目の前に立ちはだかるのは氷上の極塔。
ここにオルガはいる。
師匠も、恐らくここに…。
そのことを考えると、胸が急に締め付けられたように痛む。
「どうか、無事で。」
実戦経験。
そんなものはない。
相手はいつも師匠だった。
だがボクは緊張も心配もしていない。
ただ、
オルガを倒すだけ。
ボクは、塔の門まで真っ直ぐに歩く。
塔に近づくにつれて、胸が苦しくなる。
その空気に耐えきれなくなり、その場に膝をついた。
こんな力でボクはオルガを倒せるのか。
師匠でも恐れていた相手だ。
そんな相手にボクは勝てるのか。
何かがボクの手を震わす。
誰だ。
誰がボクの手を震わせているのだ。
だが、どれだけ周りを見回しても、大きく聳え立つ塔と、ボクの手だけだ。
ボクは
怖いのか。
そう思った瞬間、背中越しに声が聞こえ聞こえた。
「お前ならできる。」
その声。
その声が聞こえた時、ボクの胸は熱くなった。
締め付けられたように苦しかった胸は、翼を生やしたように
師匠だ。
生きていたのだ。
期待と歓喜。
ボクは振り返る。
その2つはボクを裏切り、振り返った先には黒く染まった木々が泣いているだけだ。
ダメだ。
強くならなくては。
師匠のために。
民たちのために。
そして
ボクの影は塔の中へ消えた。
中は氷でできた螺旋階段しかなかった。
虹色に輝く氷の柱が輝くと、氷でできた螺旋階段は増して輝く。
ボクは一歩一歩、歩み始める。
空気が急に淀んだ。
最上階。
目の前に立ちはだかるは、氷帝の女王。
そいつは不意に喋り出した
「遅かったな。」
氷帝の女王はそう言って後ろに佇む氷の結晶を見た。
だが、その結晶の中には
「師…匠……?」
ありえない。
師匠だ。
あの師匠が、
なぜこのような姿に
「お前が恐怖に慄いているときに、お前の師匠は死んだ。」
急に女王が口を動かすだけになる。
声が聞こえない。
いや、
聞ける耳なんかない。
ボクは剣を抜いた。
殺す。
そう思った時にはもう足は進んでいた。
その剣は女王の腹へ刺さる。
直前に、女王は氷になり、砕け散る。
そして、声が響く。
「そのような思想では、オルガには勝てん。」
長老の声がきこえ、初めてボクは冷静になった。
「お前は、我が希望。いや、我らの希望なのだ。」
やる。
「師匠が死んだなどと悔やんでも、師匠はもう戻ってなど来ん。」
みんなのために。
「いいか、その剣は何のためにある。」
ボクが制裁をくわえる。
「オルガを倒すためではない。」
ボクが森を救う。
「主の師匠の仇を取るでもない。」
ボクが森の秩序を守る。
「主が、自らの恐怖を断ち切るものだ!」
瞬間、虹色の数珠が光りだし、ボクを包む。
「な、なぜだ、なぜあの"獣神玉"がここに!!?」
ボクが守る。
この平和を。
聖の光で輝いた力で、塔は黄金に染まる。
ボクは剣をオルガに振り払い。
その剣がオルガの首を跳ねた。
塔はみるみるうちに崩れ、ボクは塔の最上階から身を投げた。
黒く染まった木々は元の美しさを取り戻し、
冷たい川はいつもの清らかな流れを取り戻す
ボクの体はすっかり動かなくなった。
「みごとであった。バハムート。」
森は守られる。
永遠に。
森の民の力によって。
突然。ボクの胸が痛み出す。
まだ恐れている。
まだ恐怖に負けている。
強くならなければ。
「バハムート、後ろだ!!!!!」
痛み。
目の前に広がる赤い液体
ボクの血だ
胸を見ると、剣先が見えた。
虹色に輝く剣先は、ボクに黒い輝きを見せる。
「ソノ剣、返シテモラウ。」
この剣は。
師匠…の
形……見………………
「不意打ちなど、卑怯な!」
幻獣はその姿を現わす
バハムートの体は黒く染まっていく。
「お前にも、もう用はない。」
森の影から出た赤い髪の女はそう呟く。
紅の女が放った炎に黒い少年と幻獣は包まれ、消えていく。
翠玉が輝いたような髪の男と、
紅に燃える女は
静かに
森の中へ消えていった。