永遠に 手をつないで -2ページ目

永遠に 手をつないで

私には20年以上も忘れられない人が居ました。
全ての出会いと再会といきさつと・・・
過去の記憶を綴ります

ある時、トシくんとテレビ電話をしてみた日。


画面にうつる私は太って醜くなっているのに、


「綺麗になったな」


トシくんはそう言った。


その日の私は、だぼっとしたサマーニットを着て、

いかにも”おばさん”だったのに。


トシくんの言う綺麗はきっと、


しっかり生きてるね


という意味だったのだと今考えれば簡単にわかる。


しっかり生きて欲しいと思ってくれていたのに、

私はダメだった。




トシくんはいつでも私の味方。


だんだんと当たり前になって、

だんだんと依存していく・・


それでもトシくんは受け止めてくれると

本気で信じていた。


寝ても覚めても恋しいとか、

トシくんのことばかり考えるとか、

そういう恋愛みたいなのではなくて、


私に辛いことがあった時や

寂しい時、苦しい時はいつでも

トシくんが相手をしてくれるはず。


「瑠美、大丈夫だよ。俺が居るから。」

そう言ってくれるだけで良かったんだけどな・・


香奈にもいつも自慢してた。

「私にはトシくんが居るから、何があっても一生大丈夫なんだ~」

「トシくんは私の事をものすごくよくわかってるから、

欲しい時に欲しい言葉がちゃんと出てくる口を持ってるの」


なのに、


私が依存するにつれ、トシくんの口はなかなか開かなくなっていく。


前はこんな風に言ってくれたじゃない?

前はこんな時に電話してくれたじゃない?


心の中でトシくんを責める自分との闘いが始まった。

彼氏でもないのに、責めるのはおかしいのだということだけは

自分でもわかっていたから、必死にこらえた。


必死にこらえるから、心に無理が生じる。


ネガティブに染まった心は

ネガティブにしか感じることが出来なくなる。

ある時、香奈が発した一言から

私は自分との闘いに敗れた。

悪夢のような日々が始まったのは

去年の春のこと。

かっちゃんとの再会を果たしてから、

何か月もしない間に、また帰国することになった。


かっちゃんに会いたい。

誘ったら、どう思うかな?

変な勘繰りはしないだろう。

私はいつでも帰ったら男友達の飲んだりしている。

元彼だけど、大昔。子供の頃のことだ・・

男友達のつもりでメールしてみた。


〔帰国するんだけど、会える?〕


〔もちろん。瑠美ちゃんが食べたいもの食べに行こう!〕


嬉しい!!


純粋に嬉しくて、久しぶりにワンピースを新調した。

妙な下心なんて本当になかったし、

他人に隠すような会食でもないと思っていたけど、

ふと、思い出したのはトシくんの言葉。


「俺、あいつだけは嫉妬する」


かっちゃんと私が2人で会うのを知ったら、

とても嫌な気持ちになるんだろうな。


だけど、私はかっちゃんに会いたかった。


かっちゃんには理由を話さず、

「信明にも誰にも絶対に私に会うとは言わないで!」

とお願いして、会うことにした・・


当日、タクシーで迎えに来てくれたかっちゃん。

2人で向かい合って食事をするのは、とても照れた。


かっちゃんはすごくカッコよくて、

私はその場だけ、心の中で恋をして楽しんだ。



なんとなく、ズルい女の気分。

既婚なのだから、そこは元々悪いことなのだろうが

トシくんに隠れて他の男に会っているということに

罪悪感を覚えながらも、

トシくんとは付き合ってるわけでもないのだから

悪いことはしていないと思う・・

なんとなく、ズルい女の気分。



帰りのタクシーの中。

ほろ酔いの私はどうしてもかっちゃんに触りたくなって、

ハーフパンツから見えているかっちゃんの膝小僧に手を

乗せてみた。


誘ったわけではない。

触りたかっただけだ。


そして、かっちゃんは・・・

その手を気にも留めず、運転手さんと話していた。

後でわかったことだけど、この頃のかっちゃんには

ラブラブな彼女が居たのだ叫び


なるほど、私の手に気付かない筈だ。

だけど、そんなラブラブな彼女が居ながらも

私と二人で食事をするかっちゃん。


今も私の見えないところで、他の女性と二人で食事していたら嫌だな。

それが、この頃の私とかっちゃんのように、何もない関係の人とでも嫌だ。

かっちゃんからのメールはとてもシンプルなものだった。


〔久しぶりに瑠美ちゃんに会えて嬉しかったです。日本を楽しんで帰ってね。〕


私もこれに返信をした。

だけど、何て書いたのかは覚えていない。

ただ、この時の気持ちは覚えている。

(せっかく会えたのに、日本に居るうちにもう一度会いたかったなぁ・・つまらん)


だけど、おばさんは期待していけないのだ!


やっぱり一度好きになった人にはキュンとする。

それが例えシンプルなメールでも、

一文字一文字を大事に読む。

そんな自分の行為を久しぶりに見れただけでもいい。

それだけでいいじゃないか・・・


私にはトシくんみたいに必要な時に必要な言葉をくれる人も居るんだし。

ヒデの写真入りメールは気に入らなかったのか返信ないけど・・・・・





その夜、ほろ酔い気分で床に就いた私は、

かっちゃんとの再会シーンを何度も何度も思い出して、

脳みそのアルバムに貼り付けた。

とても明るく気持ち良いページになった。

私は今も、そのページが大好きだ。






数日の滞在を経て、何事も無かったように元の生活に戻った。

刺激は無いけど平穏な生活。


旦那さんとの間にある確執とその原因の大きな悩みだけが

時々、形となって私を包み込む辛い日もあるが

それを唯一知っているトシくんの存在だけが救いだったし、

それ以外は平穏な生活が続く。



私の視線を一身に浴びたそのドアがついに開いた。

「おつかれ~」

にこやかな優しい笑顔で入って来た信明。


私は信明に精一杯の笑顔を向けて何か言葉をかけながら、

後ろに続く影を探したが・・何も無かったダウン。

信明は一人でやって来たのだ。


「かっちゃんは?」ときくのもいやらしいガーン。


帰ったんだろうか・・それとも他の連中と2次会に流れたのかもしれない。

2次会はどんなところに行くのだろう・・

女の子の居るクラブとかに行くのかなぁ・・まさかキャバクラとか叫び?

いろんな考えが酔った私の頭を巡る。


が、私が今考えるようなことではない。

15年も会うことが無かったのだ。私とは違う世界で暮らしている人。


私は、この時より数年前にネットで検索してかっちゃんが今はどんな仕事をしているのか知っていた。

小さいけどちゃんとした会社の社長さん。

私のイメージにぴったりだったから、(ほら、やっぱりね)と思ったもの。

画面に表れたホームページの連絡先に連絡をしてみようかと思ったこともある。

それは、ただの好奇心で下心などでは決して無かったし、

そんなことをして波風立てることになっては困るとその時は思いとどまった。


だけど、今夜中にどうしても信明に確認しておかなければならない。


意を決して一言。

「かっちゃんにメアド教えておいてくれた~?」

「あー忘れた。俺、目悪いから夜は面倒くさい・・」


(えー!!!!何それ。明日になったらお前はどうせ忘れるんだろ?ショック!)


「わかった。じゃ、宛先をかっちゃんにして私に携帯貸して!」

私は信明の携帯から自分のメアドを送信した。

よし、これでかっちゃんから連絡が無ければ・・まあ、それきりかな・・

でも私は連絡が来ると何故か確信していた。


それから、カラオケで熱唱するヒデの写真を撮って、

トシくんにメール。


〔あんまり久しぶりじゃないけど、こうして地元で呑んでると楽しい。

ヒデは相変わらず。今日は信明も合流したよ!トシくん、羨ましい?〕


その日、深夜になって受信したメールは1通だけだった。

焼き鳥屋で・・

あまり他人と交流をしたがらない(面倒くさいから)ヒデが、

「そろそろ、次行こうか・・」と言い出した。


信明もかっちゃんもとっくに自分達のグループのところに戻っていた。

その中には知らない人も居て、仕事関連の仲間で呑んでるのかなぁ・・と

漠然と思ったまま、ヒデとの会話もつまらなくなって来た頃。


「うん、じゃぁ、信明も後でおいでよ~」


と何気なく発した言葉の裏には

この時、本当に何の意味も無かった。


「じゃあ、後で行くからどこに行ってるか連絡して!」

信明の声を聞きながら、ヒデと店を出る。



行先はわかっていた。いつものスナック。

ヒデお気に入りのこの店は綺麗なママさんが女の子数人を遣ってやっている。

私は帰省する度にここにヒデに連れて行かれ、ママさんとも仲良かった。

タクシーに乗り込み、ヒデが店の名前を告げる。


こういう時間、今夜がまだ終わらないことが嬉しい。


スナックに入って、久しぶりの挨拶をして・・

再び呑み出す私達。

ヒデは自分のペース。私も自分のペース。

「あ、信明にここに居るってメールしとくね~」

「おお、他の奴ら連れて来ないように言って。」


(え?余計な他の奴らって、それってかっちゃんも含まれてるよね・・)


「わざわざ、そんなことメールに書くのカッコ悪いからヤダよ」



それから、私は待っていた。。

信明ではなく、信明に着いて来ちゃうかっちゃんを。

私の意識は店のドアに集中していた。





ショックだった汗汗汗。

けど、事実だから取り繕っても仕方ない。

確かに私は、外に出るとタバコを吸って生ビールを呑む女だ。

何も気にしてない風にただ笑った。


わざと下品に笑ったと思う。

それだけ、若かった頃のことはすっかり忘れて、

何も気にならないおばちゃんになったと思われたかったのだ。


それでも、やっぱり、どうしても連絡先を知りたいと思った。



かっちゃんとの関係・・アクションは必ず私から。



「信明~、かっちゃんに私のメアド教えておいてよ~ニコニコ」


そう、なんでもない風でないといけないのだ。

「メアド交換しようよ~」なんて言っては、いやらしすぎるあせる。

おばちゃんがメールのやり取りを期待していると思われるのは心外だダウン。


実際、何かを期待していたのではないはずだった。

が、この数時間後には私は自分が何かを期待していることを知る。。





海外に引っ越して数ヶ月した春。

保険やらビザやら、何やら、ややこしい手続きで帰国した私。

数日の実家滞在の夜は、子供を両親に預けて友達と呑みに行く。

今、周りの日本人奥さんで、実家に帰る度に夜は友達と呑みに行くなんて人は誰も居ない。

帰国した時は孫の顔を見せて、家族揃って食事をして一家団欒を楽しむのだと言う。

私は自分の家族が嫌いでもなんでもない。仲は良い方だと思う。

ただ、夫との暮らしの中で、私が母でも妻でもなく外に出られる時などはこんな機会しかない。

子連れでママ達と居酒屋に行く飲み会とは全く全然違うのだ。

私は母である前に、妻である前に・・女である前に、一人の人間なのだ。

私が外の世界で、家族とは違う関わりを持つ事を夫はあまりよく思っていないようだが、

私はこの願望がとても強い。

だから、この時はここぞとばかりに外に出る。



その日、ヒデといつもの焼き鳥屋。

入口近くのカウンターで、何を話すわけでもなく、ウダウダしながら呑んでたら、

奥から信明が顔を出した。


「なんだ、来てたの~?」


信明はトシくんとヒデの大の仲良し。

私が海外に引っ越すことを決めた直後に帰省した時にも皆でここで呑んだっけ・・ビール

(それは遠方に住むトシくんが帰省したから皆が集まっただけだったが)


信明の後ろからよく知ってる顔が現れた

かっちゃんだ!!


「え?どうしたの?信明と呑む仲なのー?」


「信明さんとはよく一緒に仕事してて・・」


「えー久しぶりだね!!」


この後、かっちゃんが発した言葉を私は一生忘れないだろう・・


「ああああああああんなに可愛かった瑠美ちゃんが、生ビール片手に鼻から煙出してる~叫び叫び叫び」






















付き合っていない2人には別れは来ない。


そう思うとトシくんとの関係は永遠のように思えた。

たった1年前まではそう信じていたのだ。



海外に引っ越してからも、

事ある毎にトシくんとは会話をした。


メールだったり電話だったり。


「俺は瑠美のことをよくわかってるから理解出来る」


ただ、トシくんの方からメールが送られて来ることもなかったし、

電話がかかって来ることもなかった。


トシくんが自分の話をすることもない。

彼女とどうしてるのかを話すこともなかったし、

奥様とどんな関係なのかも知らないままだった。


私はトシくんの現状をそんなに知りたいとは思わなかったけど、

それも私のトシくんに対する圧倒的な思いやりの無さに繋がったのだと

今は思う。





トシくんの存在があり、

心も落ち着き、

なんとか海外でも暮らしていけそうになり、

明るい未来を夢見ることが一切なくなっていたのに変わりはないが、

今にも消えてしまいたいと思うようなこともなく、

この先は平穏で、その場その場が楽しければ生きていけそうな

そんな数ヶ月が経って、一時帰国することになった。

海外への引っ越しは思った以上に大変で、

準備に忙しい毎日となったおかげで、

余計な事を考える時間が少なくなった。


引っ越し荷物を出してしまった夜、

一組だけ残した布団で子供と横になり、

携帯からトシくんにメールを書いた。


内容は大したことないメールだったと思う。

トシくんからはすぐに返事が来た。


「色々大変だろうけど、瑠美ならきっと大丈夫だよ。

俺も出来るだけ力になるからさ。とにかくちゃんと寝ること!」


そんな感じのシンプルなメールだったけど、

今夜も私が眠れないことをわかってるんだなぁと嬉しく思った。



だんだん、私の心は落ち着きを取り戻していて、

新しいところで、また新しく生き直すことに

大きな不安と期待を持って飛行機に乗り込んだ。

翌朝、ホテルの部屋を出る時に私達は最後のキスをした。


駅まで手を繋いで歩き、改札のところで別れる。


「じゃあ・・」


と言ってその手が離れるまでがスローモーションのようだった。


最後の中指の先が離れる瞬間まで、名残惜しさが滲む笑顔。


「会えて良かった」




別れて別の電車に乗った私は、

昨日、トシくんが言ってくれた言葉たちを心の中で何度も唱えた。


「泣くな。悲しくないだろう?」

「俺は一生、何があっても絶対に瑠美の味方だから。」

「どんな愚痴でも俺がいつでも聞くから。」

「俺は瑠美の事をよく知ってるから。」

「諦めないで頑張って生きて欲しい。」


寂しいけど、この間までの絶望感は無かった。


こんな形だけど、

遠く離れるけど、

付き合ってるわけじゃないけど、

それでも、トシくんは私の傍に居るのだと思えた。


今でも好きだと愛を伝え合ったわけでもなく、

お互いの配偶者と別れて一緒になりたいと言ったわけでもなく、

不倫になるけど付き合いたいと言ったわけでもない。


だから、私の中でのトシくんの肩書きは


”元彼で今は友達”


それに変わりは無いけど、

私を想ってくれる絶対的な安心感があった。

その安心は慢心へと変わり、

いつしか、依存へと変わってしまうのだが、

この時の安心が無ければ、

私は今、ここに居なかったかもしれない。


やっぱり、トシくんには感謝している。