ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダースが日本を舞台にオール日本語で撮影した「PERFECT DAYS」。今年のカンヌ国際映画祭に出品され役所広司が男優賞を獲得したことも話題の映画。
「PERFECT DAYS」★★★★☆
見慣れた東京の風景がヴェンダースの目にはこのように見えるのだというのが新鮮。登場するのは、東京のありふれた光景。
大都会をひとり浮遊するように生きている役所広司演じる男。まるで名無しの男のように寡黙に、日々のルーティンをこなしながら淡々と生きる。
それが無機質に見える東京という街に見事に融合する。それでいて、描写は細やか。公園のトイレで母親とはぐれた少年。彼と手を繋いで母親を探す。やっと出会った母親は彼に感謝もせずに、
むしろ迷惑な顔をして、繋いでた手をウェットティシュでふく。役所広司の男は、そのようすに憤るわけでもなく、ただ苦笑いするだけ。
この描写だけでも、今の日本の大都市を的確に描いている。
柄本時生演じる、いい加減な清掃の仲間なども、見事に日本の鏡になっている。
魅力的なのは役所広司が車でかけるカセットから流れる60年代から70年代のロック音楽。
ちょっとオーバーな演出だけど、スナックのママ役の石川さゆりが歌う日本語の「朝日のあたる家」。ちあきなおみの歌唱で知られてるロック名曲のカバー。やはり、石川さゆり、うまい。ちあきとは、また違う説得力のある歌になっていた。
こんな細かな描写が、ことごとく見事。タイトル通り、完璧な出来。
ただ、個人的な好みでいえは、図式的に完璧すぎて、リアルさが浮く。
それと映画の本質とは関係ないけど、この映画が公開前にすでに、今年の米アカデミー賞に送られる日本映画の代表だということ。他に優れた日本映画がないなら納得もする。しかし、今年の日本映画には秀作が数多ある。ヴェンダース作品を送れば、ノミネートの可能性は大きくなるだろう。しかし、ここはピュアな日本映画で勝負すべきなのに。