横山秀夫の2009年の小説「ノースライト」。主人公は建築家。バブル以降、辛苦をなめ、今は所沢の小さな建築事務所で働いている。長野に建てた家が建築業界で評価されるが、この施主に問題があるという展開。
主人公が建築家ということで、物語の中に重要なキーマンとして登場するのが、ドイツ人建築家のブルーノ・タウト。ユダヤ人のタウトはヒトラーの台頭するドイツを離れ日本に亡命する。昭和8年、戦争が始まる前の3年半、日本で過ごした。
しかし、ドイツのナチス政権に気兼ねする当時の日本の政府はタウトの滞在は認めるが、建築の仕事はさせなかった。
タウトは日本を旅して、桂離宮などを訪問。そこに日本の美しさを認め(桂離宮を)「涙が出るほど美しい」と表現した。
タウトがいた3年半。建築の設計はほとんどしかった。(本人は「建築家の休日だった」と日記に書いている)
しかし、家具などを制作。その家具がこの物語の重要な意味を持ってくる。タウトのことを知ったのは仕事で京都御所や桂離宮に関わりを持った時。
日本の文化を一流建築家が認めてくれた、というのが、その後にも影響する評価だったようだ。桂離宮に関する資料を読むと、必ずといっていいほどタウトの名前が出てくる。
この小説の中には、このタウトに深い興味を持つ、群馬の新聞記者が登場する。これは横山秀夫自身がモデルなのだろうか。
(実は黒澤明もタウトの話を映画化しようと「達磨寺のドイツ人」という脚本を完成していたらしい)