おあとがよろしいようで。
落語と言われて、私が語れる噺は日曜午後の笑点くらいのものだ。相撲中継と水戸黄門に並ぶ祖父母が見るテレビの定番だった。
それと中学、高校の文化祭。とかく落語家を呼ぶのが定番だった。費用も手頃で田舎のイベントで一番呼びやすいからというのが理由と推察する。
映画「GO」の一幕。友人から借りた落語を聞き入っていた主人公が隣の席に座った女性に何を聴いてるの?と訪ねられ、咄嗟に「ラップ?」と答えてしまう。そのシーンを何故かずっと覚えている。
「池袋ウェストゲートパーク」「木更津キャッツアイ」に続く宮藤官九郎脚本のドラマ「タイガー&ドラゴン」。落語の小噺を現代に擬え、人情劇を時にシリアスに時にコメディタッチで演じたどこかスタイリッシュな構成だった。

著者の佐藤多佳子さんを知ったのは、本屋大賞一位になった「一瞬の風になれ」を目にした時。「サマータイム」「黄色い目の魚」など思春期の淡く沸き立つ心模様を見事に描いた青春小説である。
それらと全く違う描き方をしているのが本作。特筆すべきは何といっても落語をモチーフに据えてるところである。
これといった話を持てず、自分の色を出せずに悩む、うだつのあがらない二つ目の落語家、今昔亭三つ葉。
ひょんなことから話し方教室を始める事になった彼は、その事をきっかけに自分の好きな落語を改めて見つめ直すようになる。
生徒1
おそろしく無愛想で口下手な美人
生徒2
クラスになじめない関西弁の少年
生徒3
解説の下手な強面の元プロ野球選手

江戸時代から続くとされる古典落語の随。腹を抱えて爆笑する噺ではないが、どこかクスッと笑いを誘われてしまう。
嫌いなものの話である男に一杯食わされる
「まんじゅうこわい」
茶席で繰り広げられるドタバタ劇に引き込まれる
「茶の湯」
古道具屋を営む夫婦のやり取りが笑いを誘う
「火焰太鼓」
浅草の雷門、浴衣と涙、置いていったほおづき、
平手打ち、小三文一門会、タイガースの帽子、小さな発表会。
同じ話を二度三度。しかし、話し手によって不思議と印象が変わってくる。それを文章のみで表現するとは、只々感嘆するばかりである。
しゃべれども、しゃべれども
未だ手応えが掴めずに途方に暮れる…
人の心を笑顔にするという事は、
かくも難しいものだと悟るばかりの日々
それでもまた演台に座っては
噺語りを続けていく毎日を繰り返す。

P.S 新潮文庫の担当者へ
「読後いい人になってる率100%!」
帯のキャッチコピーに目を引かれ、まんまと手に取らされた一冊。三つ葉のぶっきらぼうな言い回しも妙に心地よく感じる、今日この頃である。
今昔亭四葉(クローバー)より