毎日名盤第149回 クナッパーツブッシュのブラームス:交響曲第3番を聴く | Eugenの鑑賞日記

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 ブラームス:交響曲第3番 推薦盤 クナッパーツブッシュ指揮 ウィーン・フィル Profil 1955年ライヴ

 クナッパーツブッシュは、ドイツの大指揮者、もうなくなって55年がたとうとしている。かつて宇野功芳氏が称賛しており、日本にも愛好家は少なくない。その重厚かつ小細工のない、天衣無縫な音楽は、もはや現今の「スマートな」演奏からは聴くことのできない、魅惑的なものである。最近の演奏は、精密に、ゆがみなく楽譜を「再生」することには非常に優れている。そのことにケチをつけるつもりはないが、「再現」芸術という意味では、昔のクナだって、負けてない。余計なことを考えず、裸の心で作品に向き合う純粋な姿の健全さ、そして何たる高潔さ!そして、だれよりもスケールの大きく、大らかな演奏。宇野氏が「悪魔の高笑い」と評したというコムツァークのワルツ《バーデン娘》などでは、突然八茶けたり、チャイコフスキーの《くるみ割り人形》では、聴衆に微笑むように親しみやすい演奏をするなど、エンターテイメント性にも事欠かない人だが、ワーグナー、ブルックナー、それにこのブラームスでは、孤高の英雄の武勇伝のように、男気溢れる音楽を展開している。この演奏は、ウィーン・フィルとのザルツブルク・ライヴで、スタジオ録音でのくつろいだ表情のクナとは別の、汗をかきまくるクナが聴けるので、面白みに不足はない。

 第1楽章の冒頭から、遅いテンポでうねるように音楽は展開してゆく。クナの厳しく、己を律するような姿がここにある。展開部、それにコーダの爆発力もすさまじい。ずいぶんと余裕を持った進行のはずなのに、そのクライマックスの高揚感は誰にも負けないほどなのだ。

 第2楽章の平穏さは、ブルックナーの緩徐楽章を聴いているような感覚に陥る。とりわけ、コーダの深い呼吸は、星の瞬く夜空を映し出すようだ。

 第3楽章の濃密なテーマももちろん、クナに振らせたら天下一品。粘っこくなりすぎないが、全く薄味ではない。低弦のピッツィカートの味の濃さなど、他のどの演奏にも勝るだろう。主題再現部のなんという嘆きの歌!

 第4楽章の天が割れ、地の裂けるようなクライマックスは、クナならでは。怪獣がのっしのっしと襲い掛かってきているような威圧感、しかしやがてその怪獣が妙におとなしくなってしまい、ついにはすやすや眠りについてしまうようなコーダももちろん見事だ。

 演奏 ★★★★★

 録音 ★★☆

 総合 ★★★★★