戦略思考を鍛える:神戸製鋼 | コンサルサルのぶろぐ-思考、読書、雑感などを語る

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今月は神戸製鋼をケースに、神戸製鋼が向かうべき今後の方向性について考えていきたいと思います。

神戸製鋼が所属する業界は鉄鋼業界です。
まず鉄鋼業界の概要と近年の動向から見ていきたいと思います。

1. 鉄鋼業界の概要と現状
鉄鋼は「産業のコメ」と呼ばれ、土木・建築・自動車などに欠かせない鋼材をつくる産業です。
よって景気動向にものすごく影響されやすい業界であり、外部環境を注視していく必要があります。

国別の粗鋼生産量は1位が中国の約7億トン、次いで日本の約1億トン、アメリカの0.9億トンとなっています。
一方で世界の市場における企業別にみると、1位アルセロールミタル(ルクセンブルク)8,800万トン、2位河北鋼鉄集団(中国)6,900万トン、3位新日鐵住金(日本)4,600万トンという順番です。

日本における業界規模は約16兆円。労働者数は約7万人となっています。

最近の動向としては、規模の経済が働く業界のために、M&Aなどの業界再編が進んでいます。
現在世界マーケットのリーダーであるアルセロールミタル(は、2006年に当時鉄鋼世界首位のミタル・スチールがアルセロールを買収し世界最大の鉄鋼メーカーとなりました。日本においても、2012年、当時国内鉄鋼首位の新日本製鐵が3位の住友金属工業を吸収合併し、新日鐵住金が発足しました。
リーマンショックで大きなダメージを受けた鉄鋼業界ですが、その後の景気の持ち直しにおり、復調の兆しが見られています。

今後の成長がストップするリスクとして考えられるのは、欧米経済の低迷や中国経済の鈍化です。
一方でASEAN経済や米国経済は成長軌道にあり、日本企業の多くはアジア重視の戦略を取っています。

2. 神戸製鋼の基礎情報
神戸製鋼の基礎情報は下記の通りです。
ここではホールディングの情報も含めて書いていきます。

◆ 経営理念とビジョン
経営理念:
信頼される技術、製品、サービスを提供します。
社員一人ひとりを活かし、グループの和を尊びます。
たゆまぬ変革により、新たな価値を創造します。

◆ 事業内容
神戸製鋼グループの配下の事業は下記の通り。
- 鉄鋼事業
溶接事業
アルミ・銅
機械事業 など関連会社が多いのが特徴です。

◆創立
1905年9月1日

◆代表者
川崎 博也

◆ 本社所在地
東京都港区東新橋1丁目5番2号 汐留シティセンター

◆ 従業員数
連結 36,019人(2014年3月31日現在)
単体 10,586人(2014年3月31日現在、出向者を除く)

3.  神戸製鋼の企業分析
神戸製鋼の企業分析について説明していきたいと思います。
神戸製鋼の売り上げは2014年3月期時点で1兆8000億円。業界第3位の位置にいますが、日本業界1位の新日鉄住金の5兆5000億円および業界2位のJFEホールディングスとは大きく水をあけられています。

一方でROAは5.0%(新日鉄:4.2%, JFE:3.8%)、ROIは3.7%(同2.2%, 4.3%)と高水準にあり、営業利益率も上位2社と比べても遜色ない数字となっています。
収益性は非常に良いのですが、企業の安全性は長らく健全ではない状態にありました。特に有利子負債の額の大きさが問題視されています。

参考:
JFEと神戸製鋼の財務内容を分析する
世界は鉄余り、鉄鋼業は再び「冬の時代」が到来か?
http://toyokeizai.net/articles/-/14551

この状態を受けて、神戸製鋼の現在の打ち手は下記の通りとなっています。

◆ 独自の複合経営
経営基盤の再構築
・鉄鋼事業の収益力強化
・成長分野・地域での販売量の確保
・体質強化活動
・財務体質の改善

◆ 収益力の『安定』と事業の『成長』に向けた布石
・鋼材事業の構造改革
・機械系事業の戦略的な拡大
・電力供給事業の拡大

4. 神戸製鋼の戦略の打ち手
今回神戸製鋼の戦略の打ち手は非常に難しいものがありました。
独自の複合経営を目指す神戸製鋼としては、業界内で成長をするというのは難しく、
むしろ「いかに生き残っていくのか」を模索することを考えていくべきなのかもしれません。

新日鉄およびJFEに関しては主に下記のような戦略を取っています。
① グローバル対応力の強化
   - 新日鉄は自動車用鋼板へのフォーカス、JFEはアジア拡大を目指しています。

② 技術開発
 - 両者ともに高級鋼へシフト。特に自動車用鋼板の開発に注力しています。

③ コスト力強化
  - 購買コストの削減や本社部門のスリム化 など

理論ベースで行くと、ここ10年近くの業界再編は、
A. コストリーダーシップ戦略と集中戦略を組み合わせた戦略
B. 業界再編を進める事で事業の無駄を省き、規模を拡大する戦略

の2つを重視しています。これはグローバル市場における避けられない流れです。
では神戸製鋼は業界3位としてどうすべきか。個人的にはグローバル市場と真っ向勝負をしないことがよいのだと思いました。
つまりフォロワーではなく、ニッチなポジショニングを確立することです。

「日本市場サバイバル戦略」を取り、

① 財務体質の強化
② パーシャルアライアンスの維持(すでに新日鉄と提携済み)
③ 独立独歩経営(ニッチ戦略)

をすることが大きな方針となるでしょう。
独立独歩経営としては、すでに発電事業を始めることが決定されており、「高炉1基を平成29年秋に休止し、跡地に最新鋭の石炭火力発電所2基(出力計約122万キロワット)を新設。平成34年度までに関電への売電を始める」と報道されています。

参考:関電の火力、神戸製鋼が落札…苦しい台所、ベース電源も他社頼み
http://www.sankei.com/west/news/150216/wst1502160067-n1.html

私個人の意見としては、現在の関連事業の整理と共に、より「選択と集中」をし、生き残れる事業のみを運営するスタイルが一つ。
また机上の空論となるかもしれませんが、新日鉄との合併というのも一つの選択肢となるのかもしれません。

一方で新規事業としては発電事業だけではなく、今後のIoT(Internet of Things)の時代を見据えた鉄鋼×ITの事業創造を模索していくのも一手かなと感じました。もう少し技術的なことを勉強しなければならないのですが、軽量の鉄鋼にセンサーを生みこみ、常にインターネットとつながるような鋼材を作成する。それをIP(特許)として大手に売り、利益を得ていくといったことも一つの生き残り策になるのではないかと思います。


【参考情報】
JFEと神戸製鋼の財務内容を分析する
世界は鉄余り、鉄鋼業は再び「冬の時代」が到来か?
http://toyokeizai.net/articles/-/14551

株主に届かなかった神戸製鋼経営陣の危機感
関心があるのは増資よりも復配?
http://toyokeizai.net/articles/-/41123

1000億円増資で神戸製鋼は勝ち残れるか
財務体質改善と成長分野への投資という二兎を追う
http://toyokeizai.net/articles/-/30032

神戸製鋼所、独立独歩の生き残り策
神戸製鉄所の高炉休止で視界開けるか
http://shikiho.jp/tk/news/articles/0/37844

大企業再編の呼び水となるか
新日鐵住金という遠大な実験
http://diamond.jp/articles/-/27107

神戸製鋼:再考迫られる車向け米アルミ戦略-競合企業が調達先を買収
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NKEVMT6TTDSA01.html

関電の火力、神戸製鋼が落札…苦しい台所、ベース電源も他社頼み
http://www.sankei.com/west/news/150216/wst1502160067-n1.html

【東京市場の注目銘柄】(26日)神戸製鋼所 3.1%高
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/150227/eca1502270500002-n1.htm