったし、
どっちでもいいと思っていた。
「泊まれるよ」
「じゃあ、このままホテル帰るか」
「そうだね」
「あ、コンビニ寄ってく?」
「うん」
深夜の駅のエスカレーターには誰も居なくて、
私が上の段に立つとトシくんの肩にちょうど顎を乗せられる。
そのままふざけて顎を乗せていたら、
トシくんは振り向き、私にキスをした。
お互いに何も言わず、
エスカレーターをおりて、駅の構内を歩く。
当然のようにホテルの部屋までそのまま歩いた。
部屋に入ってすぐに自分で服を脱いだ。
トシくんは何も言わずに見ている。
「おばちゃんになったでしょ?」
「瑠美の裸を見るのは何年ぶりだろう・・おいで」
私達は裸で抱き合った。
涙が溢れた。
これは今だけなのだ。
今だけ、あの頃に戻ろう。
「泣くな。今は悲しくないだろう?」
「そうだね」
どうしてだろう・・
私達は裸で抱き合ってキスをするだけで、
セックスすることはなかった。
その時ですら、どうしてしないんだろう?とは思わなかった。
ただ、しなくて良かったと思う。
あの時、もしも繋がってしまったら、
私はトシくんから離れることが出来なくなったんじゃないだろうか・・
私がそうなるとわかっていたから、トシくんはしなかったのか?
それとも、トシくん自身が私と離れられなくなると思ったのだろうか?
そのままトシくんは眠った。
眠るトシくんを私は一晩中見ていた。
昔、私のものだったトシくんを思い出して、
目の前のトシくんは自分のものではないと自分に言い聞かせた。