『神々の山嶺』
作 夢枕獏、画 谷口ジロー
集英社
いつかこのアートコラムで漫画を取り上げようと思っていました。そしてついにその時がやってきました。
記念すべき1回目、それがこの作品です。
本当に1回目に相応しい。
この漫画を読むきっかけは
先日見に行った世田谷文学館の谷口ジロー展。
この展覧会で谷口ジローは「孤独のグルメ」のような庶民の何気ない日常を丁寧な絵で掘り起こしいくだけの漫画家ではないと知りました。
「描くひと 谷口ジロー展」世田谷文学館 | アートコラム Conceptual Cafe (ameblo.jp)
「神々の山嶺」は展示されていた漫画のひとつです。たった数ページの原画を読んで圧倒的なクライマックスシーンにびっくりし全巻読んでみたくなり迷わずまとめ買いしました。
残念だったのは本当にクライマックスシーンだったので、思い切りネタバレになっていたことですが、それでも全く期待を裏切りませんでした。
原作は夢枕獏の山岳ロマン小説。夢枕獏も漫画化できるのは谷口ジローしかいないと思っていて縁あってお願いをしたところ実現したそうです。
主人公はカメラマンの深町誠。ネパールの首都カトマンドゥの登山用具店で買った年代もののカメラを通して行方不明だった伝説のクライマー羽生丈二に出会い、その生き様に魅せられていつしか山を目指すようになります。
エベレストの頂きを目指す過酷な登攀の描写、
延々と続く山岳風景のコマ、コマ、コマ。
飽きが来るどころか、自分も山を登っているような錯覚が生じ身の危険を感じて極度の緊張状態に陥ってくる。
登山を全く知らない私がこれだけ魅せられるのは谷口ジローの圧倒的な画の力によります。
漫画において絵とは記号であると言われます。
実際は漫画家によるというのが正しく、谷口ジローが海外で評価が高いのは記号ではなく絵を描く漫画家だからです。
読んでいるうちに以前、アニメ「シン・エヴァンゲリオン 劇場版」のコラムで書いたのと同様に私のアート脳が発動しました。
もはやアートの域、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」 | アートコラム Conceptual Cafe (ameblo.jp)
漫画はアートではありませんが、優れた漫画はその境を乗り越えていきます。かつて浮世絵がそうであったように。
もちろん谷口ジローの絵は浮世絵とは違います。風景のアングルの捉え方は実写的です。細部の描き方は写実的ありながら、スクリーントーンをなどを用いていて見たままとは違う質感があり、対象である山を物質ではない崇高な存在として描ききっています。
リアルな山を描ける画家は限られています。才能と経験が必要です。
例えば吉田博。
没後70年 吉田博展 東京都美術館 | アートコラム Conceptual Cafe (ameblo.jp)
これと比べると、
セザンヌのサント=ヴィクトワール山や、
横山大観の富士山は山とはいえない。
谷口ジローもリアルな山を描ける漫画家です。対象と誠実に向き合い、手間と時間を惜しまず、一切手を抜かない。正攻法だから誰の目にも必ず伝わるものになる。それが世界でも愛される理由でしょう。
ちなみにこの漫画、昨年谷口ジローの評価が高いフランスで、Netflix でアニメ化され2021年11月から配信されています(何と日本は対象地域外)。
実際、漫画を越えるのは難しいでしょう。技術は進歩しているので、実写のような山岳風景を作るのは問題ないでしょう。しかし谷口ジローの画に目が引きつけられるのはペンでひと描きひと描き描きあげだからこそ生まれるオリジナリティで、同等のことを映像制作で行うのは大変な手間がかかります。
機会があれば見てみるつもりです。私の予想が裏切られるなら、それはそれで素敵なことです。
アニメ版は置いておくとしまして、
この漫画は読むべき一作です。
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