ボディビルって、特殊な存在。普通、筋肉増強に励むのは、ある競技のため。野球なら野球、サッカーならサッカー、ラグビーならラグビーの筋肉増強の形がある。
野球選手がラグビー選手みたいな筋肉を付けても意味はない。
でも、ボディビルというのは、そういう目的はなく、単に筋肉を見せる競技。ある意味、肉体のありようでは、バレエダンサーのそれに近い。
長年、スポーツクラブに通っているので、そのタイプの人を見る機会は多い。そんな人を見ると、正直、何のために体を作っているのか、疑問に感じる。
そこまで、追い込んで肉体を作るのって、ある種のナルシズムを含んだオブセッションだと感じる。
映画「ボディビルダー」の主人公はまさに、そんな人物。
「ボディビルダー」★★★★☆
この狂気の男に共感する部分はまったくない。でも映画としては、追い込まれいく男の悲劇を巧みに描いている。そこが上手い。
主人公の男は、自分の喪失感を肉体改造で埋めようとしている。両親は悲劇的な死で、祖父と二人暮らし。
その両親のトラウマで精神的に不安定。彼にとって確実を感じられるのは、自分の肉体だけ。
そんな必死さがドラマの核。そして、主人公が必死になり、のめり込めば、のめり込むほど悲劇になる。
そんな切なさを映画は、冷静に描く。彼がもがけば、もがくほど、状況は悪くなっていく。まさに負のスパイラル。
アメリカの貧困層のリアル。行く場のない怒り。それが、救いのない、現実の悲劇を産む。
この孤独な男は、その渦中にいる。彼が現実逃避をするのはボディビルの頂点への夢想。その切なさが、切実に描かれている映画。
主人公にはまったく共感できないのに、この悲劇は「わかる」気になる。誰にでも、落とし穴はある。