24年映画は映画館で11「恋の花咲く・伊豆の踊子」川端康成が絶賛した田中絹代版。 | con-satoのブログ

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 昭和の時代に5度映画化されている川端康成の名作「伊豆の踊子」。初めて映画化されたのは1933年。この小説が出版された6年後の映画化。昭和8年のサイレント映画。5作品の中では名作中の名作と伝えられている五所平之介監督版。

 それを早稲田松竹で観た。国立映画アーカイブのような場所でないと日本のサイレント作品を観る機会はほとんどない、貴重な機会だった。

 吉永小百合版と山口百恵版を監督した西河克己が書いた「伊豆の踊子物語」によると、当初、松竹はこの映画を「地味すぎる」と渋っていたそうだ。五所平之助と田中絹代の豪華な組み合わせでも、なかなかウンとは言わず、映画化作品が原作をベースにしつつ、かなり大胆な脚色をした作品に仕上がっている。それゆえにタイトルがシンプルに「伊豆の踊子」ではなく「恋の花咲く」がメインタイトルで「伊豆の踊子」がサブタイトル。

 その大胆な脚色というのは踊子たちを率いる栄一にまつわる話。栄一はかつて湯河原の資産家の息子だったという設定。

 しかし、遊び人の栄一は金に困り、土地を手放す。そこに金鉱が発見されて、そこを買った湯川楼だけが金持ちになっている。この金鉱採掘に関わったヤクザのような支配師に、栄一は騙されたのだと知らされ、湯川楼に談判に行くという、まったく原作に関係のない物語が挿入されている。

 栄一の妹、ヒロインの薫が、その湯川楼の子息の花嫁候補なのだという設定。旅を共にする書生はその子息と大学の同窓で、その経緯を全て知ってしまうという展開。最後の別れのシーンで、書生はあなたには結婚できる相手がいると伝えている。

 まるで「金色夜叉」のような話が脚色されているのだけど、ヒロインを演じた田中絹代のことを川端康成は気に入り、作品のことも褒めている。今観ると、これが「伊豆の踊子」?」と思う。

 書生を演じているのは当時のスター、大日方傳。この人が昭和のスターかと不思議に思うほど洗練されている。まるで和製グレゴリー・ペックなのだ。

 巨匠ならではの品格もある作品。トーキーで観たい作品だった。田中絹代の後は美空ひばり、吉永小百合、鰐淵晴子、山口百恵で映画化された「伊豆の踊子」。この中では百恵が一番、原作のイメージに近い。西洋顔の鰐淵は論外にしろ、吉永小百合ではキレイすぎ、美空ひばりでは卑下た踊子になる。無口で純粋な14歳の役のあの時の百恵ほど適材な存在はなかったと、名作の誉れ高い田中絹代版を観て思った。