聾唖の妻と健常者の夫、ふたりの夫婦の物語「幸せの、忘れもの」。この夫婦に子供が生まれる。しかし「子はかすがい」というふうにはならず、夫婦のバランスが崩れて行く。
「幸せの、忘れもの」★★★★☆
主演しているのは、リアルに聾唖者である監督の実の妹。それだけに、聾唖者の描写がリアル。ネット評では、彼女の要求が、わがまま過ぎる、という記述も多かった。
確かに、子供が産まれて、子育てが大変な時期、協力的な夫に対して「私と子供、どちらが大切?私を選んでほしい」というは、ある種の傲慢。
でも、ラストの15分の彼女の音の世界を体験すると、彼女がいかにストレスフルな生活を送っているかが理解できる。
それでも、あんな不満をストレートにぶつけられたら、夫としては、やり場のない怒りを抱えることになるだそう。
こんな展開にしたのは、障害があっても、美しく支え合う夫婦などいう絵空ごとではなく、現実の厳しさを、作者が見せたかったのだろう。
障害者だって、健常者と同じように生きる権利があるというのは、当然。でも、障害がある以上、制限が生まれるのも現実。身内に聾唖者がいるから描けた本音の映画。
観客としては、決して居心地がいい映画ではないけど、現実なんて、そんなものだろう。
ラストの擬似体験。これは、映画でしかできないこと。
これだけで、作品への受け取り方は変わる。こんな世界に生きていたのだと。このストレスフルな状況ならば、彼女の切実な訴えが、身に染みて理解できる。
その意味で画期的な作品。そして、映画はハッピーエンドではなく、曖昧なまま終わる。彼女が聾唖である限り、彼女の世の中への違和感はなくなることはない。
