今月は分析力について、定期的にコラムを書いているが、「分析」という言葉・アクティビティも一般化されてきている。現場でも多量なデータや事象(=事実)から、Finding(=自分の意見)をして次の意思決定をする場面が多く求められているからだろう。
先週私が母校で分析力のレクチャーをしたこともあり、本日のIT Proのメルマガで下記の記事が印象に残ったので、掲載をさせて頂きたい。日経ストラテジーの記者の方が書かれたものである。
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□◆正しい手順を覚え、論理的な「なぜなぜ分析」スキルを身につけよう
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「なぜなぜ5回」という手法をご存じだろうか。問題が起こったときに、その原
因「なぜ」を書き出していって、本質的な原因を探り当てようという手法である。
トヨタの生産現場で生まれた手法とされ、トヨタ以外の生産現場でも小集団活動な
どに取り上げている事例は少なくないようだ。
記者はとある取材先で、「なぜトヨタ流ではなぜを5回掘り下げるのか?」と質
問したことがある。その時は「なぜを3回出すのは、比較的簡単にできる。5回出そ
うとすると、しんどい。かなり考えないとひねり出すことができない。だから、本
質的な掘り下げをする目安として5回という回数が奨励されるようになったのだろ
う」とのお話を伺い、なるほどと思ったものだった。実際に生産現場でなぜなぜ5
回のシートを活用なさっている方が多いのは、5回という回数にはそうした意味が
あるとお考えだからなのだろう。
しかし、このように目安の回数を掲げることに疑問を抱く識者もいる。コンサル
タントの小倉仁志氏は「『思いつくままに理由を並べただけで論理的に原因を追究
していない分析シート』『再発防止策が導けないまま、なぜの繰り返しを5回でや
めてしまった分析シート』を指導先の工場でたくさん見てきた」と話す。
同氏は製造現場や営業部門、お客様相談室などでの改善・改革活動の指導の傍
ら、およそ15年間にわたって正しい分析の在り方を研究してきた。回数の目安を設
定することを嫌い、同氏は自身の指導内容を「なぜなぜ分析」と呼ぶ。その研究成
果は『なぜなぜ分析10則 真の論理力を鍛える』(日科技連出版社)という著書
や、日経情報ストラテジーで2009年7月号から連載中の「なぜなぜ分析のここが落
とし穴」にまとめられている。
筋道の正しさは逆さに読んで検証
ここで本誌の連載記事を参考に身近な例を挙げてみよう。「パソコンのディスプ
レーが故障している」という問題があったとする。このときまず気にしなければな
らないのは、「事象の表現としてこれが適切かどうか」である。ディスプレーは
「まったく電源すら入らない」状態なのだろうか、「電源は入るけれども時々表示
がおかしくなる」状態なのだろうか?「表示が時々おかしくなる」とすると、表示
がどのようにおかしいのかをもっと具体的に表現できないか検討しなければならな
い。また、映らないのは特定のパソコンにつないだときだけなのか、ほかのパソコ
ンにつないだときもおかしいか、ということも現象を確認して反映する。
ここではひとまず「ディスプレーと、それ用のケーブルを、どんなパソコンにつ
ないでも時々色のバランスがおかしくなる」と事象を表現することにしよう。ここ
からさらに「なぜ」を出してみる。「ディスプレーのメーカーから供給されている
ドライバーソフトに不具合がある」「パソコンとディスプレーをつなぐケーブルが
断線しかけている」「ディスプレー内部の信号回路に不具合がある」「ディスプレ
ーの表示設定に不具合がある」――。このように信号の流れに沿って「なぜ」を挙
げてみた。小倉氏からは一つひとつの「なぜ」の表現に、まだ厳密さが足りないと
ご指摘を受けそうだが、ここは目をつぶっていただくこととして分析を先に進める。
ひとしきりなぜを挙げたら「筋道が正しいかどうかを逆さに読んで確かめる」、
というのが小倉氏の教えである。並列に挙げた「なぜ」が全く発生しなかったら、
問題は発生しなくなるだろうかを確認するのだ。すなわち「ドライバーソフトが正
常で」「ケーブルが断線しておらず」「ディスプレー内部の信号回路に不具合が無
く」「表示設定に不具合が無い」状態ならば、「正常にディスプレーは映るように
なる」かどうか、と考えてみる。
パソコンの接続作業を実際に行ったことがおありの方は、ここで要因漏れが
あることに気づくはずだ。「ケーブルの端子が酸化して、パソコンの端子との接触
が悪くなっている」および「ケーブルの端子が酸化して、ディスプレー本体の端子
との接触が悪くなっている」である。実はこのディスプレーの表示不良の事例は、
記者が経験したトラブルを思い出しながら書いているのだが、そのケースでは本当
の原因がここにあった。ケーブルの端子が酸化してしまっていたのだ。その時以
来、再発防止策として自分は必ず金メッキ端子のディスプレー用ケーブルを使うこ
とにした。
論理的飛躍も逆さに読めば気づきやすい
ほかの事例も挙げてみよう。「ITproに出稿するニュース記事の締め切りを時々
守らない記者がいる」という事象があることにする(あくまで仮定の話である)。
これもまだ事象の表現としてはアバウトだ。本当ならば、記者別の締め切り順守
率、もしくは記者がほかにどんな原稿を抱えているときに締め切りを守れないの
か、といった状況別の順守率などを把握したうえで、もっと分析対象を絞り込む
必要がある。ここでは「次号の特集記事を抱えている記者が、ITpro用ニュース記
事の締め切りを守れないことがある」と表現してみよう。
編集部で「なぜ」を出し合ってみたところ、いきなり「記者が時間にルーズだか
らだ」という「なぜ」が挙がったとしよう(あくまでフィクションである)。逆さ
に読んで筋道を確かめてみると「記者が時間にルーズである」から「締め切りを守
れない」という文章には明らかに飛躍がある。こう言ってはなんだが、時間にルー
ズな記者でも何とか締め切りを守ってもらうよう、上司がおだてたり脅したり、ほ
かの業務を後回しにさせたりしながら何とかやり繰りするのが雑誌編集部の日常と
いうものである。それに、そもそも「ルーズ」という言葉の意味があいまいすぎる。
では実際にはどう分析を進めるべきかというと「締め切りを守れない」という言
葉を時系列に分解して、「取材先の候補を探せなかった」「取材のアポイントメン
トを取れなかった」「取材のアポイントメントは取れたが取材のタイミングが締め
切りに近すぎた」「取材はしたが、ニュース記事にできるような情報を得られなか
った」「取材で情報は得られたが執筆に時間がかかった」といったように挙げてい
く必要がある。
正しい姿勢を身につけるため演習を
要因を挙げる都度、このように冷静に検証する姿勢が身につかなければ、分析シ
ートの完成度は高まらないものなのだ。基本的な作法は、小倉氏の著書や、本誌の
連載記事をお読みいただければひと通りご理解いただけるはずだが、覚えたてのう
ちは練習も必要だ。そこで、日経情報ストラテジーでは6月10日に「 改善・改革活
動の基礎スキル『なぜなぜ分析』演習付きセミナー ~正しく原因を掘り下げるコ
ツを学び、品質事故や業務トラブルの元になるヒューマンエラーを防ぐ~」という
セミナーを開催することにした。小倉仁志氏に講師を務めていただき、今回は特に
「ヒューマンエラーの再発防止」に重点を置いた演習課題をご用意いただき、ご指
導いただくことになっている。ぜひ「抜け・漏れ」そして「論理的飛躍」の無い再
発防止策の検討スキルを身につけていただき、商品や業務の品質を高める活動のけ
ん引役になっていただきたいと思う。ご参加をお待ちしています。
(井上 健太郎=日経情報ストラテジー)